高級インターナショナルスクール“家賃滞納”騒動…裁判抱え「保護者に説明ナシ」法律的に問題はない?

スクールが入居していた建物には立ち入り禁止のポールチェーンが置かれていた(弁護士JP編集部)

東京都港区の高級インターナショナルスクールで、家賃滞納をめぐり建物オーナーとスクールが裁判で争っていたことが情報番組『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)の取材でわかった。その後の報道などによれば、裁判の結果、明け渡し期限は当初2017年11月と決められたが、スクール側はその期限を大幅に無視。オーナー側は学校に通う子どもたちのためを思い、話し合いによる解決を求めてきたというが、スクール側が応じなかったため2023年3月になって「明け渡しの強制執行」が行われたとされる。

本来であれば2017年の時点で明け渡し期限を迎えていたことを知りながら、スクールは生徒を募集し運営し続けていたことになる。スクールに子どもを通わせる保護者たちは、裁判になっていたことなど何も聞かされていなかったという。

保護者に対し、裁判の事実や明け渡し期限の超過など、スクールの置かれた状況を説明せず、生徒を募集し、年間500万円以上ともいわれる授業料を集め続けたことは、不法行為にあたらないのだろうか。

スクールは「子どもの権利」も侵害している

刑事事件のほか、企業法務にも注力する杉山大介弁護士は、「不法行為も構成し得る悪質な行為」だとスクール側の対応を批判する。

「スクールでの教育というサービスを提供できなくなる可能性があることを容易に認識でき、あるいは認識しながら、無為に帰す可能性を秘匿して多額の授業料を保護者たちに支払わせた行為として、授業料の返還を請求されるのは当然です。

また、私は『子どもが教育を受ける権利』の侵害などを理由とした不法行為に基づく慰謝料なども請求されてしかるべきと考えます」(杉山弁護士)

「明け渡しの強制執行」により、スクールは元の場所で運営できなくなり閉鎖。一時は近くの民家にてスクールを継続したようだが、今はこの場所からも退去しているといい、生徒たちはスクールに通えなくなってしまった。

“年500万超”授業料は返還されるのか?

また、高額な授業料で収益は十分に出ていたはずだが、閉鎖直前に入校した生徒の分も含め、保護者たちの元には授業料の返還もなされていないという。「明け渡しの強制執行」により、滞納していた家賃が差し押さえられてしまうことはあり得るのだろうか。

杉山弁護士は「今回のケースがどうだったかは、報道限りではわからない」と前置きしたうえで、「明け渡しの強制執行は、あくまで“建物の明け渡し”の問題であり、賃料のための強制執行が同時に行われることもありますが、別のものです」と説明する。

いずれにしても保護者らが授業料の返還を求めるには訴訟を起こす必要があるという。実際に現在、都内で訴訟を呼び掛ける弁護士事務所があるほか、報道によればすでに1件の返金訴訟が行われているようだ。しかし、スクール側は裁判に欠席しており、どこまで保護者に返金する責任を感じているかはわからない。

杉山弁護士は「保全処分(※)なども行わないと、回収が間に合わなくなる危険もあると思います」として、保護者らにとっては一刻も早い対応が肝になると話す。

※ 保全処分…判決の確定までの暫定的な処分のこと。貸金の返還を求める裁判などでは、相手の財産が散逸してしまわないよう、あらかじめ確保しておくことで、確実に貸金を回収できるようにする手続きのことをいう。

弁護士「あまりに無責任」

スクールに関するもうひとつの気になる点といえば、代表者が創立者の16歳の息子であるA氏になっていることだ。もともとA氏はスクールにクリエイティブディレクターとしてかかわっていたが、今年2月に代表に就任したとされる。

代表者の年齢について、杉山弁護士は「何歳であっても企業の代表者になれる」と説明するが、次のように続けた。

「法律上問題はありません。ただし、今回のように学校側の不法行為が問われるようなケースにおいて、個別の取締役も損害賠償請求の当事者になる場合があります。生じる責任から、親こそ軽々しく取締役の地位を子どもに与えるべきではないと思います」(杉山弁護士)

A氏の“親”である創立者は、今回の一連の騒動について、報道番組のカメラに向かって「何も悪いことをやっていない」「お金で解決する内容ではないと考えている」などと反論していた。

「あまりに無責任な企業姿勢だと思います。ただ、こんないい加減でも『インターナショナルスクール』という看板で年500万円も取れるのですから、この問題はたまたま露呈した氷山の一角でしかないのかもしれないなと感じてしまいました」(杉山弁護士)

この騒動の一番の被害者は、学びやと友だちとの時間を突然失うことになった子どもたちではないだろうか。「とにかく建物に戻れるように今、方法を見つけているので」とカメラの前で力強く語っていた創立者は、現在はスイスにいるという。子どもたちへの責任をどう感じているのか。

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