【埼玉県川口市 クルドの現場を行く③】学校に行かない子どもたち|西牟田靖 在日クルド人は日本語力・学力が乏しい。それは1世はもちろん、幼少期から日本で育った2世であってもその傾向がある。「ワラビスタン」で繰り返され、住民が辟易している迷惑・犯罪行為の原因はそこにあるのではないか。今回は在日クルド人2世と教育について考えてみる。

「デモに行くので欠席します」

ゴールデンウィーク前から6月初旬にかけて、入管法改正に反対する各地でのデモやSNSでの発信が相次いだ。なかには、ワラビスタン(埼玉県蕨市・川口市のクルド人が多く住む地域)在住のクルド人自身がおこなっているものもあった。

《ゴールデンウィーク直前に行われた国会前デモ。子どもたちが在籍する小学校には「デモに行くので欠席します」と通告があったという》

そのひとつを見て、僕は違和感を覚えた。というのも、小学生レベルの日本語力すらおぼつかないツイートを見つけたからだ。

しっかり勉強し、大学まで行った2世もいる。そうした優秀な2世は例外で、在日クルド人は全体的に、2世であってもかなり日本語力・学力が乏しいのではないか。だからこそ、人生が切り開けず、不良行為に走ったりするという、悪循環に陥ったりしているのではないか。暴走行為に走る2世がいることを知っただけにそう思えてならなかった。

《少なくとも時速100キロ以上のスピードで運転。片手でスマホを操作し、ドリンクホルダーにはレモンサワー。地元の人によると20歳のトルコ系住民とのこと》

彼らの日本語力、そして学力はどうなのか。また不良行為との関連性はどうなのか。調べてみることにした。

まともな教育を受けないまま成人した

入管法改正反対を訴える仮放免中のトルコ系住民2世。アカウントは伏せるが、なかにはこうしたツイートを見つけた。

川口市に暮らす仮放免中の女子高生が、入管法改悪反対の意思表示として、段ボール紙に直筆で次のように書いている。

「仮放免で働くことができないのでどうやって生て行けばいいですか?」

僕は文面をみてすこし驚いた。「生きて行けば」と書くべきところを「生て行けば」と書いており、小学生レベルであるカナ交じりの簡単な日本語が正確に書けていなかったのだ。

またそれとは別に、石井孝明さんが書いた川口のクルドルポに対して、ツイッター上で次のようなリプが寄せられている。以下、原文のまま抜粋してみよう。

「日本人なのかんけもなく!! トルコ人クルド人できことです あのときある夏の日クルド人ビークAのスパで卵牛丼パン買って家にかいる」

「!!おまいさんが ここでむだなー くちたたいてるころは!! クルドのみんなさんあさの4:30おきて仕事ばむかてるそしてよる20:00ごろに家もどるかすりくていきてるんじゃないだよ まいにちまいにちはたらいて がんばてるんだ社会保年もなしじみんひうもなしで!! おまいみたいなやつの10倍がんばてる」

これを読み、僕は首をかしげた。日本語の読み書きができなくても、翻訳アプリを援用すれば、今や簡単に日本語が書ける。それができないというのはなぜなのかと。

調べてみると、この文章を書いた人物は難民申請中の仮放免2世であった。日本でいうと小学校の高学年のときに来日、小学校に6カ月だけ通い、その後は、解体業者として働いているという。つまりは、日本語はもちろんまともな教育を受けないまま成人したのだ。

学校にも行かず、午前中からウロウロ

5月15日の午後3時すぎ、川口市前川~芝下というクルド人が多く住む一帯を1人で歩いてみた。

その時間は、小学生の下校時間。午後4時ぐらいまでの間に、学校からの帰路についているトルコ系の子どもを見たのは小学3~4年生の男の子ひとりだけだった……。

しかし、トルコ系の子どもそのものはそこら中に見た。頻繁に車の行き交う道路の信号を無視して自転車で横断する子がいたり、中学生ぐらいの女の子と小学3年ぐらいの男の子が自転車で連れ立って移動していたり、小学2年ぐらいの男の子数人がコンビニの前でお菓子の包装紙やペットボトルのコーラを駐車場に散乱させたまま去って行こうとしたり――。

夕方には、クルド人が多く住んでいるというマンションの3階の外廊下で5~10歳ぐらいの女の子を最大10人ほど見た。彼女たちはかくれんぼか、だるまさんが転んだのような遊びをしていて、狭い廊下を走ったり、階段を駆け下りたりしていた。うっかり下に落ちてしまうんじゃないかと僕はそのとき冷や冷やした。

こうして子どもたちの様子を見て思ったこと。トルコ系の子どもたちは、大人の干渉を受けず、というか躾をまともにされず、放置されているように見える、ということだ。

《夕方、コンビニ前の駐車場でゴミを散らかす男の子たちがいた。注意しようとすると逃げていった》(撮影:筆者)

