過疎化が進む地元で刃物研ぎボランティア 小田原

自宅の庭で包丁を研ぐ稲子さん=小田原市根府川

 過疎化が進む地区内のお年寄りのため、刃物研ぎのボランティアを続けている男性がいる。小田原市根府川の稲子(いなご)久弥さん(78)はほぼ毎日、砥石(といし)の前で一心に刃先を研ぐ。「地域には1人暮らしのお年寄りが多いが、たまに遊びに来た子どもをもてなすのに、すぐ切れる包丁があった方がいいじゃないか」と笑顔を見せる。

 平たい箱の中には依頼を受けた数本の包丁。その中から無造作に取り出された1本は、刃先がさびていた。水で湿らせ、まず目の粗い「粗砥(あらと)」で研ぐ。70歳代とは思えない筋肉みなぎる腕がリズミカルに躍動すると包丁のさびが取れていく。次は目の細かい「中砥(なかと)」で仕上げだ。30分ほどで包丁はピカピカになった。縦にした紙に乗せただけで、刃先がすっと入っていった。

 稲子さんは子どもの頃、器用だった祖父の久太郎さんが山刀やのこぎりで竹籠や竹ぼうきなど何でも作ったのを見ていたので刃物の扱いは分かっていた。後年、40歳ごろに自宅を建てた際に出入りの大工から刃物の研ぎ方を教わり、自宅の包丁などを研ぎ始めた。

 同じ地区内にある姉の嫁ぎ先の包丁も研いでいるうちに近所で評判になり、商社の丸紅を60歳で定年退職してから本格的に“研師”を始めた。現在は13軒から依頼を受け、月に20~25本研ぐ。正月準備を控えた12月が一番忙しいという。

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