「生きた証し」俳句歴60年、淡路島の97歳女性が句集出版 2200句から厳選253句 文化功労賞受賞を機に製作決意

出版した「龍の玉」を持つ奥村幸子さん=淡路市役所

 約60年間で約2200句の俳句を詠み続けてきた兵庫県淡路市の奥村幸子さん(97)が、句集「龍の玉」を自費出版した。自宅周辺で見られる四季折々の風景、子育ての一こまなど身近な生活の中で選んだ題材に気持ちを込めた。厳選した253句を収め「俳句は心の支え。生きた証しを残せるなんて、胸が張り裂けそうにうれしい」と喜ぶ。(中村有沙)

 俳句を始めたのは、農業をしながら、2人の娘の子育てに奮闘していた30代後半。中田小学校へ出向いた際、俳人だった教頭に勧められた。詠み始めてほどなく、地元・中田地域の俳句グループ「中田寒菊会」の設立にも携わった。

 当時、東京で俳句を学んだ同市生穂出身の俳人が地元住民に教えており、生穂、佐野地域は熱を帯びていた。戦後の復興期を少しすぎたころ。「まだ楽しみを見つけられるような時代ではない。だからこそ皆、俳句に熱中したのかも」と振り返る。

 毎月、15句ほどを詠んだ。自宅から見える山々やサクラ、落ち葉などをよく観察し、題材にしたほか、子育て中の何げないエピソードも句に表現。月1回の句会などで披露した。

 「ただ歩いているだけでも、何か詠めないかと風景を見渡し、考える。こういう時間が、人生の支えになっていた」と奥村さん。97歳の今も変わらない。

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 昨年、長年の活動が評価され、淡路島内で優れた文化活動に取り組む個人や団体を表彰する「淡路文化協会文化賞」の文化功労賞を受けた。この受賞を機に「思いがけない賞。今までお世話になった人に感謝の気持ちを表したい」との思いを強め、句集を作ろうと思い立った。

 奥村さんは主に、横に長い紙をジャバラのように折りたたんだ「折手本」に句をしたためてきた。現在は24巻に上る。今回の句集に掲載した作品は、この折手本にふせんを張るなどしながらじっくりと選んだ。

 1961年から2022年までに詠んだ句を掲載。現在に近い作品は、長生きについて詠んだものが目立つ。

秋風や余生の向きを替えてみる

 8年前に先立った夫を思って詠んだ。夫が亡くなったのは8月30日。9月に吹く風を感じて「これからどうして生きていこうか」という気持ちを句に込めた。この作品は、20年度のNHK全国俳句大会で佳作を受賞した。

 「生きてきた最後の仕上げ」。句集は奥村さんにとってそんな存在だ。「この歳になると最期が見えてくる。自分の句を残したい、皆に見てもらいたいという思いが強くなった」

 約100冊出版し、17冊を島内3市へ寄贈。各市の図書館や図書室で見られる。母校の津名高校にも贈り、同校図書室と同窓会館で読める。

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