<書評>『ナナムイの神々を抱いて』 臨場感ある情景描写

 2022年、法政大学沖縄文化研究所は創立50周年を迎えた。その記念事業として写真展「よみがえる宮古島の祭祀(さいし)―池間・佐良浜の神願い」が開催された。本書は展示写真の撮影者でもある著者が、当時の記録に新たな調査報告を加えて書き下ろしたものである。

 宮古島の北西約1.8キロに位置する池間島には、人口の増加に伴い宮古島や伊良部島の各地への移住や分村が度々行われた歴史がある。伊良部島の佐良浜はその分村先の一つである。ナナムイとは、村落祭祀の中心となる池間島最高の聖地で別名オハルズ御嶽とも言う。佐良浜もナナムイの神を勧請して、池間島と共通の祭祀を行っている。

 著者の調査記録は詳細で、情景描写は臨場感があり読む者を引きつける。また、写真も本書の見どころである。ユーグムイ(夜ごもり)での儀礼や厳粛な面持ちで祈りをささげるツカサンマ(女性神役)の姿など貴重な写真が随所に配置されている。これらはツカサンマや地域の人々との信頼関係がないと撮れない写真で、真摯(しんし)で誠実な態度で調査地の人々に接する著者の姿勢がうかがえる。

 最終章は、両地域の祭祀の現状の報告である。池間大橋が架かり、女性たちが島外で働くようになると、ツカサンマのなり手がいなくなり祭祀も中断した。働きながら年間50近い祭祀を行うのは相当の負担である。そこで祭祀の数を整理し、神役の負担を軽減すると、21年に3人のツカサンマが誕生した。現在は、先輩神役から教えを受けながら祭祀継承の模索を始めているという。一方の佐良浜はツカサンマの不在が続いているが、本書の報告からは、元ツカサンマたちの言動は前向きに感じられる。この現状にどう対処すべきかについて著者の言及がないのは、答えを出すのはあくまで当事者である島の人々である、という著者の考えによる、と評者は解釈する。

 現在、各地で伝統的祭祀の継承が喫緊の課題となっている。本書はこれからの祭祀を考える際にお薦めしたい一冊である。

(儀間淳一・沖縄国際大学非常勤講師)
 かとう・ひさこ 1937年生まれ、法政大沖縄文化研究所国内研究員。著書に「糸満アンマー 海人(うみんちゅ)の妻たちの労働と生活」「海に生きる 島に祈る」など。

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