地場老舗・一畑百貨店(松江市)が閉店へ ~ 百貨店「空白県」は全国で3県に ~

創業1958(昭和33)年。山陰の老舗百貨店「一畑百貨店」を経営する(株)一畑百貨店(TSR企業コード:760101710、松江市)は6月13日、2024年1月をもって営業を終了し、閉店することを発表した。
松江市中心地のシンボルとして長年にわたって存在感を示してきた。だが、郊外型の大型ショッピングモールの出店やEC市場の拡大などで百貨店離れが加速し、苦戦が続いていた。コロナ禍の環境悪化も重なり、経営改善が見込めないことから苦渋の決断となった。


抜群の知名度を持つも業績は苦戦

一畑百貨店は、一畑電気鉄道(株)(TSR企業コード:760001944、松江市)の100%出資会社。一畑グループは、「ばたでん」の愛称で知られる電鉄事業をはじめ、バスやタクシー、観光・宿泊関連などを県内で幅広く展開している。一畑百貨店もその中核を担い、日本百貨店協会加盟の百貨店としては島根県内で唯一の存在だ。地元でのブランド力は高く、地元商業界の中心的な存在として、前身企業時代の1992年2月期に売上高148億円を計上した。だが、バブル崩壊後の消費低迷や、地方経済の衰退などで、一畑百貨店の業績も例に漏れずジリ貧をたどった。
1997年に第二会社方式による事業譲渡を通じたリストラを断行し、当社が前身企業から百貨店事業を引き継いだ。しかし、その後も業績は回復せず、2009年3月期の売上高は100億円を割り込んだ。
損益面でも苦戦が続いた。直近10期のうち、単年度で最終黒字を達成したのはわずか1期のみ。コロナ禍以降はさらに業績が悪化した。2022年3月期は、最悪期は脱したものの売上高約57億円、最終赤字4億2,400万円となり、債務超過に転落。満身創痍の状況のなか、親会社の支援にも注目が集まったが、ここにきて閉店を決断した。

取引先は約1,000社

一畑百貨店は2024年1月14日に営業終了し、閉店する。会社によると、パート・アルバイトを含めた118名の従業員は同年1月末をもって解雇となる。ただ、親会社が中心となって、グループ会社への再就職や再就職支援活動を実施するという。
また、閉店に伴い、関連会社の(株)一畑友の会(TSR企業コード:760131457、松江市)は廃業する。一畑友の会お買物券、一畑百貨店発行の全国百貨店共通商品券などは改めて使用期限や払戻期間を案内する。
友の会会員は約8,000名、仕入業者などの取引先は県内外で約1,000社にのぼる。ピーク時から売上規模は3分の1の水準まで落ち込んだとはいえ、地元経済へのインパクトは小さくない。

百貨店「空白県」は3県に

百貨店の閉店の動きがおさまらない。
2023年1月末に北海道帯広市の地場百貨店「藤丸」と「髙島屋立川店」が閉店、「渋谷東急本店」も再開発で営業終了した。1日に3店舗が同時に姿を消し、話題を集めた。
来年1月には中国地区の「尾道福屋」がすでに閉店を発表している。このほか、中部地区の「名鉄百貨店一宮店」の閉店も明らかになっている。ここに一畑百貨店が加わることになる。
この結果、百貨店が存在しない百貨店「空白県」は、山形県(2020年1月、「大沼」の破産による閉店)と徳島県(2020年8月、「そごう徳島店」閉店)に次いで、島根県が全国3番目となる。
すでに百貨店が1店舗しかない空白県予備軍は、島根県を除いても全国で16県にのぼる。内訳は、大手系列百貨店が8県、地場百貨店が8県と拮抗するが、百貨店離れの荒波が続くなかで大手系列、地場百貨店に関わらず、閉店の流れは避けられそうにない。

地場百貨店は経営破たんも現実味

閉店と言っても、大手系列か地場独立系かで意味合いが異なる。
全国に店舗を展開する大手は、不採算店の閉店などのリストラを加速させている。一方、営業エリアが限定される1店舗体制の地場百貨店は、閉店となれば存続自体が危うくなる。従業員の退職金や仕入先への支払いなどに余力を残す閉店であれば影響はまだ小さい。だが、資金力や負債によっては経営破たんなどの突然死も現実味を帯びる。
地場百貨店の再建を阻むのが、動線の変化と老朽化問題だ。市街中心部の空洞化が進み、郊外に出店した大型ショッピングモールなどに人が流れるのを繋ぎ止めることができない。
ここに、設備の老朽化問題がのしかかる。集客が見込めない現状ではリニューアル資金の捻出は困難だ。耐震工事の費用もままならず、先行きが注目されている地場百貨店は他にも存在する。


アフターコロナに向け、消費環境には明るさも感じられるようになった。日本百貨店協会によると、全国の百貨店売上高は2023年4月まで14カ月連続で前年同月を上回った。
とはいえ、これはコロナ禍で消失した需要の反動に過ぎず、百貨店全体の売上高はコロナ前の水準に及ばない。今後はインバウンド需要の復活に期待がかかるが、恩恵を受けられるのは大都市圏などの一部に限られる。
こうしたなかでの一畑百貨店の閉店発表は、苦境に立つ地場百貨店を象徴している。新型コロナが5類に移行したこのタイミングでの発表が、事態の深刻さを一層際立たせている。
「閉店することになって残念」、「なくなるのは寂しい」。百貨店の閉店で、必ず耳にする街の声だ。だが、閉店の最大の理由は、地域の人々の足が百貨店に向かわなくなったからにほかならない。
「百貨店冬の時代」と言われて久しいが、淘汰の波は全国各地で、さらにピッチを早めながら押し寄せている。

一畑百貨店

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年6月19日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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