6・7月は生かぶりトウモロコシ!? 採れたてなら茹でる・蒸すよりナマが魅力

初夏を告げる野菜・トウモロコシの食べ方といえば、茹でる、蒸す、焼くが一般的だ。しかし、産地ならではのとっておきの食べ方が、”生かぶり”という事実をご存知だろうか。香川県観音寺市の農家、三宅賛希(よしき)さんは、その美味しさに魅了され、「生で美味しいトウモロコシ栽培」に情熱を注ぐ。6月から出荷最盛期を迎えている「朝採りトウモロコシ」をリポートする。

糖度18度の品質保証

「まだ、若いですね」。畑から大ぶりのトウモロコシをもぎ取ると、皮を豪快に取り除き、生のままガブリ。三宅さんは自身の”味覚センサー”で最適な収穫日を判断している。筆者もかじってみたら、シャキシャキのみずみずしい食感と甘さが口に広がった。

白と黄色の粒が混ざっている「ドルチェドリーム」。ぎっしり粒が揃ってキラキラしていた

三宅さんは別の畑に移動し、もう一度味見すると「最適の食べ頃です」と教えてくれた。筆者ももう一度、ガブリ。「確かに、さっきよりも断然甘いです。深い味わいの甘さがありますね」と感想を伝えた。

植え付け時期が異なる複数の畑で、出荷日が少しずつズレるように栽培している。「(生なら)収穫から1日以内に食べてほしい」と三宅さん。白と黄色の粒が混ざる品種「ドルチェドリーム」を70アールの畑で栽培し、6月から7月にかけて日の出前に収穫する。ピーク時は、一人で1日に1,500本を採った。

「今朝は1時間半で500本を収穫しました。トウモロコシは朝日を浴びると、実の中に閉じ込められていた栄養分が葉に移ってしまうので、日の出までが収穫の勝負。この畑は、山かげになっているので30分だけ余分に仕事できるんです」

受粉が終わるとトウモロコシのヒゲが茶色くなるので、茶色から焦茶色が食べ頃の合図

出荷のタイミングは「ナマで美味しく食べられる」ことを最優先。収穫作業を終えると、その日のうちに産直などに搬送している。「通常の流通ルートに乗ると、店頭に並ぶのは翌日になってしまうので、自分で運んでいます」。三宅さんのトウモロコシと出合った人に、必ず「生かぶり=美味しい」という体験をもたらすことができるよう、奮闘していた。

”生かぶり”いつから?

香川県内では、伝統的にトウモロコシの”生かぶり”が定着しているのだろうか。三宅さんによると、答えは「ノー」。その美味しさを知らない消費者も、まだまだ多いそうだ。店頭で試食してもらうと、「なにこれ、美味しい」と驚く客が多く、「そんな場面に遭遇すると嬉しい」という。

三宅さん自身は6年ほど前”生かぶり”を知った。農家の子どもが生で食べていたのがきっかけ。「本当に食べられるの?」と試したところ、独特のシャキシャキ感があり、美味しさは抜群だった。

それ以来、”生かぶり”できるトウモロコシの育成に熱意を注いだ。三宅さん独自の工夫として、減農薬栽培の一環で酵素や乳酸菌を使っている。土壌に乳酸菌を混ぜたり、成長したトウモロコシに酵素をふりかける。味わいを良くし、病原菌を減らす意味がある。

収穫したての三宅さんのトウモロコシ。1本400グラムくらいと立派だ

一般的なトウモロコシは、糖度14〜15度(JA香川県調べ)だが、ドルチェドリームは高い糖度が自慢。三宅さんは18度前後で出荷しており、中には20度以上も。サイズは3Lで、1本あたり400〜500グラム。新鮮なトウモロコシは実の表面にシワがなく、粒と粒の間に隙間がないという。

三宅さんは、20代で農業の道に入って6年目。子どもの頃から、祖父の農作業を手伝うことが好きだった。三豊なすやブロッコリーなど、年間15品目ほどを栽培している。パートナーは、ベトナム人の特定技能実習生2人と母親の3人だ。

「会社員になって決まった給与をもらうより、自分で頑張った分の収入を得られるところが農業の魅力だと思いました。それに、食べることは、どんな時代になっても続くので農業は大切です」

香川県内では、200ヘクタール程度のトウモロコシ畑でスイートコーンが栽培されている。ドルチェドリームは栽培が難しい品種で、観音寺市内で栽培しているのは三宅さんだけだ。

高松市内で開かれた収穫体験会で、自分で選んだトウモロコシを抱える子ども

「同じ農業をするなら、自分で美味しいと思える面白い野菜を作りたいと思います。食べた子どもたちが笑顔になってくれたら、一番嬉しいです」

ヒゲも食べられる!

新鮮なトウモロコシを”生かぶり”できる期間は、収穫から3日程度と限られている。そこで、次におすすめの食べ方を聞いた。

「茹でると美味しさがお湯に逃げるので、実はNGです」と話す。軽く塩をまぶしてラップで包み、レンジで5分くらい加熱すると良いそうだ。

「トウモロコシごはん」は、ご飯よりもトウモロコシの甘みが際立っていた

「トウモロコシのヒゲも食べられますよ。天ぷらや素揚げにすると、香ばしくて美味しいんです」と三宅さん。ベトナム人の実習生が「捨てるのは、もったいない」と食べ方を教えてくれた。ジクもトウモロコシご飯と一緒に炊くと、出汁代わりに使える。

全国的には、北海道がトウモロコシの収穫量トップ。北海道観光振興機構などによると、「ナマで食べることは、それほど広がっていない」という。高松市内の農園では収穫体験が開かれ、生で食べる楽しみを発信している。

「ピーク時は一人で、1日に1500本を収穫しました」と話す三宅さん。人生のパートナーと二人三脚できる日を夢見ている

三宅さんのトウモロコシは、高松市のショッピングモール「ゆめタウン高松」や丸亀市の産直「讃さん広場飯山店」などの店頭に並ぶ。今年の夏は、”生かぶり”トウモロコシを生産地で体験してほしい。

さぬきクロスケ

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