高橋ひとみ『ふぞろいの林檎たち』はさぶちゃん(時任三郎)の家で枕投げをするくらい青春だった

(撮影:嘉茂雅之)

青春時代に夢中になったドラマの裏には私たちの知らない“ドラマ”がいっぱい。出演者ご本人を直撃し、今だから話せるエピソードをこっそりお届け!

【『ふぞろいの林檎たち』(TBS系・’83~’97年)】

四流大学に通う仲手川良雄(中井貴一)、岩田健一(時任三郎)、西寺実(柳沢慎吾)の就職や恋愛への葛藤を描いた青春群像劇。パート1からパート4まで制作され、脚本家・山田太一の代表作の1つに。

「高校3年生の夏休み、劇作家の寺山修司さんの舞台オーディションを受けに行ったのが縁で、寺山さんのもとに稽古に通うようになりました。すごくかわいがっていただいて、映画にも出演させていただきました。そんな寺山さんが、あるとき友人の山田太一さんが大学生のドラマを描くというのを聞きつけ、ご本人に『このコを出してくれないか』と、私の出演を頼んでくださったんです。そのドラマこそが『ふぞろいの林檎たち』でした」

こう語るのは、高橋ひとみさん(61)。一流大学に通いながらも、心が満たされず、マッサージパーラーで働く女子大生・伊吹夏恵役を演じた。

「寺山さんは『素晴らしい役だから、これでやっていけなかったら、テレビの世界は諦めなさい』とおっしゃっていました。山田太一さんや演出家の前でセリフの読み合わせをした帰りには寺山さんのところに直行。『山田はなんて言っていた』と聞きながら、稽古をつけてくれました」

■厳戒態勢で臨んだ体当たり撮影

撮影現場は、まるで学校にいるようだった。

「中井貴一くん、柳沢慎吾くん、手塚理美ちゃん、時任三郎くんなどみんな同年代ですからね。2日間リハーサル、2日間スタジオ、2日間ロケというスケジュールで、休みはほとんどなくずっと一緒。一人暮らしをしていたさぶちゃん(時任)の家にみんなで押しかけて枕投げをしたりと、思い切り青春を味わいました」

高橋さんは、体当たりの撮影にも挑戦した。

「貴一くんがお客さんとして店に来て、私が個室で上半身を脱いで接客するというシーンがありました。撮影は備え付けのカメラで行い、その様子を映すモニターも、ほかの人が見えないようにするなど、配慮していただきました。でも、無事に演じ終えると守衛さんが『すごくよかったよ!』と褒めてくれたんです。どうやら、守衛さんの見ていたモニターには映ってしまっていたみたい(笑)」

女優として成長する姿を、寺山さんはどのように見たのだろうか。

「じつは1話が放送される前に他界されたんです。私は泣くシーンを撮影するというタイミング。寺山さんに“ひとみは泣く演技なんてまだできないだろうから、僕のことを思ってしっかり泣きなさい”と導かれているような気がして。そんなこともあったから、私の一生の中でも、いちばん思い出に残っている作品なんです」

【PROFILE】

高橋ひとみ

’61年、東京都生まれ。’83年に『ふぞろいの林檎たち』でテレビドラマデビュー後、多くのドラマ、映画で活躍。TBS開局70周年記念舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」に出演中

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