こうした印象は、僕だけが抱いたのではなかった。しかも躾をされていないゆえの傍若無人さを見せているようだ。地元住民たちは言う。

「子どもたちは学校にも行かずに午前中からウロウロしている」

「何人もの子どもが自転車で信号無視したり、蛇行運転したりしています」

「歩いていたら、後ろから自転車で激突されました。思わず『痛い』って叫んだらびっくりしたのか蜘蛛の子を散らすように逃げていきました」

「お祭りなどでクルド人の子どもは並ぶことを知りません。子どもが力ずくでお菓子を奪っていくので注意するんですが無視されました」

「子どもが歩きタバコしている姿を見ると本当にどう成長するのか不安でしかない」

日本の義務教育はもちろん、祖国ですらまともに教育を受けていないならば、ルールを守るということの大切さを理解することは困難なのではないか。読み書きが不自由ならば、教習所に通って運転免許を取得すること自体、難しいだろう。

《外廊下で遊んでいる女の子たち。落下しないか心配になった》(撮影:筆者)

教育は必要ないと考える親たち

川口市議会議員である奥富精一氏は2世たちの教育について次のように述べた。

「クルド人など外国人に授業を教えている現場の教職員から聞いたのですが、そもそも小学校のカリキュラムに問題があるそうです。たとえば小学校4年生の年齢の子どもが転入して来ると、学力関係なくいきなり小学校4年生のカリキュラムを教えるので、ついて行くのが大変なんです」

クルド人の子どもたちは他の外国人に比べて学力がかなり低い傾向にあるという。

「読み書き加減乗除(四則計算)できない状態で転入してくるのが普通です。それまでの生育でしっかり教育を受けてこなかったし、日本にやって来ても、読み書きに熱心に取り組まない。それは他の国の子どもよりもその傾向は顕著です。ずっと日本で暮らしているので、日本語はみなさん理解しています。特に若い世代はわかっている。だけど、読み書き加減乗除はできないままなんですよ」

クルドの子どもたちが学ばない一因は、親が教育に関心がないからだ。たぶん、その親も教育をまともに受けてこなかったのだろう。

「教育なんか必要ないと思っている親が多いんです。だからこそ、男の子は中学生にあがる年齢から働かせるのが普通です。一方、女の子は勉強を続け、中学校までは行っています。現状では、中学に通っているのはほとんど女の子だけというのが実情です」

高校に進学するのは少数派なのだろう。僕が街中で話を聞いたクルドの若い女性も中学校しか出ていなかった。

「日本に来たのは9歳のとき。(トルコ東部にあるクルド人が多い)ガジアンテプから来たクルド人です。学校は中学校でおしまい」

彼女は学歴が中学で終わってしまったことをとても残念そうに話した。本人はもっと勉強し、日本人の同級生たちと一緒に進学したかったのかもしれない。

部族社会と日本社会の狭間で

最後に、地元のクルド人社会に詳しい方のツイートを2つ紹介してみたい。

この2つがどこまで信憑性があるのかはわからない。

しかし2つに共通しているのは、働くのは男、女性には厳しく行動制限を加え家事と子守を強要するという部族社会がここ日本でも行われているということだ。日本で育った2世たちは、自分たちの仮放免という厳しい処遇や学歴のなさに加え、部族社会と日本社会の狹間でもがき苦しんでいるということは容易に想像がつく。

入管法改悪反対を叫ぶ左派の人たちや、クルドの子どもたちは「日本語しか話せず、日本でしか暮らせない」と主張する。もし彼ら2世の子どもたちが在留許可を得られてもなお、彼らが日本国内で将来を切り開くのは難しいだろう。

学力の低さ、学歴のなさからまともな仕事に就くことが難しいと容易に想像がつくからだ。将来を切り開けないなかで自暴自棄になり、男の子が暴走行為などの非行に走り、女の子は家庭内規範に苦しみ時には自傷行為に走るのだとしても確かに不思議ではない。

小さいときに日本に連れてこられたり、日本で生まれたりするも、親たちは別の言語が母語、しかも学のある人は少数――という環境で2世たちは育ってきた。2つの言葉の間に翻弄され、考えの基礎となる母語をしっかり身につける機会がないまま……。

これは大変不幸なことである。最大の責任は無計画に日本に居着いた親たちにある。その一方で2世たちには何の落ち度もない。日本政府は、彼ら2世たちが人生を歩んでいけるように、言葉の面を中心に、しっかりサポートしていくべきではないか。

ひいてはそれが迷惑・犯罪行為の抑止の特効薬となるはずだ。

(つづく)

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西牟田靖

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