明石の君と再会し姫君を引き取る~巻名:松風・薄雲~【図解 源氏物語】

姫君と対面して感動

かねてより造営していた二条東院(にじょうひがしのいん)が完成し、源氏は東の対には明石の君母娘を迎えたいと考えました。しかし、明石の君は身分の違いを思い、惨めな思いをするのではと恐れます。娘のことを思うと、いまの暮らしも不憫に思え、源氏に返事ができないのでした。そこで、明石の入道は、娘たちのために、大堰川(おおいがわ)のほとりに家を用意しました。入道の妻の明石の尼君は、涙ながらに入道と別れ、娘である明石の君、孫である明石の姫君とともに、その家に移り住みました。源氏は、紫の上の手前、なかなか会いに行けません。明石の君は、明石での別れのときに源氏が置いていった琴の琴を弾いて寂しさを紛らわせます。

やがて、嵯峨野に造営中の御堂を見に行くという口実で、源氏は明石の君を訪ねます。そのとき、我が子である明石の姫君に初めて対面して、愛くるしさに感動します。久しぶりに明石の君と琴の琴を弾き、歌を詠み交わしながら、源氏は、明石の姫君の将来のためには、自分が養育するのがよいと考えますが、明石の君の心中を思い言葉には出しません。二条院に戻った源氏は、紫の上に明石の姫君を迎え入れたいと相談します。紫の上のもとで、3歳の明石の姫君に袴着の儀式を行わせたいと機嫌を取り、姫君の養育を依頼します。明石の君への嫉妬の感情を抱きつつも、子ども好きな紫の上は、素直に喜んで養育を承知しました。

二条東院・・・源氏が父、桐壺院から譲り受けた建物を修築。寝殿と西・東・北の対(棟)に分かれていた。
大堰川・・・京都の桂川のうち、現在の京都市右京区嵐山付近。
袴着の儀式・・・幼児が初めて袴を着ける儀式。

平安貴族の収入

平安時代の貴族の収入は、例えば公卿のトップである左大臣は、官職に対して、広さ30町(約300,000㎡)の田地と2000戸相当の村が職田、職封として与えられた。その他にも位階に応じて与えられる位田や位封などもあり、現在の金額に換算すると数億円にも及ぶといわれている。ここでは貴族が莫大な収入を得られるようになったしくみを解説しよう。

公地公民の制度・・・土地と農民はすべて朝廷のものと定められていた。「荘園」ができるまで、土地も農民もすべて朝廷のものであり、農民には口分田を貸し与え、租・庸・調の税を徴収していた。また貴族へも土地や村(郷)を官職や位階に応じて与えていた。公地公民は理念的なもので、現実は異なっていたとも。

班田収授法・・・口分田は一代限りで朝廷に返さなければならないという法。農民への税の取り立てはとても厳しく、さらに男子は兵にとられるうえ、せっかく耕した土地も一代限りとあり、徐々に口分田からの農民が離れていった。これによって朝廷の税収は減少してしまう。

墾田永年私財法・・・開墾した土地は永久にその者のもになるという法。困った朝廷は、墾田永年私財法を発令した。貴族や寺院・神社は農民などを呼び戻し、どんどん土地を開拓し、自分の土地を広げていった。これが「荘園」である。

「不輸の権」を貴族にも適用・・・大きな寺院や神社に与えられていた税金免除の権利を貴族にも適用。平安中期は、権力をもつ藤原氏などの貴族は、節税のため、「不輸の権」を貴族にも適用。また、地方豪族は自分の土地を名目上、貴族に献上し、自分は荘園を管理する荘官となり税を免れた。こうして、貴族の収入は莫大なものになっていった。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』高木 和子

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』
高木 和子 監修

平安時代に紫式部によって著された長編小説、日本古典文学の最高傑作といわれる『源氏物語』は、千年の時を超え、今でも読み継がれる大ベストセラー。光源氏、紫の上、桐壺、末摘花、薫の君、匂宮————古文の授業で興味を持った人も、慣れない古文と全54巻という大長編に途中挫折した人も多いはず。本書は、登場人物、巻ごとのあらすじ、ストーリーと名場面を中心に解説。平安時代当時の風俗や暮らし、衣装やアイテム、ものの考え方も紹介。また、理解を助けるための名シーンの原文と現代語訳も解説。『源氏物語』の魅力をまるごと図解した、初心者でもその内容と全体がすっきり楽しくわかる便利でお得な一冊!2024年NHK大河ドラマも作者・紫式部を描くことに決まり、話題、人気必至の名作を先取りして楽しめる。

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