今度こそ優勝できるといいのだが…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©︎RFEF]

「確かに2年前も夢見たわよね」そんな風に私が遠い目をしていたのは土曜日、ネーションズリーグ・ファイナルフォー決勝クロアチア戦を翌日に控えたロドリ(マンチェスター・シティ)の記者会見を聞いていた時のことでした。いやあ、前回の大会には自分もミラノに行って、現地の雰囲気を存分に味わったものでしたけどね。結局、サン・シーロで行われた決勝ではエムバペ(PSG)のオフサイドルールの盲点をついたゴールで1-2と負け、2016年にアトレティコがお隣さんに再び涙を呑んだCL決勝と同様に肩を落として帰ることになったんですが、今年の大会は自宅から追っているため、勝っても負けても飛行機や電車の時間を気にしないで済む分、気が楽かと。

ちなみに今季、グァルディオラ監督の下で三冠優勝を達成したロドリは、「Es muy importante volver a ganar. Solo dos jugadores han levantado un título/エス・ムイ・インポルタンテ・ボルベル・ア・ガナール。ソロ・ドス・フガドーレス・アン・レバンタードー・ウン・ティトゥロ(また優勝することがとても重要だ。今は2人しか、代表でタイトルを獲った選手がいない)」と言っていたんですが、いやいや。前回のファイナルフォーではスペイン黄金時代経験者はブスケツ(今季バルサを退団)1人しかおらず。彼が昨年のW杯後に代表引退をしたこの大会にはジョルディ・アルバ(同)とヘスス・ナバス(セビージャ)の2人が復帰したため、倍になってくれたんですから、ちょっとは心強いのでは?

まあ、そんなことはともかく、先に木曜の準決勝イタリア戦がどうだったのかとお伝えしていくことにすると、出だしは最高で、まさか開始早々、相手があんなミスをしてくれると一体、誰が想像したことでしょう。そう、GKドンナルンマ(PSG)が近くにいたボヌッチ(ユベントス)にボールを出したところ、恐れを知らない18才のガビ(バルサ)が37才のイタリア代表キャプテンにまとわりつき、逃げた先でジェレミー・ピノ(ビジャレアル)がボールを奪ってしまったから、ビックリしたの何のって。この20才もかなりいい度胸をしていて、狙い澄ましたシュートで先制点を挙げてくれたとなれば、トゥエンテ・スタジアムまで応援に駆けつけた3500人余りのスペイン人ファンもどんなに盛り上がったことか。

でもねえ、その喜びが続いたのは僅かな時間で、11分にはザニオラ(ガラタサライ)がエリア内から撃ったシュートがル・ノルマン(レアル・ソシエダ)の手に当たり、ハンドでペナルティを献上してしまうことに。わざわざスペイン国籍を取得して、この試合でスペイン代表デビューを果たしたフランス人CFにとってはまさに災難でしたが、そのPKもインモービレ(ラツィオ)にしっかり決められ、早々に同点に追いつかれてしまうんですから、困ったもんじゃないですか。それだけでなく、20分にはセンターからのスルーパスに抜け出したフラテッシ(サッスオーロ)にもGKウナイ・シモン(アスレティック)が破られてしまったとなれば…。

大丈夫。「イタリア相手に逆転するのは凄く大変だったろうけど、gracias a dios fue fuera de juego/グラシアス・ア・ディオス・フエ・フエラ・デ・フエゴ(神様のおかげでオフサイドだった)」と後でピノも言っていたように、紙一重で1-2にならずに済んだから、この日のスペインはツイていた?その後はモラタ(アトレティコ)がシュートを2本程、放ったんですが、どちらもGKドンナルンマ(PSG)の手を煩わせただけに終わり、試合は1-1のまま、ハーフタイムに入ります。

後半頭からは、どうにも動きが悪かったロドリゴ・モレノ(リーズ)に代えて、前半途中からアップを始めていたアセンシオ(レアル・マドリーを退団)を投入したデ・ラ・フエンテ監督でしたが、相手のマンチーニ監督の方もここでボヌッチ、スピナッツオーラ(ローマ)を、先週土曜にイスタンブールでCL決勝を戦ってからの代表合流となったダルミアン、ディマルコ(インテル)の2人に交代。「DF5人制から4人に変えた」(マンチーニ監督)ようでしたが、またしても3分にはモラタの残念なプレーにより、溜息をつかされることに。いえまあ、ゴール右すぐ前から、ミケル・メリノ(レアル・ソシエダ)がvolea(ボレア/ボレーシュート)したボールをドンナルンマにparadon(パラドン/スーパーセーブ)されてしまったのも惜しかったんですけどね。

