【第2回WUBS】FIBA世界ランキング3位のオーストラリアで大学王座獲得、シドニー大のバスケットボールとは

いよいよ開催まで2ヵ月を切った第2回WUBS(Sun Chlorella presents World University Basketball Series=ワールド・ユニバーシティー・バスケットボール・シリーズ)で、ディフェンディング・チャンピオンのアテネオ・デ・マニラ大(フィリピン)が最初に対戦する相手となるシドニー大ライオンズについて、詳細な情報を知っているバスケットボールファンはあまり多くないかもしれない。しかし、FIBA世界ランキング3位でアジア・オセアニアゾーンでは最強のオーストラリアにあって、大学リーグUBL(University Basketball League)の王座に就いたチームだ。しかも2021年、2022年と連覇している。見応えのあるバスケットボールを見せてくれることは間違いない。

白鷗大は1回戦でペルバナス・インスティテュート(インドネシア)に勝つと、このシドニー大とアテネオ・デ・マニラ大の勝者と対戦することになる。アテネオ・デ・マニラ大に関しては別稿で紹介したが、ここではシドニー大がどんな特徴を持つチームなのかを紹介してみたい。

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8月10日(木)から13日(日)に国立代々木競技場第二体育館で開催されるWUBS。シドニー大は初戦で初代王者のアテネオ・デ・マニラ大と対戦する(©WUBS)

シドニー大——というよりもオーストラリアの大学バスケットボール界の動向——が思うほど世界的・一般的に知られていないのは、数年前まで強化の土台となる全オーストラリア的な大学リーグを持っていなかったためと思われる。バスケットボールに関する育成が盛んに行われていないということではもちろんないし、大学同士のバスケットボールによる交流もあるのだが、強化・育成における大学の位置づけが日本とは大きく異なっているのだ。

オーストラリアには、NBLという頂点のプロリーグがある。このリーグについては、馬場雄大がメルボルン・ユナイテッドで王座獲得を達成したり、それ以前には現在アルティーリ千葉のヘッドコーチを務めているアンドレ・レマニス氏が率いたブリスベン・バレッツに比江島 慎(現宇都宮ブレックス)が一時在籍したことなどで、日本でも近年広く知られるようになった。それでは、国内最高峰のNBLやNBAをはじめとした海外リーグでのプロキャリアを目指す若者たちはどのように腕を磨くかというと、これまではセカンダリ―・エデュケーション(日本の中学・高校にあたる教育機関)のチームやセミプロリーグのNBL1が、主だった切磋琢磨の場となってきた。その中でも優秀なプレーヤーの中には、大学生の年齢になるとNCAAに飛び出すものもいる。ブルックリン・ネッツのパティ・ミルズがセント・メリーズ大に留学したのはそのような例の一つだ。

大学バスケットボールは、単体の競技として注目を集める方向性よりも、いくつもの競技で大学同士が火花を散らす「ナショナルズ」というビッグイベントの一環として行われてきた。この「ナショナルズ」は、趣向としてはハイレベルで大規模な運動会で、国内の大学スポーツを統括するユニスポート(unisport)の公式サイトでも相当な熱量の高さで大々的に紹介されている。

また、個別の大学同士で伝統的なライバリーをフィーチャーした定期戦が行われてきた歴史もある。例えばシドニー大は、同じシドニー市にあるシドニー工科大との間で「インターバーシティ・シリーズ」と名付けられた恒例のライバル対決で盛り上がるのだ。

UBLが誕生した2021年以降、大学のトッププレーヤーたちはこうした環境の中で、学業の傍らセミプロリーグのNBL1でプレーする例も多い。シドニー大も後述のとおりその例に当てはまる。

日本の大学では、体育会とレクリエーション的なサークルがまったく別の団体であるケースがほとんどではないだろうか。それに対して、シドニー大では一般学生がお互いの交流や健康維持目的で参加するピックアップゲームの運営と同じ土台のトップチームとして、WUBSで来日するライオンズという体育会的なチーム(ハイ・パフォーマンス・ロスター)が存在している。この点は日本的な視点からは特徴的だ。ただし、レクリエーション的な運営の頂点というイメージから、本格的な競技志向ではないのかな…などと思ったら大間違い。2016年にはNCAAディビジョン1の伝統的な強豪として知られるUCLAを招待して親善試合を行っている。

このとき遠征してきたUCLAは、現NBAシカゴ・ブルズのロンゾ・ボールや昨シーズンB2の山形ワイヴァンズで活躍したトーマス・ウェルシュらが所属していたチームで、シドニー大は76-123と圧倒された。しかし、こうした対戦を組むこと自体、シドニー大のバスケットボールに対する意欲や自信の表れと言える。何しろそのUCLAは2016-17シーズンを31勝5敗の好成績で終え、NCAAトーナメントでもスウィート・シックスティーン(ベスト16)進出を果たしたチームなのだ。

