「中米の日本だった」wyvern間瀬秀一監督が現地で感じたエルサルバドル

日本代表は今月15日午後7時10分に豊田スタジアムでエルサルバドル代表と対戦する。

過去に2019年6月9日に2-0で勝利を収めているが、日本では同国のサッカー情報が少ない状況だ。

そこで、過去にエルサルバドルでプレーしていた東海社会人1部wyvern間瀬秀一監督にサッカー事情や文化などを聞いた。

エルサルバドルに渡った経緯は理不尽から始まった

――まずはエルサルバドルへ渡った経緯を教えてください。

当時グアテマラ2部(デポルティーボ・)サンルイス・タルパで外国人選手としてプレーしていて、中心選手として活躍していたんですね。

ただ練習中に右足の腓骨を折ってプレーできなくなり、ギブス、松葉杖生活になったんですよ。

当時のグアテマラは契約書なんかも紙切れみたいなもので、プレーできなかった自分を平気で解任(一方的な契約解除)したんですよね。

プレーできないやつは出て行ってくれと。

――それは理不尽すぎますね…。

ちょうど(後に自身が入団するエルサルバドルの)チームがある街サンルイス・タルパがエルサルバドルとグアテマラの国境の近くだったんですよ。

治療をしながら時間があるときには、国境沿いに行ってエルサルバドルのサッカー事情を調べに行っていたんですよね。

国境沿いにいるエルサルバドル人と話をするうちに、「お前テレビで見たことある」みたいな感じになって(笑)。

グアテマラで僕がプレーし、それも見たことがあるっていう人がエルサルバドルにいて、「お前日本人でグアテマラの2部で活躍してる選手だって知っている」と言い出しました。

自分のサッカー人生で初めてセレクションを受験や、練習参加をせずに、話だけで契約が決まったんですね。

大ケガの中でつかんだ獲得オファー

――偶然間瀬監督を知っていたエルサルバドル人の紹介でですか!?

そうですね。その人の紹介でエルサルバドル2部のサンルイスが僕と契約したいとなったんですよ。

――そんなことがあるのですね。

まだそのとき、レントゲンで見ると(骨折した)腓骨が治りかけで、グアテマラの医者から「もう動いていいぞ」と診断されました。

それからグアテマラからエルサルバドルの国境を渡って知人の家に移動したんですけど、最初はエルサルバドル側の知人の家に潜んでいた。

チームからは「早く合流してくれ」とずっと呼ばれていたんですけど、自分の足が完全じゃないので、トレーニングしながら治るまで時間稼ぎしていたんです。

でも、あるときに「お前、来週来なかったらチームと契約はできない」と言われました。

――でも腓骨は完治してなかったのでは。

そうですね。ある日エルサルバドルの小学6年生くらいの子どもと、100m競争をしたんですよ。

痛みをかばって走ったら、その子に負けてしまったんです(苦笑)。まだ腓骨が治っていなかったんですよ。

――そこからよく契約できましたね。

当時の自分はどちらかといえば、ゴリゴリの走るフォワードでした。フォワードとしてプレーしたかったけど、まだ全力で走れない。

合流した1週間ぐらいは、生粋のトップ下のゲームメーカーのふりをして、あんまりスプリントしなかったんです。

そこで認められて契約が決まりました(笑)。そんな知恵も使いながらやっていましたね(笑)。

――すごいクレバーですね(笑)。当時は4試合3得点とかなり活躍されていたようですね。リーグのレベルはどうでしたか。

メキシコやグアテマラと比べたら当時のサッカーのレベルは少し下だと思いますよ。もちろんメキシコはレベル高いですけどすね。

『中米の日本』といわれる理由とは

――日本ではあまりエルサルバドルの情報がないのですが、エルサルバドル人の気質はどうでしたか。

まずエルサルバドルが当時『中米の日本』と言われていたんです。

シンプルに言うと、日本人に気質が似ている部分があるということです。

中米の人は、例えばメキシコ人だと陽気で、サルサを踊って、アミーゴと言って明るい。

中米の人は良くも悪くもトリッキーで人を騙すこともあります。

スポーツの現場ではトリッキーなことはいいことですし、ちょっと社会的においても人をトリックというか、騙すような習性もあるんですけど。

比較的エルサルバドル人は真面目で、相手をリスペクトしたり、協調性があります。中米の中ではすごく異質な感じがするんですよね。

――『中米の日本』と言われているとは知りませんでした。それは異質ですね。

でもその異質というのは、中米では異質なだけで、日本人に近い部分があったんですよね。

僕が腓骨を折ってギブスをして、松葉杖で歩いていたときの話です。

グアテマラからエルサルバドルの国境を渡るためにグアテマラ側のバスに乗った際、松葉杖をついて立って乗っている僕に誰も席を譲ってくれないんですよ。

でも国境を渡ってエルサルバドル側のバスに乗ったら、みんなが「お前座れ、座れ」と僕に席を譲ってくれた。

すごく相手のことを思いやる部分があるんですよね。

――すごく優しい国民性ですね。

サッカーのプレーも実際に自分が所属したチームは、すごく監督が僕自身にコミュニケーションをとってくれた。

「どこのポジションをプレーしたい?」とか、「このゲームだったらどこだったら活躍できる?」と話をしてくれました。

例えば前半は僕自身がフォワードでプレーしていたんですけど、あまりボールが回ってこなかった。

ハーフタイムに監督に「トップ下に(位置を)下げてくれないか」と言ったらOKが出て、トップ下に下がって自分がゲームメイクしてからゴールまで入っていくプレーをやれた。

