SFオートポリス戦を“外から見た”野尻智紀の大いなる収穫「見え隠れしていたものが、明確になった」

 2023年全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦を肺気胸により欠場した、2連覇王者の野尻智紀(TEAM MUGEN)。安静にしていれば大丈夫との医師の診断もあり、レースウイークもオートポリスに訪れて、コースサイドから各車の動きをチェックしていた。

 自身のSNSなどで「スーパーフォーミュラのこと、よく知れたような気がします」と、この機会をかなり前向きに捉えていた野尻。今週末の第5戦SUGOを皮切りに後半戦が始まっていくが、オートポリス戦を外から見たことで、どんな収穫があったのか。特別インタビューの前編となる今回は、欠場ラウンドから野尻が得たものを探ってみたい。

■「いくらセットアップを合わせても無理だよね」という違いを認識

 野尻の体調不良が発覚したのは、大会前日の金曜日。すでに九州入りしており、現地の病院で診察した結果、肺気胸であることが判明し、ドクターストップが出た。「自分がレースに出られないことに対しては、意外と落ち込んでいなかったです」と、レースに出られないことに対する悔しさなどはなかったそう。

「ただ、チームに迷惑をかけてしまうし、大津(弘樹)選手にも急きょ動いてもらうことになって、そっちに対する申し訳なさの方が大きかったです」

「客観的に外から見る機会を得たことの方が、プラスになるのではないかなと思っていたところもあって、正直メンタル的にキツくはなっていませんでした」

 体調のことを考えて、週末はサーキットに来ないという選択肢もあったのだが、これをひとつの機会と捉えた野尻は、無理のない範囲内で観客席へ向かい、各セッションでマシンの動きを観察していた。基本的にはセクター3にある上りの複合コーナーセクションで、全車の動きをチェックしていたという。

「走っているクルマを外から見ることができたことで、それぞれが抱えている問題というのが浮き彫りになった感じはしました」と野尻。

「同じチームでも2台でセットアップが違っていたりしても、それ以上に動きが違ったりする問題もあるのだろうし、なかなか同じチームでも2台が同じように走らないという話をよく聞くと思いますけど『そういうふうな動きをしていたら、いくらセットアップを合わせても無理だよね』という違いが感じられました。それは自分たちのクルマでも感じるところはありましたし、そういうのを外から見ると新鮮でした」と、詳細については明かしてくれなかったが、SF23に対して“外から見た”ことで理解度を深められたようだ。

 野尻は、昨年12月に鈴鹿サーキットで行われたルーキー&合同テストでも、ドライバーとして参加せずに、コースサイドからマシンの動きをチェックしていたのだが、「今年のクルマの走らせ方もあるし、タイヤも変わっています。今まで問題になっていなかった動きも今年は問題になったりもしています」と、SF23と新スペックのタイヤに変わったことで、今までの情報が通用しない部分もある模様。その辺も今回の観察で方向性が見えたようだ。

「そういったところを含めて、自分たちが抱えていた問題がなぜ起きていたのかというのが明確になりましたし、ここからどういう方向性に向かっていけば良いのかというのが明確になった印象です」

 さらに、ライバルチームのマシンの動きもチェックできたことも大きかったようだ。今回は土曜日のフリー走行1回目から日曜日の決勝レースまで、全て同じポイントでマシンの動きをチェックしていたという野尻だが「予選と決勝で序列は変わったりするんですけど、フリー走行の段階から、例えば『莉朋くんのクルマは決勝で絶対速いよな』と感じるところはありました」と宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)の走りを特に注目していた。

「もちろんリアム(・ローソン)のクルマもそういう感じはありましたが、仮に前にクルマがいなくて同じ周回数を走ったら、莉朋くんが一番速かったのではないかなと思いました。実際、レース中もすごい速く走っていた時があったので……『いろいろ分かったな』という感じでした」

「ただ、それを自分たちのクルマでどうやって表現するかというのは、非常に難しいところかなという気はするんですけど『こうやって走らなきゃいけないな』というのが、分かった感じ。走らせ方の部分でも、今までは見え隠れしていたものが、より明確になりました」

 こういった機会も、ある意味で体調不良による突然の欠場が決まったからこそ実現したものだ。「機会があれば、外から見てみたいと思うドライバーも多分多いんじゃないかなという気がします。ただ、なかなかシーズン中にこういったことが起きる選手って基本はないですからね」と、野尻はオートポリスでの2日間を有意義に使って、後半戦へのパフォーマンスに繋げようとしている。

 スーパーフォーミュラでの復帰戦となるスポーツランドSUGOでの1戦について、野尻は「チャンピオン争いのことを考えると、2回目の富士(第6戦)以降が重要になってくると思います。そこに向けた良い流れの土台作りを、今度のSUGOでやっていきたいなと思っています」とのこと。いずれにしても、シーズン序盤とは違った2連覇王者の走りが、SUGOでは見られそうだ。

 オートポリス戦では、コースサイドでさまざまな収穫があったという野尻だが、マシンの動きやシーズン後半への方向性の確認以上に、スーパーフォーミュラのレースイベントを俯瞰でみて“ショック”に感じたことがあったという。それについては、インタビュー後編でお伝えすることにしよう。

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