和牛生産を全国的にけん引してきたスーパー種雄牛「福之姫」が急死した。各産地が今後を託す、ポスト福之姫はどの種雄牛か。「福之姫」の“息子”である「福之鶴」に高い関心が集まる一方、地元生まれの牛に期待を示す産地もある。
さしは父譲り
「福之姫」は増体能力や枝肉成績の高さで全国を席巻したが、急性心不全で2日に10歳10カ月で死んだ。
「父譲りのさしの多さに期待したい」(北海道の繁殖農家)、「息牛として活躍してくれるはず」(栃木県の市場関係者)。「福之鶴」には複数産地から期待の声が上がる。2022年に家畜改良事業団が選抜。凍結精液は全国的に需要が高く「供給が追い付かない状況だ」(同事業団)。「福之鶴」の産子は、月内にも各産地で生まれ始めるという。
現場後代検定では、さしの多さを示す脂肪交雑基準(BMS)ナンバーの平均が、同事業団が所有する牛で歴代最高の9・8を記録。遺伝子情報を基にした、和牛肉の口溶けや風味に関わる「脂肪の質」の評価値は「福之姫」を上回る。
「福之鶴」以外の「福之姫」の息牛も、今後、種雄牛に選抜されるとの見方も関係者には強い。
北海道、九州にも
「福之姫」の精液を使う農家が特に多い産地の一つ、北海道ではジェネティクス北海道が22年に選抜した「北美津久」への期待が強い。現場後代検定ではBMSナンバーが平均10・6と同団で歴代1位で、雄雌問わず増体が良い。枝肉はさしが細かくロース芯が大きいとの定評だ。北海道和牛振興協議会の武隈英和副会長は「福之姫の雌産子に種付けしたい農家も多い」という。
鹿児島県の上別府種畜場が所有する「若百合」「安亀忠」も県内外で利用が盛んで、安定して取引される。宮城県のみやぎ総合家畜市場は「若百合は、県有種雄牛を除けばトップクラスで利用されている。肥育農家から引き合いが強い」という。
野村梨沙子