「全スパイダーマン」に狙われる!? 基本解説『アクロス・ザ・スパイダーバース』は色んな“アース”が楽しいビジュアル・エンタメ大作

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

マルチバースの先駆けだった『スパイダーバース』

2018年(日本は2019年)に公開されるや“最高のスパイダーマン映画”と評され、アカデミー賞のアニメ部門も制した『スパイダーマン:スパイダーバース』(以下『スパイダーバース』)の待望の続編、それが『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(以下『アクロス』)です。

前作が傑作ゆえ、それを超えるというのは相当ハードルが高いと思いましたが、難なくそれをクリア! アクションもストーリーも素晴らしいアメイジングな作品となっています。

“スパイダーバース”とは、昨今アメコミ映画で人気の設定であるマルチバースをスパイダーマン起点にした言い方。つまり各バース毎に、その世界なりのスパイダーマン、ないしそれに準じるキャラがいるという捉え方です。

このマルチバースというアイデアを本格的にアメコミ映画に持ち込んだのは、『スパイダーバース』が初めてでしょう。というのも、2018年のマーベル・シネマティック・ユニバース映画は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、DCも『アクアマン』でしたから。つまり、昨今のマルチバース物の先駆けだったのです。

様々な“アース”のスパイダーマン増量でスケールUP

前作『スパイダーバース』は、ある世界(バース)でスパイダーマンとなったマイルス・モラレスのところに別バースのスパイダーマンたちがやって来る、という設定でした。今回の『アクロス』は、“アクロス=横断して”というタイトルが示す通り、マイルスが別バースを旅するお話です。それ故、表現されるバースも増えました。

※以下、物語の内容に一部触れています。ご注意ください。

まずマイルスのいるアース1610、スパイダーグウェンの住むアース65、インドのスパイダーマン、スパイダーマン・インディアことパヴィトル・プラパカールが活躍するアース50101、そしてスパイダーマン2099ことミゲル・オハラが拠点を構えるアース928です。

マイルスとグゥエンはNYですが、それぞれの世界観に合わせグウェンのNYは水彩画のようなカラートーン、マイルスのそれはアメリカン・コミックならではのカラーリング。スパイダーマン・インディアの活躍するNY的な世界はムンバッタンとよばれ、インドのムンバイとマンハッタンが融合したようなエキゾチックな世界。そしてミゲル・オハラのヌエバヨークは未来のNYであり、『ブレード・ランナー』に出てくる未来都市を明るくした感じ。

そして、それぞれのキャラの設定を活かしたアクションが炸裂。要は、異なるアート&アクションが楽しめるので、ビジュアル・エンターテインメントとしてスケールUPしています。

スパイダーマンに“なってから”を描きドラマ性もUP

しかし、視覚的な面白さだけではありません。今回の『アクロス』は、よりドラマチックになりました。

前作がヒーローとしての覚醒の物語であるならば、今回は試練のストーリー。例えて言うなら、『スター・ウォーズ』から『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』になった途端、ルークをめぐる状況が大きく変わってしまったように、マイルスに大変なことが起こります。

前作には“どのバースにも自分と同じような仲間がいる”という救いがありました。しかし、今回は“仲間と同じようになるためには愛する者を失う過酷な運命を受け入れなければならない“という究極の選択が突きつけられます。当然、マイルスは拒否する。その結果、すべてのバースのスパイダーマンを敵にまわす……という驚愕の展開となります。

そもそもスパイダーマンは“ヒーローになるまで“よりも、“ヒーローになってからの悩み”を描くコミックでした。したがって、マイルスがスパイダーマンになるまでの『スパイダーバース』よりも、ヒーローになったマイルスが悩む『アクロス』の方が、よりスパイダーマンらしいドラマと言えるかもしれません。

かなりショッキングでシリアスなストーリーですが、先にも言ったように、痛快アクションとスパイダーマンならではのユーモア、そして描き分けられた世界観の素晴らしさで楽しめます。実は、本作は『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』同様、次回作につながるところで終わります。

次回作は『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース(原題)』。しかし、すごい情報力&ネタがいっぱいの映画なので、続きが持ち越されたとしても、この『アクロス』1本で十分すぎるぐらい見応えがあるのです。

なお本作はスパイダーグウェンの視点で語られており、事実上、彼女がこの映画の主役と言えるでしょうか?

実写版とのリンクあり!? “バース”マニアック解説

さて最後にマニアックな解説を。この『アクロス』、なんと実写のスパイダーマン映画とのリンクがあり、トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド版スパイダーマン映画からの引用シーンや、なんと『ヴェノム』シリーズのチェンさん(あの雑貨屋の女主人)が新撮シーンで登場。さらにビックリなのは、ドナルド・グローヴァーが別バースのプラウラーことアーロン・デイヴィス役で登場しています。

ドナルドはトム・ホランドの『スパイダーマン:ホームカミング』でチンピラ役を演じていました。『ホームカミング』でスパイダーマンが彼の手を蜘蛛糸で車に固定して、ちょっと頓珍漢な尋問をするシーンです。ということは、この時ドナルドが演じたキャラこそトム・ホランド版スパイダーマン=マーベル・シネマティック・ユニバース/MCUにおけるプロウラー、つまりアーロン・デイヴィスということになります。

そしてドナルド版アーロンは『ホームカミング』のセリフにおいて、自分の甥っ子のことを心配していました。プロウラーことアーロンの甥っ子がマイルス・モラレスですから、MCUの世界にもマイルス・モラレスがいる、ということが証明されたわけです。

なお、本作の日本語吹替版の監修を杉山すぴ豊が担当しました。吹替版も素晴らしいので、ぜひご覧ください。

文:杉山すぴ豊

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は2023年6月16日(金)より全国公開

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