川崎鷹也(シンガーソングライター、俳優) - 映画『魔女の香水』この作品のために何ができるかしか考えていなかった

自分の満足度で言うと80%くらいです

――映画『魔女の香水』で俳優初挑戦ということですが、どういう形でオファーがあったのですか。

川崎鷹也:

最初は主題歌でのオファーでした。楽曲を書かせていただくにあたり宮武由衣監督とお話をしている中で「演技に興味はありますか。」と聞かれ、「いつかチャレンジできる機会があればやってみたいです。」と答えたところ出演させていただくことになりました。

――作中でも重要な役どころですが、いかがでしたか。

川崎:

最初は「あそこの人、主題歌を歌っている人じゃない。」くらいのカメオ出演のような形かなと思っていたのですが、実際はすごくセリフのある役でビックリしました。

――脚本を読まれていかがでしたか。

川崎:

河原優也という役をいただいてから脚本を読んだので、このセリフを僕が言うのかとあまり純粋に読めなかったです。物語を頭に入れるというよりはぐちゃぐちゃした状態で読んでいました。演技に関しては未経験で不透明な部分も多かったので、不安もありましたね。

――役作りで大変だったことはありましたか。

川崎:

河原は僕自身とそれほど離れていないキャラクターだったので、役作りで特に大変だったということはありませんでした。僕自身が純粋に恵麻を応援する気持ち・思っていることをそのままセリフとして出せました。

――だから、初演技でも自然な姿で演じられていたんですね。

川崎:

そう観えていたのであれば良かったです。

――音楽も演技も表現するという意味では同じだと思いますが、実際に両方を体験してみて違った部分はありましたか。

川崎:

音楽との大きな違いは正解を監督が持っていることです。音楽では僕が答えを持っているので僕が主導でやりたいように表現できますが、演技は相手がいて・演出家がいて・監督がいて・スタッフのみなさんもいるといういろいろな視点があることが違いますね。だからこそ独りよがりではダメで、相手との間や表情・監督の意図・このカットは何を言いたいのかを考えるのですが、それは新鮮な経験でした。実際に体験してみて、改めて俳優の皆さんは凄いなと思いました。

――ご自身の演技は満足度で言うと何点ですか。

川崎:

自分の満足度で言うと80%くらいです。演技の内容やセリフの言い方など技術的なことで言うと2点くらいですけど(笑)。その時に出来る自分のMAXは出し切りました。ですが、撮影を重ねていくうちに初日のあれをこうやっておけばよかったなどが出てきました。映画を観返しても最初の余裕なさが出ていました(笑)。

――そんなことはなかったです。凄く自然体で初めての演技だとは感じませんでした。

川崎:

ありがとうございます。何事もそうですが、回数をこなせばこなすほどあれをこうすればよかったという後悔は出てきますね、その部分が20%ありました。ですが、初日から全力を出しているので、後悔ないです。

――共演された方を間近で見られていかがでしたか。

川崎:

凄いところだらけです。日常生活で緊張して過ごすことなんてないじゃないですか。なので、演技するにあたって緊張している姿を見せてはいけないと思い臨みましたが、みなさんは正にそれを体現されていました。みなさんもある程度の緊張感を持っているとは思いますが、全くそれを感じない自然体で演技をされているので凄かったです。

河原目線で見た恵麻をイメージ

――映画に出演されたことで主題歌の書き方も変わった部分はありましたか。

川崎:

変わりました。現場で桜井日奈子さんの表情や演技、セリフもいろんな言い方で届け方ようとしている姿を観れたことは貴重な経験でした。この曲は現場の雰囲気・空気感・桜井さんの笑っているイメージ盛り込みたいと思い、撮影現場で書いたんです。

――だから、作中のワンシーンを切り取ったような歌詞になっているんですね。

川崎:

ありがとうございます。『オレンジ』は爽やかな曲をイメージして書いています。テーマでもある“香り”や“髪がなびく”など抽象的な部分は映画のワンシーンを切り取って歌詞として落とし込んでいて、映画とともに曲を聴いてもらえるとより『オレンジ』の世界観が伝わると思います。河原は成長していく若林恵麻を見守っているという役回りなので、河原目線で見た恵麻をイメージして書きました。

――タイトルが『オレンジ』なのはなぜですか。

川崎:

映画の中で「キンモクセイ」というワードが出てきますが、キンモクセイの花をイメージして付けました。黄色のキンモクセイの花もありますが、僕の幼少期の記憶ではキンモクセイの花はオレンジ色なイメージなんです。

――普段とは違う楽曲制作を体験したことで、制作スタイルで変わったことはありましたか。

川崎:

今回映画出演したことで、いろんな角度の目線があるなということに改めて気づきました。例えば、僕から見た奥さんと奥さんから見た僕はもちろん違っていて、僕たち夫婦を見るチームの目もまた違ったものがみえているんですよね。今回演技を経験したことで河原目線の恵麻だけではなく同僚からの恵麻があることが分かって、それは映画だからという訳ではなく日常からそうなんだということに気が付いたんです。これからはいろんな目線のアプローチを楽曲に取り入れたいと考えています。