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\--{アグレッシブなペリメーターからのアタックに注目}--

アグレッシブなペリメーターからのアタックに注目

オーストラリアの大学バスケットボールは、2021年にユニスポートが国内リーグUBLを開幕させたことで一つの節目を迎えた。そしてシドニー大は、その初年度と2年目の王者ということになる。3年目の今年のリーグは5月に終了したばかりで、シドニー大は3連覇を逃したもののレギュラーシーズンを13チーム中の3位で終え、プレーオフでも4強入りを果たした。

ヘッドコーチを務めるトム・ガーレップは、2018年までNBLでプレーヤーとして活躍していた、まだ37歳の若手コーチだ。現役引退前の2018年1月には、中国の深圳市で開催されたFIBA 3x3アジアカップにオーストラリア代表として出場し、王座獲得に貢献してMVPに輝いた。現在はコーチとしてだけでなくディレクターとしてシドニー大をけん引するとともに、NBL1の運営や若年層の指導にも積極的にかかわっている。ゆくゆくはオーストラリアのバスケットボール界で、指導者として頭角を現してくるかもしれない。

プレーヤーとしてNCAAディビジョン1のカリフォルニア大サンタバーバラ校、そしてNBLでキャリアを積んだトム・ガーレップHCは、若手だがシドニー大の学生に伝えるべき貴重な経験を持つコーチだ(写真/©WUBS)

今年3月から5月まで行われてきたUBLの3シーズン目を、リーグ公式サイトのデータを基に振り返ると、チームとしての傾向がいくつか見えてくる。リーグ公式サイトでレギュラーシーズン9試合(7勝2敗)の記録を辿ると、平均得点が94.6に対して失点は72.7。得点の内訳は3Pショットで平均28.2得点、ペイントで51.6得点、その他が14.8得点だった。

3P成功率はチームとして30.8%とさほど高くはないが、プレーオフを含む全試合の通算でリーグトップの48.0%(50本中24本成功)の成功率を記録したポイントガードのマイケル・ヨーンと、同3位の42.9%(56本中24本成功)のロバート・ムーアという高確率のボリューム・シューターがいる。ほかにもジョシュア・ペイン、チャンドラー・スケルトンの二人がロングレンジから積極的にゴールを狙ってくる。

UBLの直近シーズンで3P成功率がリーグトップの48.0%だったポイントガードのマイケル・ヨーン(写真/©WUBS)

長身ガードのチャンドラー・スケルトンはニューサウスウエールズ州のU20選抜に名を連ねたタレントだ(写真/©WUBS)

得点面ではガードとウイングの比重が高く、マシュー・ウェイチャーの17.4得点を筆頭にペイン(16.8)、ヨーン(15.1)、ムーア(13.0)、スケルトン(11.3)、そして11.1得点のミッチェル・スミスまで、2桁得点を記録しているのは全員ペリメーターのプレーヤーだ。この中でウェイチャーはフリースロー成功数(46本)がリーグトップで、平均4.6アシストもリーグ4位。オフェンスにおける非常にアグレッシブな姿勢が数字に現れている。

シドニー大の直近シーズンでスコアリングリーダーとなったマシュー・ウェイチャー(写真/©WUBS)

このウェイチャーやヨーンら小柄なガードの果敢なアタックを、センターフォワードのキャンベル・グリーン(平均8.1得点、7.4リバウンド)らフロントラインがうまく生かすような展開がシドニー大のバスケットボールと言えそうだ。タレントのレベルがオーストラリア国内でどんなものかについては、例えばグリーンがFIBA U17ワールドカップ2018のオーストラリア代表に名を連ねていたことや、ウェイチャーとスケルトンがニューサウスウェールズ(オーストラリア東南部の州)でU20選抜に選ばれていたことなどが指標となるだろう。また、ウィルチャーがシドニー・コメッツ、グリーンとスミスがヒルズ・ホーネッツ、ヨーンとムーア、そしてペインがノース・ベアーズなど、主力がこぞってNBL1のクラブに所属している。

シドニー大のフロントラインの要となるキャンベル・グリーン(写真/©WUBS)

このシドニー大と、フィリピンのトッププレーヤーの数々を輩出したアテネオ・デ・マニラ大が激突するWUBSの1回戦はなかなかの見ものだ。どちらが勝つかはまったく予想がつかないが、どちらにしても白鷗大がペルバナス・インスティテュートとの初戦の結果次第で戦う相手としては、難敵であることに違いはなさそうだ。

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