<第5回>どこにでもいそうなアジア系米国人を描いたグラフィックノベル、20年の時を経て映画化

自分にとって大切で、でも読むたびに気持ちが揺 れる「めんどくさい」本がある。ザ・ニューヨーカー誌の表紙のイラストでも知られる、日系米国人作家のエイドリアン・トミネによるグラフィック・ノベル『Shortcomings』(日本語訳未発表)だ。

この物語の舞台は、カリフォルニア州のバークレーと、ニューヨーク。主人公の日系男性ベンと、恋人の日系女性ミコ、友人の韓国系レズビアン女性アリスのアジア系米国人3人を中心に展開する。生粋の冷笑気質で、アジア系の自分にコンプレックスを持ち白人女性とデートをする願望を抱く、ベンのこじらせ。アジア系の文化と誇りを探求する、ミコのポリティクス。保守的クリスチャンの親に理想を押し付けられる、アリスのしがらみ。

個々が自分と対峙し、うず巻く葛藤と矛盾、ぶつかり合いやすれ違い。描かれるそのどれも、残酷に言えば「めんどくさい」。けれども、どこにでもいそうなアジア系の若者に焦点を当てたこの話は、ドラマティックではないのに、痛みを感じずに読むことができない。

原作は2004年に発表され、3年後に単行本が刊行。そこから20年近く経って映画化にこぎつけ、今月公開された。映画版では時代に合わせ設定が巧みにアップデートされ、シニカルな原作よりユーモアの色が強い。そしてなにより、何度も紙で読んできた「めんどくさい」物語がスクリーンに映し出され、これこそが「どこにでもいそうな」私たちのストーリーなのだと、痛みと喜びが胸を突いた。

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原作者へのメールインタビュー

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この度、原作者のエイドリアン・トミネの数々の作品を出版してきた、カナダにあるDrawn & Quarterly社を介して、著者に短いメールインタビューを依頼した。ジャピオン読者へのメッセージと併せて、彼の言葉を読み、原作と映画にもぜひ触れてみて欲しい。

─ニューヨークに移住した10年前に、この本を初めて読みました。今も、登場人物には共感も反発も覚えます。これらのキャラクターは、ご自身の視点から伝えたかったことに基づくのですか? それとも、読者が個人レベルで共鳴するナラティブを創作したかったのですか?

これは、私が初めて読者の反応を念頭において書いた物語でした。とはいえ、大衆受けするヒット作を意識したのではなくて。むしろ挑発的、あるいは大いにあまのじゃく的な試みでした。この物語は極めてパーソナルですが、間違いなくフィクションです。自分が多くの葛藤を抱えるトピックについて、ページ上で自分自身と議論しているような感覚でした。

─著書のタイトル、『Shortcomings』(短所、弱さ)には、どのような考えを込めましたか? 主人公ベンの短所を指すようで、アイデンティティーと衝突する登場人物全員に該当するとも想像できます。

先にタイトルが浮かんだり、さっと書き留めたメモを基に物語を構築することはよくあります。しかしこの作品の場合、執筆と描画が半ばに差し掛かっても決まらなかったほど、長く悩みました。題材や物語のトーンを考慮し、ジョーク色が強かったり、アジアっぽさをもじるタイトルは避けたかったので、なおのこと難しかったです。

結局、暗示的でありつつ明白ではない、かつ(願わくは)記憶に残る方向にしました。そしてあなたと同じ意見です──このタイトルはベンだけでなく、全ての登場人物に及びます。

─原作発表から約20年後、映画が公開に。長年のファンも新しい読者もいると思いますが、特にジャピオン読者に多い在米日本人や日系人に、何を伝えたいですか?

なによりもまず、これは、ある一つのストーリーであることを伝えたい。そしてそれが面白く、考えさせられる物語になるといいです。要素は多岐に渡りますが、主に登場するキャラクターと彼らの人生に興味を持って欲しいです。

なんだかんだで、私は彼らと20年以上を共に過ごしてきました。彼らを好きになるのが難しい場合もあると察する一方で、私は全員に愛情を感じます。ジャピオン読者が『Shortcomings』の本か映画に時間を割いてくれたら、非常に光栄です。できれば両方とも。

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。
ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。
ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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