チャレンジすることを怖がらないで欲しい

――『魔女の香水』は迷いのある中で恵麻が成長していくお話です。いま将来を迷っている人にこういうところを感じてほしいということがあれば伺えますか。

川崎:

僕も高校生のころ音楽をやるかどうか悩みました。恵麻もそうですが、何か行動を起こすときに悩むのはみんな同じだと思います。今作では香りや香水がキッカケで行動が変わっていきますが、そのキッカケは人によってそれぞれだと思います。それは先生の一言や親や友達の一言かもしれないし、たまたま見た映画や聞いた音楽がキッカケになるかもしれません。行動することで得られるものがあるので、チャレンジすることを怖がらないで欲しいですね。

――恵麻は魔女さんこと黒木瞳さんが演じる白石弥生との出会いも変わるキッカケとして大きいですが、川崎さんにとっての大きな出会いは何ですか。

川崎:

奥さんや仲間たちいろんな人に出会い・力を貸していただけここまで来ることができたので、1つというのは難しいですね。仕事に関していうと僕はこの人とやることに意味があると感じた人と仕事をしています。元々メジャーデビューにそれほど興味はなくインディーズで良いと思っていたのですが、事務所の社長と出会い、ワーナーの皆さんと出会いったことで、一緒に仕事をしたいと感じてメジャーデビューすることになったので、音楽活動という面では事務所の社長との出会いは大きいですね。

――これからチャレンジしていきたいことはありますか。

川崎:

最近は海外のいろんなところに行ってみたいなと思っています。僕は海外の経験が新婚旅行でのハワイしか経験がないんです。なので、いろんなところの空気や匂い、景色を感じてみたいなと強く感じています。

恵麻の持つ強さを桜井さんからも感じました

――映画ファンとして観た映画『魔女の香水』はいかがでしたか。

川崎:

自分の出てくるシーンはドキドキしましたが、一観客として映画『魔女の香水』が楽しむことが出来ました。物語が進むにつれて恵麻の背筋が伸びていきますが、その姿は素敵でしたね。最後の胸を張って歩く姿は桜井さんにしか出せない姿だと思います。いろんな登場人物がいて、出会いがあって、変わっていきますが、周りからの言葉は1つのキッカケに過ぎなくて、それを受けて行動を起こしていく恵麻の姿が本作の見所だと思います。ラストの恵麻の表情・姿を観て、「成長したな、恵麻」という感覚になりました。

――恵麻は強い女性ですよね。同僚がセクハラを受けていたら助けるし、生活のためならどんな仕事も、派遣先で手柄を横取りされたら起業して。人として強いなと思いました。

川崎:

そうですね。

――実際の桜井さんはどんな方でしたか。

川崎:

明るい方でした。僕が俳優業初めてということも知っているので、凄く気遣ってくれて、僕がやりやすい空気を出してくれていました。僕はミュージシャンなので、「この現場にいていいのか」と気持ちも最初はありましたが、桜井さんのおかげで「ここに居ていいんだ」と思えるようになりました。演技のこだわりや台詞のタイミングも細かく宮武監督とすり合わせしていて、恵麻の持つ強さを桜井さんからも感じました。

――宮武監督は現場でお話しされたことはありましたか。

川崎:

「僕で大丈夫ですか」とずっと聞いていました(笑)。本当にゼロで分からないことだらけなので、宮武監督には「全部言って欲しいと」伝えていました。自分なりに河原という役を落とし込んではいますが、監督とのずれはどうしても出てしまうので、なのでカットがかかるたびに「監督、合っていますか」と聞いていました。

――それだけ、距離の近い、話さえる現場だったんですね。

川崎:

そうですね。僕は演技に関しての実績もないですし、こんな言い方はあれですけど失うものが無いので、作品のために聞いていました。この作品のために何ができるかしか考えていなかったです。

――未経験の場所だと委縮して聞くことすらできないこともありますから、その勇気を持っているのが素晴らしいです。

川崎:

ありがとうございます。

――その雰囲気は河原からも感じ、男も負けてんじゃないぞとエールを送っていただけているようでした。

川崎:

ありがとうございます。本当に映画は初めてなので、僕のつたない演技をどう捉えていただけるんだろうという不安もあります。今作は香りがキッカケで行動する・アクションを起こします。僕もサラリーマン経験がありますが、働いているといろんな理不尽なこともあって上手くいかないこともいろいろと巻き起こっていると思います。そういった人もこの映画を通して明日から頑張ろうと自分を鼓舞する映画になればいいなと思います。この映画でいう香りのように自分にスイッチを入れるきっかけを見つけてくれると嬉しいですね。

ヘアメイク:髙徳洋史(LYON)

©映画『魔女の香水』製作委員会

© 有限会社ルーフトップ