<社説>旧優生保護法の被害 「負の歴史」究明と救済を

 法の名の下にここまで深刻な人権侵害が続いていた事実に戦慄(せんりつ)する。「負の歴史」の究明は始まったばかりだ。徹底検証と被害者の救済を急がなければならない。 旧優生保護法下で障がい者らに不妊手術が強制された問題で、立法経過や被害実態に関する国会の調査報告書原案の概要が公表された。不妊手術が福祉施設への入所や結婚の前提条件とされたり、他の手術と偽ったりした事例が確認された。

 この法律が制定されたのは1948年である。食糧難を背景に、人口抑制策として議員立法で成立した。「不良な子孫の出生防止」を掲げ、本人の同意がなくても知的障がいや精神疾患、遺伝性疾患などを理由に不妊手術や人工妊娠中絶を認めた。

 基本的人権の尊重を規定した日本国憲法の下で、障がい者らの人権を著しく侵害する法律が議員立法で作られたことに驚く。障がい者差別に当たる条文が削られたのは成立から約半世紀を経た96年のことだ。国の統計によると約2万5千人が手術を受けた。

 極めて重大な国家犯罪と言うほかない。しかも、報告書原案概要によると、旧優生保護法の成立過程で「批判的な観点から議論がなされた形跡はなかった」という。人権意識が希薄だったのである。

 衆院の三ツ林裕巳厚生労働委員長は被害者に対し「国会に身を置く一人として真摯(しんし)に反省し、心からおわびしたい」と述べた。参院の山田宏厚労委員長は「負の歴史を踏まえなければいけないと改めて感じた」と語っている。謝罪の言葉だけでなく、具体的な行動が求められている。

 2018年に宮城県の60代女性が「重大な人権侵害なのに、立法による救済措置を怠った」として損害賠償を求めて国を提訴して以来、各地で国賠訴訟が起きている。原告となった被害者は高齢化しており、他界した人もいる。

 不妊手術を強いられた被害者への「反省とおわび」と一時金320万円の支給を盛り込んだ救済法が議員立法で19年に成立した。しかし、支給認定は千人程度にとどまっており被害者救済が進んでいない。救済法制定に携わった超党派の議員連盟は24年4月の請求期限を延長する方向で検討を始めている。

 政府は、誤った法律で苦しめられた人々の救済に全力を挙げなければならない。旧優生保護法の改正から救済法制定まで23年を要した。被害者救済はあまりにも遅れた。この法律によって引き起こされた人権侵害と正面から向き合う必要がある。

 調査報告書は19日に全文が公表される。より詳細な被害状況が明らかになるだろう。しかし、これで十分とは言えない。多くの被害者から直接話を聞き、「負の歴史」の実相を明らかにするべきだ。その上で国の過ちについて明確に謝罪し、さらなる救済策を講ずるべきだ。

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