「必殺」シリーズ厳選の〝神回〟を映画館で前代未聞の上映 誕生から半世紀、中村主水がスクリーンで復活

人気時代劇ドラマ「必殺」シリーズ(朝日放送・松竹制作)のテレビ放送回をスクリーンで特集上映するという前代未聞の企画が17日から約2か月間に渡って都内で開催される。上映作品の選者を務め、『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』と『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』(ともに立東舎)を連続刊行した著者の高鳥都氏に話を聞いた。(文中一部敬称略)

今企画は『必殺大上映 仕掛けて仕損じNIGHTS』と題して、17日から8月19日まで都内の名画座「ラピュタ阿佐ヶ谷」と小劇場「ザムザ阿佐谷」の2か所で開催。シリーズ1作目の原作者である池波正太郎の生誕100年、主要キャラクター・中村主水(藤田まこと)の登場から50年という節目に盛大な〝必殺祭〟を敢行する。

1972年の第1弾『必殺仕掛人』の第1話「仕掛けて仕損じなし」(深作欣二監督)を皮切りに、主水や念仏の鉄(山﨑努)らが登場する73年の第2弾『必殺仕置人』、シリーズ前期の集大成として評価の高い77年の第10弾『新必殺仕置人』を中心に24本を厳選した。

高鳥氏は「テレビシリーズが『必殺仕掛人』から『必殺仕事人2009』まで31作あり、全790話。そのほかテレビスペシャルや劇場版を含めると800本を超える作品数となります。今回は初期シリーズの3作を中心に選びました。再放送、ソフトや配信で繰り返し鑑賞することもできますが、やはりスクリーンで見るという『体験』は、なかなかできることではないので、ぜひ味わっていただきたいです。ビギナーの方への入門編としても最適だと思います。50年経っても未だに斬新で古びることはなく、実験的で革命的な表現が詰まっています」とアピールした。

上映作のラインアップを一部紹介すると、『必殺仕掛人』の第19話「理想に仕掛けろ」は放送前年の72年2月に起きた連合赤軍の「あさま山荘事件」をモチーフにした籠城劇。大島渚監督作品などで知られる名優・佐藤慶の存在感も光る。「念仏の鉄が散る」という伝説の〝神回〟である『新必殺仕置人』の最終回「解散無用」も注目だ。こうした上映作を厳選する上で高鳥氏が考えたこことは…。

「脚本家や監督のバランスも見つつ、最終的には自分の好みですね。あさま山荘事件を元ネタに〝必殺の現代性〟を象徴した『理想に仕掛けろ』や火野正平さん演じる正八をメインにした『新仕置人』の『代役無用』は、まさに偏愛回と言っていいものです。また、シリーズ最多登板の職人に敬意を表して松野宏軌監督の『助け人走る』と『必殺必中仕事屋稼業』の活劇回2本立てなど自分なりのこだわりを示しました。劇場版で唯一選んだ『必殺!Ⅲ 裏か表か』は光と影の魔術師と呼ばれた工藤栄一監督による作品で、原点回帰のハードな展開と集団戦が見どころです」

テレビ作品の4本が16ミリフィルム上映となる点も注目される。

「『必殺仕掛人』の立ち上げを任されたのは『仁義なき戦い』を撮る直前の深作欣二監督で、そのギラギラとエネルギッシュな演出が見どころです。そして大映で勝新太郎の『座頭市』シリーズや市川雷蔵の『眠狂四郎』シリーズなどを手がけた三隅研次監督が続きます。この二人の監督作については国立映画アーカイブの特集上映で作成された16ミリフィルムのニュープリントがあり、当時の完成品に限りなく近い味が味わえると思います。そのほかのテレビ作品はリマスター版からのブルーレイ上映ですが、映写チェックで画面を調整し、こちらも文句なしの仕上がりです」

「音」にもこだわる。

「光と影の映像表現はもちろんのこと、必殺名物である殺しのテーマ曲や刺す音、斬る音、ボキボキっと骨を折る音などの効果音もデカいので、その迫力を期待してください。もともと毎週放映のテレビ用に作られた番組なのでスクリーンに映すことで多少の粗(あら)が出てしまう部分もあります。しかし、それ以上に得るものは大きく、大画面の大音響で見ることで作り手の意図や俳優の意気込みが伝わってきます」

17日には作家の山田誠二氏(ラピュタ)、7月8日には時代劇研究家の春日太一氏(ザムザ)をゲストに迎え、高鳥氏とトークを行う。ただ、こうした企画が実現するのも、名画座が一極集中する東京だからこそ。全国の必殺ファンにとっては夏休みの〝遠征〟で一部を見ることはできても、頻繁には通えない。東京(首都圏)在住でない人のためにも、他地域での上映機会は検討されているのだろうか。

高鳥氏は「必殺シリーズは大阪の朝日放送と松竹の共同制作であり、京都映画という撮影所で作られた作品なので、ぜひお膝元の関西でも上映が実現すればいいなと思います。幸いにも今回の特集で上映原版も揃ったので、どんどん全国で盛り上がってほしいですね」と今後の展開にも意欲を示した。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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