相鉄・東急直通線の新工法から7月全線復旧の南鉄の絶景橋りょうまで プロが選ぶ優秀な鉄道プロジェクトは【コラム】

阿蘇の山並みに赤い鉄橋が見事なコントラストを描く南鉄「第一白川橋りょう」(画像:土木学会)

2022年9月に開業した西九州新幹線に続き、2023年3月のダイヤ改正では相鉄・東急直通線が営業運転に入るなど、鉄道プロジェクトの完成が続いています。

数ある鉄道プロジェクトで、プロはどんな技術を優秀と認めるのか。2023年6月9日に東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモントで開かれた、土木学会の令和5年度定時総会では学会賞として優良プロジェクトを表彰しました。鉄道関係の代表4件のポイントをまとめました。

相鉄・東急直通線の新綱島駅を角形エレメントで建設

相鉄・東急新横浜線開業日の様子(写真:鉄道チャンネル)

最初は、2023年3月18日のダイヤ改正で開業した相鉄・東急直通線。新線区間は羽沢横浜国大―日吉間の10.0キロですが、相鉄と東急がつながって、相模鉄道、東急電鉄、東京メトロ、東京都交通局、東武鉄道、西武鉄道、埼玉高速鉄道の7社局14路線、神奈川、東京、埼玉の一都二県にまたがる広大な鉄道ネットワークが誕生しました。

相鉄・東急連絡線で学会賞の技術賞を受賞したのが、東急新横浜線の地下新駅・新綱島駅で採用された「角形エレメント推進工法」。鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)などが工事を手掛けました。

新綱島駅は、東急東横線の綱島駅に隣接。地上の一部には建物が密集します。地下駅のように幅広な地下構造物は、一般に地上からの開削工法で建設しますが、新綱島駅の一部は地上に建物があって開削できません。

そこで、JRTTが編み出したのが角形エレメント推進工法。10両編成対応の新綱島駅は、ホーム長が204メートルありますが、開削できない日吉寄り約35メートル区間は、角形エレメント、つまり1メートル四方の角形パイプを押し込んでトンネル内壁を造り、その内部を掘削しました。

角形エレメント推進工法で建設された東急新横浜線の新綱島駅。角形エレメントが並ぶトンネル内壁、溝が継ぎ目部分です(画像:土木学会)

新綱島駅部のトンネルは幅19メートル、高さ14メートルで、内部面積はテニスコート一面(シングルス)より広い224平方メートルもあります。トンネルの形状は上部がすぼまった〝おむすび形〟。土木学会は、「都市部の地下空間活用に有効な工法」と評価しました。

西九州新幹線に在来線改良をリンク

続いて九州のプロジェクトを2件。2022年9月に開業した西九州新幹線(武雄温泉ー長崎間)では、JRTTとJR九州が技術賞を受賞しました。

新幹線本体の建設工事で、JRTTは構造物標準化など建設費低減に努めましたが、土木学会が評価したのは新幹線という高速鉄道ネットワークの開業効果を最大限に生かすための両者の創意工夫です。

新幹線に接続するJR佐世保線は、単線の江北ー武雄温泉間を一部複線・高速化。2004年の九州新幹線新八代―鹿児島中央間の開業時にも効果を挙げた、新幹線と在来線の同一ホーム・対面乗り換えを今回も採用しました。

西九州新幹線各駅は、地域をイメージするデザインで街のシンボルに。鉄道整備と街づくりの一体化も、高評価を受けました。

各駅各様の地域の魅力をデザイン的に表現した西九州新幹線(画像:土木学会)

南阿蘇鉄道の絶景橋りょう7年ぶりによみがえる

九州2件目は、鉄道の復活プロジェクトです。2016年の熊本地震で被災した熊本県の第三セクター・南阿蘇鉄道(南鉄)は2023年7月15日に全線で運転再開しますが、南鉄のシンボルが立野ー長陽間の「第一白川橋りょう」。全長166.3メートルで、下を流れる白川の水面からレールまでの高さは約60メートルあります。

第一白川橋りょうは戦前の1927年に架橋されましたが、熊本地震で橋台や橋脚が損傷。南鉄とJRTTなどによる復旧工事では、補強材で強度をアップしつつ、旧橋の形状やサイズ、色などは地震以前の姿を維持して、多くの鉄道ファンを魅了した橋りょうを見事によみがえらせました。

被災前の第一白川橋りょうは、土木学会の選奨土木遺産に選定。学会賞では、橋りょう技術者として名を残す、故田中豊博士を顕彰する田中賞の作品部門に選定されました。

日本一のマンモス駅の東西をつなぐ自由通路

東改札や「みどりの窓口」も一新された新宿駅東西自由通路(画像:土木学会)

ラストは、JR、私鉄を合わせて1日350万人以上が利用する日本一のマンモス駅・新宿駅で2020年に完成したプロジェクト。「新宿駅東西自由通路整備」で、JR東日本と新宿区などが技術賞を受賞しました。

新宿駅の東口と西口は約300メートルも離れていて、自由通路完成まで、東西の往来には入場券を購入するか、いったん駅の外に出て移動する必要がありました。

東西自由通路は、駅改札内の通路を拡幅。改札口なども移設して。自由に通行できるようにするプロジェクトです。

工事に当たっては、階段を閉鎖しないように通路を切り替えつつ、24時間利用可能な工事用トンネルも用意。線路内作業は終電後の限られた時間で行うといった周到な準備や工程・工法の工夫で、新宿区や関係鉄道各社が目指す「新宿駅グランドターミナル構想」を一歩実現に近付けました。

日本最古の鉄道トンネルが選奨土木遺産に

このほか今回は、JRTT北陸新幹線建設局と鉄道総研の「北陸新幹線斜杭基礎ラーメン高架橋」、JR東日本などの「浜松町駅の線路切り替え」、JRTTと東急電鉄の「相鉄・東急直通線日吉駅付近アンダーピニング工法」の3件が、それぞれ技術賞を受賞しました。

また、現役最古の鉄道トンネルとされるJR東海道線横浜ー戸塚間の「清水谷戸トンネル」と、上り線が1903年、下り線が1922年に架橋され、この間の技術進歩がうかがえる南海本線の「紀ノ川橋りょう」が、選奨土木遺産に選定されました。

さらに、東急建設が企画・制作した上田電鉄別所線の千曲川橋りょうの災害復旧を記録した映画「繋げる~赤い鉄橋を蘇らせた工事の記録~」が、学会映画コンクールで部門賞(一般部門)を受賞しました。

受賞者代表が登壇した学会賞授与式(筆者撮影)

記事:上里夏生

© 株式会社エキスプレス