困ったときのライフハック!自動車が水没したらどのようにしてドアが開けばいいの?【すごい物理の話】

水深何㎝で車のドアは開かなくなるのか

ときどき自動車が水没して脱出が困難だったとのニュースが流れます。時には脱出できずに溺れて亡くなるといういたましい事故もあります。どうしたらこんな事故から生還できるのでしょうか。では、集中豪雨で道路が冠水したところに自動車が入り込み、深みにはまって水没した状況を想定してみます。

こうした災難に遭ったときに人はパニックに陥り、しばしば「自動車はガソリンをエンジンで燃焼させて動いていること」を忘れ、「バッテリーが水に浸かればすべての電気系統は使えなくなること」を忘れてしまいがちです。燃焼には空気が必要なので、水没したら真っ先にエンジンが止まり、すべて電動に頼っている現在の自動車では、装置がすべて動かなくなります。窓を開けて脱出しようにも電気が来なければモーターが動かない。そうするとロックも外せず、パワーウィンドウも動きません。幸いドアのロックが外れていたので、いざドアを開けようとすると、これがびくともしません。ではなぜ、ドアは開けられないのでしょうか?

それは「静水圧」がかかっているためです。静水圧というのは水の重さのこと。水位が上がれば上がるほど、その位置にかかる静水圧は深さに比例して大きくなります。水面からの深さh=10㎝では100Pa(パスカル(=kgf/㎡))、つまり100kgfの重さが水底の1㎡の面積にかかっています。50㎝の深さでは1㎡当たり500kgf、1mの深さでは1㎡当たり1000kgfです。

たとえば、ワンボックスカーのように屋根までの高さが1.6mある車を想定しましょう。ワンボックスカーの屋根まで水に浸かると、水深は1.6m。簡単に計算するために、ドアの幅を1mとします。そうすると、このドアには水深に比例した静水圧が襲い、平均800kgf(=7840N)の水圧が水深1・07mの位置にかかるのです。さて、800㎏の重さがドアにかかっていたらどうなるでしょう。まず、ふつうでは開けられませんね。これが水圧の怖さです。

対処の仕方としては、窓ガラスを先端の尖ったもので割って車内に水を入れること。ドアの内側と外側の水圧を等しくすれば、合力が0となるため開けることができるようになります。緊急脱出用ハンマーを運転席の近くにとり付けておくことは必須なのです。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』著/望月修

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』
著:望月修

物理学は、物質の本質と物の理(ことわり)を追究する学問です。文明発展の根底には物理学の考えが息づいています。私たちの生活の周辺を見渡しただけでも、明かりが部屋を照らし、移動するために電車のモーターが稼働し、スマートフォンの基板には半導体が使われ、私たちが過ごす家やビルも台風や地震にも倒れないように設計されています。これらすべてのことが物理学によって見出された法則に従って成り立ち、物理学は工学をはじめ、生命科学、生物学、情報科学といった、さまざまな分野と連携しています。……料理、キッチン、トイレ、通勤電車、自動車、飛行機、ロケット、スポーツ、建築物、地震、火山噴火、温暖化、自然、宇宙まで、生活に活かされているもの、また人類と科学技術の進歩に直結するような「物理」を取り上げて、わかりやすく図解で紹介。興味深い、役立つ物理の話が満載の一冊。あらゆる物事の原理やしくみが基本から応用(実用)まで理解できます!

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