嗚呼、哀れな立憲民主 小沢一郎と蓮舫、異色タッグの野合宣言|坂井広志 壊し屋、小沢一郎氏がまた動き出した――。次期衆院選で野党候補を一本化して、自民党候補に対峙することを目指すという。だがこの動きは旧民主の面々が大好きな内ゲバであり、共産とも維新とも協力したいというのなら、それは野合でしかない。(サムネイルは小沢一郎事務所Twitterより)

野党一本化という無責任の極致

もはや既視感しかない。この政党は過去から学ぶということを知らないのか。

立憲民主党の有志議員が「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」を発足させた。会の名称の通り、次期衆院選で野党候補を一本化して、自民党候補に対峙することを目指す。執行部への申し入れなどを検討している。

設立趣意書には「過去の様々な行き掛かりや好き嫌いの感情などは、日本再興の大義の前に、一切捨て去ることを互いに呼びかけたい」とある。堂々の野合宣言である。令和3年の前回衆院選で、日米安保条約廃棄を掲げる共産党と選挙協力をして敗北したことを、もうお忘れか。

立民と日本維新の会の考え方の違いも明白である。

憲法改正では、維新は9条への自衛隊明記を訴え、自民党と足並みをそろえている。立民は「自衛隊は合憲であり、役割と必要性については国民に十分に理解されている」(中川正春党憲法調査会長)として、明記は不要との立場だ。

政府が保有を決めた反撃能力についても、維新は「自衛措置として認められるのが当然」としているのに対し、立民は先制攻撃となるリスクが大きいなどとして「賛同できない」との考えだ。

こうした国の根幹となる政策をなげうって、候補者を一本化し政権を獲得したところで、国政は混乱するだけで、不幸になるのは国民だ。共産とも維新とも協力したいというのなら、繰り返すが、それは野合でしかない。

維新と連携したいのなら、国民を守るために抑止力・対処力を高めるという、現実的な防衛政策に舵を切ることが先である。もちろんその場合、共産党との選挙協力はさすがにできなかろう。つまり、野党一本化というのは無責任の極致としか言いようがない代物なのである。

「泉健太代表降ろし」への号砲

旧民主党の流れをくむこの政党のなかで、こうした無責任な政局優先の企てを試みようとする議員はだいたい決まっている。取材を進める前から、小沢一郎衆院議員の仕掛けだろうと推測していたが、やはりそうだった。

呼びかけ人は立民の衆院議員計12人で、小沢氏のほか、旧民主時代の小沢グループ「一新会」の主要メンバーだった松木謙公衆院議員も名を連ねている。党所属衆院議員の半数以上の53人の賛同を得ているという。

この動きは、「泉健太代表降ろし」とみるべきだろう。皮肉を込めて言わせてもらえば、旧民主の面々が大好きな内ゲバである。泉氏は共産や維新との選挙協力に否定的だ。この方針の向こうを張るのが小沢氏らだ。要は路線闘争であり、謀反である。多数派工作で泉氏が敗れれば、衆院選前に辞任という事態も大いに考えられよう。

ツイッターで小沢氏は「党内も野党間の協力と候補の一本化が大事だと思っている人が大多数です」と書き込んだ。党内抗争の勝機は我にあり。そう言いたげな投稿である。

代表を支えない文化とかみつき蓮舫

2017年7月、民進党の蓮舫代表が「二重国籍」問題で記者会見

今回の内ゲバの特徴は、これまであまり接点がなく、いや、むしろ互いに敬遠していたとさえいえる、小沢氏と蓮舫氏が手を握った点にある。

もちろん、この動きは衆院議員が中心のため、呼びかけ人に蓮舫氏の名前はない。しかし、蓮舫氏に代わってといっては何だが、蓮舫氏と極めて良好な関係にある手塚仁雄衆院議員が呼びかけ人に入っている。16日の記者会見では、ひな壇に小沢氏、その隣に手塚氏が座っていた。

案の定、蓮舫氏は「野党乱立では自民党を利する選挙になります。心ある勢力がまとまり政権与党に向き合うことが強く求められます。対象は衆議院議員とのことですが、賛同します」とツイートした。

蓮舫氏が泉氏に批判的なのは各種報道の通りである。4月の統一地方選、衆参5補欠選挙の結果を踏まえて、5月10日に行われた非公開での両院議員懇談会では「一番変えなきゃいけないのは代表の認識ではないか」とかみついた。

旧民主は自分たちで選んだ代表を支えるという文化に乏しかったが、立民もその文化はしっかり引き継いでいるようだ。

蓮舫氏は旧民進党時代に代表を経験し、トップに立つことの大変さを経験している。それにも関わらず、支えるのではなく、率先して泉氏の足を引っ張るのは感心しない。

代表をしていたことを忘れているのでは、と思っていたが、党関係者によると、懇談会で蓮舫氏は「私も代表をしていて苦しかった」と吐露したというではないか。ある党関係者も「代表をしていたことを忘れていなかったんだな、とこの発言を聞いて思いましたよ」と苦笑していた。

自らの経験を踏まえ「一度、遠心力が働くと元には戻らない」といった趣旨の発言もしていたという。泉氏の遠心力は戻らないと言いたかったようで、さっさと辞任せよということなのだろう。

直接言えばいいものを、ツイッターを通じて苦言を呈した。このツイートはその後、削除された。

まるで使い捨て、こらえ性のない小沢一郎

さて、記者会見で小沢氏のもう片方の隣に座ったのは、令和3年11月の代表選に立候補した小川淳也衆院議員だった。小川氏に中心的な役割を担ってもらおうという腹積もりなのだろう。

小沢氏は旧自由党代表だった平成31年4月、国民民主党と玉木雄一郎代表と交渉し、合併にこぎつけた。立民に移ってからは令和3年の立民代表選で小川氏ではなく、泉氏を支援し、その後、泉氏があまり言うことをきかなくなると、「生意気だ」(小沢氏周辺)として、はしごを外し小川氏に接近する。こらえ性のない小沢氏らしい行動パターンである。

ある立民議員は「玉木氏に近づき、その次は泉氏に近づき、最後は離れる。まるで使い捨てのようだ。小川氏もいつか捨てられるのではないか」と心配している。

果たして、泉氏は今回の動きをどう見ているのか。ツイッターにこんな投稿があった。

「維新、国民、共産、れいわ…。野党は幅広い。党内有志の仲間が昨日示した野党候補の一本化の構想。実際にどのように実現していこうとの構想であるか。数々の大勝負を経験してこられた大先輩の小沢一郎議員をお招きし、近日中にもお話を伺いたい」

記者会見では「言うはやすしだ」と述べており、維新の馬場伸幸代表が「立民を叩き潰す」と語っているなかで、どうせよというのか、という本音が透けて見える。

小沢氏は、候補者を一本化することで、与党を過半数割れに追い込み、電光石火のごとく野党で連立政権を樹立することを考えているのだろう。そのときの首相は、いまや上り調子の維新から出すというシナリオまで練っているのではないか。

細川政権をつくったときのやり方である。小沢氏は維新に対し「首相は維新からでいい」と伝え、ポストで誘いこむことで候補者の一本化を進めようとしている可能性がある。もっとも、勢いに乗る維新は、ポストをぶら下げて、ホイホイとついてくるような柔な政党ではなかろう。

小沢氏が言うように「候補の一本化が大事だと思っている人が大多数」というのなら、旧民主勢力がいまだに国民の信頼を得られずにいる原因を、立民は全く理解していないことになる。その姿は嘆かわしくもあり、実に哀れである。

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坂井広志

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