エルサルバドル戦で見えた新たなユニット/六川亨の日本サッカー見聞録

[写真:Getty Images]

勝って当然の相手だったため、エルサルバドル戦のテーマはこれまでのカウンターに加えて攻撃のバリエーションを増やすこと、セットプレーからの得点など攻撃力のアップにあったはずだ。前者に関しては開始1分に久保建英のFKから谷口彰悟がヘッドで代表初ゴールを決めた。そして3分後には高い位置からのプレスで相手のミスを誘発してPKを獲得。これを上田綺世が確実に決めてリードを広げた。上田にとっては代表15試合目にしてやっと手に入れた初ゴールだった。

ただ、上田を倒してPKを与えたCBロナルド・ロドリゲスが一発退場になったのは、ルール通りとはいえちょっと厳しい判定だった。DOGSO(決定機阻止)ではあるが、意図的な反則ではなく、ロドリゲスがトラップミスからボールを失ったことで、慌てて追いかけて倒してしまった印象を受けた。このため“三重苦”の緩和措置であるイエローカードでも良かったのではないだろうか。

試合に話を戻すと、日本は立ち上がりから右サイドの久保、堂安律、菅原由勢と上田らが連動した素早い攻守でエルサルバドルに襲いかかった。特にボールを失った後のトランジション、高い位置からのプレスは効果的で、エルサルバドルDF陣をパニックに陥れていた。

試合開始10~15分は攻守とも強度の高い入り方をするが、日本の強度はエルサルバドルの想定外だったのかもしれない。だからといって、日本が特別なことをしたわけでもない。久保や上田、堂安に加えて三笘薫と旗手怜央も、今シーズンの所属チームでのプレーをそのまま再現したに過ぎない。

これまでの代表マッチとの違いを指摘するとすれば、久保はソシエダで日本人最多の1シーズン9ゴールをあげてチームをCLに導いた。三笘も新天地でアピールに成功し、ブライトン初のEL出場の立役者となった。上田は22ゴールでベルギーリーグの得点ランク2位、後半から出場の古橋亨梧も27ゴールで欧州主要トップリーグでは日本人初の得点王と、それぞれが結果を残したことがあげられる。選手個々のスキルアップが、代表チームの底上げ、攻撃のバリエーション増につながったと言えるだろう。

さらにエルサルバドル戦では、新たな発見もあった。攻撃のビルドアップのスタートを担ったのはベテランCB谷口だったが、アンカーの守田英正と左インサイドの旗手とはスムーズなパス交換から前線へと展開して攻撃を組み立てた。さらに守田は三笘にパスを供給するだけでなく、彼からスルーパスを受けて左サイドを崩すなど、意思の疎通を感じさせた(後半はさらに高い位置でプレーして持ち味を発揮)。

改めて指摘するまでもなく、彼らは川崎Fの元チームメイトである。ドイツ代表のように、単独チーム(バイエルン・ミュンヘン)の選手をベースに代表チームを作るケースは、これまでの日本代表にはなかった。“元”ではあるが、川崎Fの選手をベースにしたチーム作りは、選手同士のコミュニケーションもスムーズになることをエルサルバドル戦は証明した。遠藤航や鎌田大地、伊東純也をどこで使ったらいいか迷うほどで、このメンバーによる4-1-4-1は新たなユニットになるだろう。

さらに、左サイドでプレーした三笘と旗手、SB森下龍矢と上田は2019年ナポリユニバーシアードのチームメイトで(他に角田涼太朗、中村帆高、紺野和也、明本考浩、林大地ら)、最後となるユニバーで7度目の金メダルを獲得している。ここらあたりも連係に好影響を及ぼしたことは想像に難くない。

とはいえ、当てにならないFIFAランク(20位と75位)でもかなりの差があり、なおかつエルサルバドルの選手は自国のリーグ以外ではMLSか中南米のクラブ所属で、ヨーロッパでプレーしている選手はセリエCモンテバルキのジョシュア・ペレスしかいない。さらに開始早々に1人少なくなったのだから、日本は圧勝して当然だった。

前述したプラス要素は、継続してトライすることで通用するかどうか判明するだろうし、進化を遂げるだろう。このため森保一監督には、ペルー戦でも攻撃陣にはあまり手を加えず継続性を重視して欲しい。

そしてゴールこそ決めたが、この試合で堂安は持ち味を発揮したとは言い難い。ワイドに開いた久保がプレーしやすいよう“黒子に徹した”という言い方もできるが、やはり堂安もワイドなポジションが本来のスタートポジションのようだ。そこで現在は負傷リハビリ中の田中碧が右インサイドに入ったらどうなるか。元川崎Fのトライアングルも見てみたいと思うのは私だけではないだろう。


【文・六川亨】

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