「暑~い熊谷」酪農学ぶ場に ミスト噴霧や自動送風、新設牛舎で実習 埼玉県立熊谷農業高

暑さ対策を備えた新牛舎で作業する生徒(埼玉県熊谷市で)

【埼玉】埼玉県立熊谷農業高校(熊谷市)は、最新の暑さ対策などを備えた乳牛向け畜舎を新設した。酪農経営では、地球温暖化を背景とした夏場の気温上昇によって、乳量をどう維持するかが課題。例年、夏は高温に見舞われ、国内屈指の猛暑地帯として知られる同市の気候に対応しながら、自動送風やミスト噴霧などを使いこなせる酪農家の育成を目指す。

新設した牛舎は、温度設定による自動送風と30度を超えるとミストが噴霧されるインバーター式送風機を18機完備。上水と井戸水を併設し、真夏でも冷たい水が給水できるようにした。さらに、屋根には断熱効果の高い素材を使っている。

新畜舎の建設に当たり、設計コンセプトを検討してきた中心メンバーの内海康博教諭は「暑さ対策は酪農の重要な課題の一つ。酪農を志す生徒には、日本一暑い熊谷市の暑さに特化した畜舎で対策を学び、乳量を維持する技術を身に付けてほしい」と話す。

生物生産工学科3年の小沢深愛さん(17)は「人も牛も快適に過ごせる牛舎と聞いていた。舎内は涼しくて、作業がしやすかった」と話す。

餌の一部には学校で栽培した稲わらや牧草を使用。搾乳した生乳は、学校給食向けに出荷する他、アイスに加工して地元のJAくまがやの直売所などで販売しており、生徒らは暑さ対策を含む生産から出荷、販売までを学ぶ。

新畜舎の規模は鉄骨造1階建、建築面積547平方メートル、高さ9メートル。最大で搾乳牛8頭、育成牛4頭、子牛3頭を飼養できる。牛が動き回れる場所として100平方メートルのパドックを併設するなど、牛のストレス対策も講じた。

<メモ>

熊谷農業高がある熊谷市は、関東平野の内陸部にあり、南からの海風が入りにくく、夏は特に気温が上昇しやすい。全国的にみても猛暑日を記録することの多い地域で、2018年7月には同月の国内最高気温41・1度を記録。今年も既に5月の段階で35度と猛暑日を記録している。 温度計が設けられている埼玉県熊谷市の百貨店。気温が上がると足を止めて確認する人もいる

乳量・乳成分低下19県域に増加 温暖化、経営に影響 高温は乳用牛の成育に大きな影響を及ぼし、酪農経営に打撃を与える。農水省が都道府県に、乳用牛にどのような影響が出ているか調査したところ、2021年時点で、19県域が「乳量・乳成分の低下」を挙げており、現行調査を始めた11年以降、最も多かった。

同省の21年地球温暖化影響調査レポートの一環で調べた。「繁殖成績の低下」も増加傾向にあり、17年は8県域だったが、21年には11県域に増えた。発情の微弱化や受胎率低下、飼育期間延長などの影響が出ている。

現場で実践されている対策として、牛舎への送風や換気、細霧冷房、牛舎への断熱材導入などが都道府県から報告されている。

温暖化で気温が上昇する中、同省はこれら対策を「酪農で大事な取り組み」(農業環境対策課)と話す。

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