それが丁度、モラタのすぐ側に落ちながら、ゴールに背を向けていた彼は体を回転させる時に方角を見失ったか、そのシュートが枠を逸れてしまったんですよ。いえ、スペインもフラテッシの強烈シュートをウナイ・シモンが弾いてくれたため、スコアは動かず、デ・ラ・フエンテ監督もカナレス(ベティス)、ファビアン・ルイス(PSG)、アンス・ファティ(バルサ)とフレッシュな戦力をピッチに送り込んだんですけどね。同点のまま、どんどん時計の針は進むばかり。2018年のW杯以来、ユーロ2020、昨年のW杯と続けてPK戦で敗退しているスペインとなれば、延長戦になったら、絶対ヤバいと思っていたのはきっと私だけではなかったかと。

それが37分、最後のシュートもドンナルンマを出し抜けなかったモラタに代わって、ホセル(エスパニョール)が入ったことで奇跡が起こったんです!43分、ジョルディ・アルバ(バルサを退団)がエリア内左奥からクロスを入れたところ、そのボールは敵DFにクリアされてしまったものの、CL決勝MVPのロドリ(マンチェスター・シティ)がインテル戦での決勝点の再現をしてやるとばかりにエリア外からシュート。ただこの日は間に沢山、イタリアの選手たちがいたため、ゴールには届かなかったんですが、いやあ、クリスタンテ(ローマ)、トロイ(アタランタ)に当たって逸れたボールをまさか、ゴール前で待っていたホセルが軽く蹴ってネットに入れてしまうとは!

うーん、後でこの試合でもMVPに輝いたロドリも、「No lo celebré mucho porque tenía mil dudas/ノー・ロ・セレブレ・ムーチョ・ポルケ・テニア・ミル・ドゥーダス(多くの疑念があったから、あまり祝わなかったんだ)」と言っていたんですけでね。当然ながら、VAR(ビデオ審判)裁定になった時は誰もがドキドキして待っていたんですが、ホセル自身は「He estado de pícaro, me ha caído... y estaba convencido de que no era fuera de juego/エ・エスタードー・デ・ピカロ、メ・ア・カイードー…イ・エスタバ・コンベンシードー・デ・ケ・ノー・エラ・フエラ・デ・フエゴ(ボクは悪知恵が働いて、そこにボールが落ちてきて…オフサイドでないことは確信していた)」そう。

実際、彼はロドリが蹴ってから、敵DFを追い越してゴール前に行っていたため、このゴールは正当なものとして、スコアに挙がってくれたから、もうこっちのもんですって。オランダに土壇場同点ゴールを入れられて、延長戦入りしたクロアチアとは違い、4分間のロスタイムにも異変は起きず、2-1でスペインの決勝進出が決定することに!

ただ、ここまでは前回のネーションズリーグ・ファイナルフォー準決勝と同じで、スペインは優勝できずに無冠時代が11年間、続いていますからね。この結果にはデ・ラ・フエンテ監督も「遅かれ早かれこうなるのはわかっていた。Los chicos han hecho todo lo que les hemos pedido/ロス・チコス・アン・エッチョー・トードー・ロ・ケ・レス・エモス・ペディードー(選手たちは頼んだこと全てをやってくれた)」と満足感を表明していたものの、その真価が問われるのはやっぱり、日曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)からのクロアチアとの決勝なんですよ。

おそらくデ・ラ・フエンテ監督も3月のユーロ予選、1試合目のノルウェイ戦で、その時も終盤に出場したホセルが2点を挙げたこともあって、3-0と快勝した後、次のスコットランド戦ではスタメン8人を総取っ替え。GKケパ(チェルシー)、ロドリ、ミケル・メリーノ(レアル・ソシエダ)以外、最初の試合で控えだった選手を先発させ、2-0と負けた轍は踏まないと思いますが、やはり注意しないといけないのはクロアチアの120分決戦体質でしょうか。そう、水曜のオランダ戦で2-2に追いつかれて入った延長戦でペトコビッチ(ディナモ・ザグレブ)とモドリッチ(マドリー)がゴールを挙げ、2-4で勝利したなんてのは序の口で、本来なら、37才のクロアチアのキャプテンこそ、長丁場が堪えるはずなんですけどね。

それがモドリッチは代表で8回経験している延長戦にほぼフル出場しており、直近7回の延長戦で負けたのはユーロ2021の16強対決スペイン戦のみ。今回はクロアチアの方が中1日多いのもありますし、とてもガソリン切れは期待できそうにない?金曜は再び、トゥエンテの練習場でリハビリトレをして、スペインは夕方、決勝の行われるフェイエノールト・スダジアムがあるロッテルダムに移動。一応、「Hemos trabajado los penaltis/エモス・トラバハードー・ロス・ペナルティス(PKの練習はした)」と言っていたデ・ラ・フエンテ監督には、ホセルは先発したスコットランド戦ではあまりパッとしなかったことを念頭に置いて、またモラタを汗かき役として使ってもらって全然、構いませんよ。