デビュー戦になったカップ戦のトーナメントで2ゴールを入れて、0-1を2-1でひっくり返して勝ちました。

活躍ができたのもそういったエピソードがありました。

協調性を重んじる国民性

――意思疎通をしっかりして、相手の主張もしっかり受け入れる土壌があるのですね。

もう一つは練習中に若い選手が自分勝手でゴールが決まらない状況でも、シュートを打つ選手もいたんですよね。

でもそういう選手とも普段からコミュニケーションを取って「絶対この場面はパス。俺にパスを出した方が得点率は上がる」と話しました。

実際に点を取った試合で、2点目の決勝ゴールですね。

普段だったら自分勝手に無理矢理シュートを打つ選手がヘディングで自分に折り返してくれて、それを僕がボレーシュートで決めて2-1で逆転勝ちしました。

(所属した)期間は短かったですけど、監督、選手とコミュニケーションを取れて(サンルイス・タルパは)すごくいいチームでしたね。

――協調性があって、指摘されれば課題を克服する部分は中米でもかなり異質ですね。

本当に『中米の日本』という言葉通りですよね。

僕がメキシコやグアテマラでサッカーした経験から考えると、エルサルバドルでのプレーが一番ピッチ上で円滑にコミュニケーションを取ってコレクティブなプレーができました。

だからといってエルサルバドルリーグ自体が、エルサルバドル代表が、そうだとは言えません。

ただ当時そういう強烈な出来事というかエピソードがありました。

明らかにメキシコやグアテマラとはちょっと違いますね。

――よく中米は治安が悪いといわれますけど、エルサルバドルは如何でしたか。

エルサルバドルは治安が悪いと正直感じなかったんですよね。

治安が悪い場所だと、メキシコやグアテマラだと「この辺やばいな、危ないな」という場所がすぐ見つかります。

エルサルバドル首都のサンサルバドルや、自分が行ったサンルイス・タルパ(チームのホームタウン)では、そういう空気やそういう場所は感じなかったんですよね。

ただその当時のエルサルバドルは先進国ではなかった。人が亡くなるような交通事故を目の前で見たこともありました。

チームワークとインテリジェンスに長けたスタイル

――穏やかな気質ではありますが、サッカー戦争が勃発した国ですからサッカーに対する情熱はすごそうですね。

グアテマラやメキシコに比べてサッカーのレベルはちょっと落ちたと思うんですけど、ただサッカー熱はありましたね。

スポーツ紙、サッカー雑誌とかサッカーの新聞が本当にいっぱい出ていましたし、みんな読んでいました。

サンルイス・タルパに日本人として選手として初めて行ったときには、町中の人が僕のことを知っていました。

――エルサルバドルでのプレーが23年前になりますが、今月15日にエルサルバドル代表と対戦します。楽しみですか。

楽しみですよね。当時自分が感じていたエルサルバドル人、そしてエルサルバドルのサッカーがいま、ときを経てどうなっているのか。

当然、日本の方がFIFAランクも含めて、恐らくレベルは高いと思います。それに対してどこまで現代サッカーをやれるのかが楽しみで仕方がないです。

――『中米の日本』という特性を考えると、チームワークや、連係の部分で強みを見せてきそうですよね。

そう思いますよ。

その上で高い個の能力を持った選手が自分のチームにもいました。

リーグ全体で見ても優れた個の能力を持った選手がいました。うまく(個の能力とチームワークが)調和してチームとしてコレクティブに機能したら、現代サッカー(の視点でいえば)エルサルバドル代表が結構強い可能性はあるかもしれません。

――中米はドリブルの突破力や体を激しく当てる守備などを武器にしている選手が多いですけど、見ていて衝撃を受けたプレーなどはありましたか。

中米だと、ホンジュラス人はすごく体が大きくて強かった傾向があります。

僕の認識だとエルサルバドル人はフィジカルが強いとか、体がでかいとか、そういう認識は全くないです。

エルサルバドルは、どちらかというと技術と戦術だと思うんですね。

エルサルバドル人の優れている部分は、インテリジェンスとテクニックのところだと思います。

『中米の日本』と呼ばれるエルサルバドルは日本を相手にどのようなサッカーを見せるのか。未知のサッカーを見せる相手との一戦から目が離せない。

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この他にジェフユナイテッド市原・千葉時代のイビチャ・オシム監督とのエピソードや間瀬監督自身のキャリアについてのエピソードを順次掲載する。

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