100万円を拾ったら、謝礼はいくらもらえる? 法定の「報労金」事情あれこれ

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 現金43万円が入った財布を拾って警察に届けたにもかかわらず、落とし主から謝礼をもらえなかった-。そんなトラブルが訴訟に発展したというニュースが、最近話題になった。落とし物の拾得に対する「報労金」の支払いは、法律で義務付けられている。だが、運用実態を警察に取材してみると、どんな状況でも受け取れるわけではないらしい。もしあなたが100万円を拾ったとしたら、謝礼の額は一体いくらになる?(小川 晶)

 兵庫県警に届けられる現金の落とし物は2022年度の1年間で総額9億8千万円。1日当たりで計算すると、その額は約268万円に上る。外出中に現金を拾うことはそう珍しくない。

 こういった落とし物や忘れ物の取り扱いについては「遺失物法」という法律で定められている。条文では、現金などを拾ったら、速やかに落とし主に返すか、警察などに提出するよう定める。

 その上で、落とし主が返還を受ける場合は、遺失物価格の5~20%に当たる報労金を拾得者に支払わなければならないとも規定。落とした現金が100万円なら、報労金は5~20万円となる。 【ケース①】前を歩いていた人が100万円を落としたので、その場で拾い、声をかけて手渡した。

 ズボンの後ろポケットや手提げかばんから財布がぽろり-。100万円は大げさだとしても、状況だけ見れば、日常生活でも十分にあり得そうな事態だ。

 落とし主が「ありがとうございます、助かりました」とお礼を言い、「いえいえ、こちらこそ」と返す。こういったやりとりで終わるのが一般的だが、拾い主が「お金を返してあげたので、報労金をください」と求めた場合はどうなるのか。

 兵庫県警の説明は「法律にのっとって速やかに落とし主に返還しているため、報労金を受け取ることができます。現金の占有が、拾い主に移ったとの前提になりますが」。だが、常識的には善意による行動の範囲内とも考えられ、報労金の権利を強く主張する人はそういないかもしれない。 【ケース②】道ばたで100万円を拾ったものの、近くに交番や警察署がなく、110番でパトカーに来てもらって届けた。

 遺失物法の規定通り、現金を警察に提出しているが、この場合は、報労金の支払い対象にならない可能性が高い。県警によると、警察署や交番などに届けるという手続きを経て、初めて受け取りの権利が生じるという。

 「警察施設に届けるという一定の労力に報いるから報労金なんです」と担当者。ただ、大きすぎて持ち運べないような拾得物の場合は、施設に持ち込まなかったとしても、その価値に応じた報労金が支払われる可能性があるそうだ。 【ケース③】乗っていたバスの車内で100万円を拾い、運転手に託した。

 バス、鉄道のほか、ホテルや商業施設などで現金を拾い、サービスセンターに預けたような場合も同様だ。警察施設に足を運んではいないが、拾い主として一定の手続きは踏んでいる。

 このような場合、遺失物法では、現金などを預かった「施設占有者」が警察へ届けるよう定める。届け出に当たって拾得者と施設占有者の二者が介在しているため、報労金は「それぞれ2分の1」と規定。100万円なら、通常の半分の2万5千円~10万円ずつを受け取れることになる。 【ケース④】口座残高が100万円の通帳を拾い、近くの交番に届けた。

 遺失物法にのっとった手続きをとっており、報労金を受け取る権利があるケース。だが、県警によると、謝礼の基準が100万円となる可能性は薄いという。

 額面がどれだけ大きかったとしても、通帳は通帳。現金とは異なり、そのものが金銭的な価値を持つわけではないためだ。担当者は「もし仮に報労金をやりとりするとしたら、通帳の再発行手数料が基準になるかもしれません」と指摘する。 【ケース⑤】拾った100万円を警察署に届けたものの、落とし主が報労金の支払いを拒んだ。

 遺失物法では、報労金を落とし主の義務として「拾得者に支払わなければならない」と規定する。だが、この条文に対応する罰則がないため、支払いを拒まれたとしても、民事事件として訴えを起こすしかない。

 今年4月にネットで話題になったニュースが、まさにこのケースだった。43万円入りの財布を拾って警察に届けたのに謝礼がないとして、大阪の男性が大阪簡裁に提訴。最終的に、遺失物価格の約6%に当たる7万円を落とし主が支払うことで和解が成立したという。

 こういったトラブルで、警察が仲介や助言することはない。警察庁の通達で「報労金の具体的な額は落とし主と拾い主らの間で決めるべき」などと定められているためだ。県警によると、個人情報が相手方に伝わるのを嫌う拾い主もおり、報労金の権利を放棄するケースも一定あるという。

    

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 兵庫県警によると、2022年度に拾得の届けがあった現金の総額9億8千万円のうち、落とし主が見つかり、返還されたのは、単純計算で約7割程度だ。

 これに対し、遺失の届けがあった現金の総額は、拾得の2倍近い18億4千万円に上る。県警の担当者は「落とし物は、必ず手元に戻ってくるわけではない。届けられたとしても、保管などの業務に相当の労力がかかる。大切な物は、肌身離さず持ち歩くようにしてほしい」と呼びかける。

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 この記事は神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」に寄せられた情報を基に取材しました。

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