そうそう、金曜の代表記者会見ではホセルが主役になっていたんですが、どうやら降格したエスパニョールから古巣のマドリーにレンタル移籍する話は来週以降、進めるようで、入団プレゼンが火曜にあるという噂も。いやあ、今週のバルデベバス(バラハス空港の近く)はまさにプレゼンラッシュで、フラン・ガルシア(ラージョから移籍)、ブライム・ディアス(ミランへの3年間レンタル移籍から帰還)に続き、木曜にはアザール(今季限りでマドリーを退団)以来となる移籍金1億ユーロ(約160億円)越えの大型補強、ベリンガム(ドルトムントから移籍)もヒザのリハビリをしていたイングランド代表を離れてマドリッドを訪問。バジェホから譲ってもらった、彼の日はジダンが着けていた背番号5番の入った来季の新ユニフォームでポーズしていましたからね。

ホセルもこのパープルに代わって、肩の3本ストライプがゴールドになった新ユニを身につけて、今や再びピッチから完全に芝が撤去され、突貫工事状態に入ったサンティアゴ・ベルナベウではなく、エスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(バルデベバスにあるRMカスティージャのホーム)で写真を撮ることになるはずですが、実はこのピッチで土曜にはラ・リーガ2部昇格の懸かったエルデンセとのRFEF1部プレーオフ決勝1stレグがあったんですよ。いえ、先週末にバルサ・アトレテイックとの準決勝2ndレグでマドリーの弟分チームが兄貴分に引けを取らない根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)を披露。4-2の負けを3-0勝利で引っくり返したミニクラシコは、昼間にアトレティコBのRFEF1部昇格が懸かったUCAMムルシアとの決勝プレーオフ決勝2ndレグとの梯子になるため、私は遠慮してしまったんですけどね。

この土曜は心を決めて、ディ・ステファノまで30分の道のりを歩いて行ったんですが、最寄り駅のフェリア・デ・マドリッドで降りる乗客が多かったせいで、てっきり皆、RMカスティージャの応援に行くのかを思いきや、とんでもない。IFMA(国際展示場)で開催されていた野外ミュージックフェスタに参加する人々が大挙していただけで、バルデベバスまでの道を歩くマドリーファンはまったく見えなかったんですが、その理由は簡単至極。そう、ほとんどのファンは車で駆けつけたためで、高速道路を渡ってすぐには駐車場まで続く長い長い列が始まっていたんですが、おかげでスタンドもほぼ満員状態に。

試合の方は前半優勢だったエルデンセがハーフタイム直前にニエトのゴールで先制。ラウール監督はまだ負傷が治って日が浅いアリバスを後半頭から投入したんですが、後半5分にはマリオ・マルティンがソベロンをエリア内で倒し、クリス・モンテスのPKがポストに弾かれなければ、今度はアウェイで2点差のレモンターダ達成という偉業に挑む破目になるピンチを逃れたんですが、やっぱりリードされている方がマドリーのDNAが燃えるんですかね。24分にはオブラドールのクロスをアリバスがヘッドで決め、最後は1-1で引き分けたとなれば、来週日曜の2ndレグで2部昇格を決められる可能性はかなり高まったのでは?

え、RMカスティージャと言えば、長らくマドリーのカンテラ(下部組織)にいる中井卓大選手も今季から所属しているんじゃないかって?いやあ、私も先日、CL準決勝マンチェスター・シティ戦1stレグ前のトップチーム公開練習に彼が応援参加しているのを目撃。毎回、試合もスコアや出場選手ぐらいはチェックしているんですが、まったく名前が見当たらなくて、このプレーオフでもベンチに入っていなかったため、もしや負傷でもしているのか心配していたんですけどね。顔馴染みのマドリー番記者もカスティージャのことはあまり知らないし、誰に訊けばいいのかずっとわからなかったところ、何と答えはすぐ側にあったんですよ。

というのもディ・ステファノのプレスルームにいつもコリセウム・アルフォンソ・ペレスで会うヘタフェ番の女性記者がいたため、挨拶したところ、彼女はRMカスティージャも担当していたというから、もうビックリ。中井選手について訊いてみると、どうやらラウール監督のお眼鏡に叶わないというか、サッカースタイルが合わないというか、そういう理由でベンチ外になることが多いのだとか。いえまあ、中井選手もまだカスティージャ1年目ですからね。来季、チームが2部に上がるか上がらないかでも変わりますが、レンタル移籍という手もありますし、20才になった彼のプレーする姿を頻繁に見られる日がいつか来てくれると、私も嬉しいのですが…。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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