新宿の老舗Jazz喫茶『DUG(ダグ)』。いま再注目を浴びる後世に残したい“Jazz喫茶”の歴史と名物ブラウニーを味わう

日本特有の文化が生んだJazz喫茶。良質なスピーカーから流れる音に包まれながら、美味しいコーヒーを飲む。そんなオーセンティックなJazz喫茶はいま、希少な存在となりました。

そこで今回は、昔の姿をそのまま残したJazz喫茶の老舗『DUG』を紹介します。

『DUG』は、1961年先駆けとなる『DIG』が誕生して以来、移転や店構えを少しずつ変えながら現在まで、多くの人の憩いの場として存在し続けてきた新宿随一のJazz喫茶。

取材をしたのは『DIG』『DUG』創設者中平穂積さんの息子で現オーナーの中平塁さん。

20年間愛され続ける自家製ブラウニーと共に、Jazzを愛する人々が世界中から集い生まれた歴史について語っていただきました。

若者が熱狂したJazz喫茶。伝説とも言われる『DIG』&『DUG』はどんな場所だったのか

―『DUG』の歴史を教えてください。

塁さん「日本でJazz喫茶が誕生したのは、昭和初期1920年代後半と言われています。全盛期は1960年代。中平穂積が『DIG』をオープンしたのも1961年ですね。

当時のJazz喫茶の多くがおしゃべり禁止で、スピーカーに向かって顔に眉間を寄せてコーヒーを飲む感じ。音を出すと嫌われるから、店側も特有のオーダー合図を使っていたようです。『DIG』もそんな場所でした。

しかし中平はもっと気軽に音楽を楽しんで欲しいと、並行してお酒を飲める喫茶店『DUG』を現在の紀伊国屋裏にオープン。当時は地下にありました。Jazzプレイヤーが集まるものだから、夜な夜な即興ライブが始まったり、そりゃあ賑やかな場所だった。

日本に来日したら『DUG』に行くのが世界中のJazzプレイヤーの中でお決まりになっていたようです。互いに信頼関係があったのでしょう。中平は写真家としても活動していまして、当時の写真からも親密さが伺えます」

―現在の『DUG』は当時のままですか。

塁さん「『DUG』は都市開発の影響でそれまでも何度か移転をしていまして。3回目の移転を経て、現在のこの場所に落ち着きました。

実は、ここは元々1977年にオープンした『new DUG』という店。店名を『DUG』にしたのは2007年のことです。内装や外観は当時とほぼ変えていません」

1000枚のCD。5000枚のレコード。歴史が生んだ宝の数々に感無量

―現在、レコードやCDは何枚ぐらいあるのでしょうか

塁さん「実は、この店にはもうひとつ地下があってね、CDが山ほどあるんです。リクエストがあると取りに行くんだけど、なんせ多くて。1000枚以上は確実ですね。

いまレコードは使っていなくて、『DIG』『DUG』時代のものが実家にあるのですが、5000枚くらい。中には、『DUG』で録音されたレコードもあります」

―思い出深いレコードはありますか。

塁さん「Jazz好きなら誰もが痺れてしまうだろう、とっておきを持ってきました。ソニー・ロリンズ(※1)の直筆サイン入りアルバム『 サキソフォン・コロッサス』。中平がアメリカに行った際に書いてもらったんだと思います。

他にも、店名の由来となったマイルス・デイヴィス(※2)のアルバム『DIG』も店にとって大切にすべき名盤でしょう」

※1ソニー・ロリンズ:ニューヨーク生まれ。ジャズテナーサックスの中で世界的に最も知られている奏者。特に『サキソフォン・コロッサス』は名盤中の名盤と呼ばれ、今も尚、数々のアーティストがロリンズの曲をカバーしている。

※2マイルス・デイヴィス:アメリカ・イリノイ州生まれのトランペット奏者。多くのジャズ先駆者と共に演奏し活躍。没後30年以上経った現在も世界中に多くのファンがいる。

―Jazz喫茶の魅力を教えてください

塁さん「なんといっても、音でしょうね。うちのスピーカーは真空管。『C54 TRIMLINE』という機種を2台設置しています。Jazzを聴きたい人には良く届き、会話を楽しみたい人の邪魔はしない。現代では、イヤホンやスマートホンなどで容易に聴けますが、やっぱり音が全然違います。身体全体がいい音に包まれるんですね。

Jazz喫茶はただ音楽を聴きに来るだけでなく、音楽好きが集まる情報交換の場でもありました。今でも、若い人がライブのビラを持ってやってきます。そういう人は積極的に応援したい」

(テーブル席で老紳士が談笑している声)

塁さん「あそこのテーブル席の方々は、学生時代ぶりに再会したみたい。こういうのがいいんですよね。

“『DUG』は昔から変わらないね”と言うのが誉め言葉。懐かしいなと感じる人にとっても、Jazzに詳しくない人でもオープンな場所でありたいと思っています」

まるでアメリカのお袋の味。至福の一杯と20年続く自家製「ブラウニー」

―20年以上愛されているブラウニーについて教えてください

塁さん「中平穂積の妻で、僕の母が20年ずっと作り続けている自家製です。店にはキッチンが無いので、家で作っています。ブラウニーは『DUG』の定番で、しっかり泡立てたホイップと一緒にお出ししています。

コーヒーやアッサムミルクティと一緒に頼んでいる方が多いです。後はお酒を飲んだ締めに頼まれたりとか。

うちは、分煙でアルコールもノンアルコールも提供しています。18時30分以降はテーブルチャージ料が500円。18時30分〜20時はハッピーアワーで対象ドリンクは600円で提供しています」

アメリカ家庭の定番菓子ブラウニー。『DUG』のブラウニーは食べるところによってしっとりとしていたり、クッキーのようにサクサクしていたり……。いろいろな食感が楽しく、また手作りの温かみが雰囲気にぴったり。

チョコレートをたっぷり味わえるブラウニーと、ブレンドコーヒーの苦みはどこか大人な味。音楽と共に時の流れを感じていると、自然にJazzっていいなという思いが湧いてきます。

塁さん「変わりゆく新宿の街で、変わってはいけない場所が『DUG』なんです。

当時の雰囲気を大切にしながら、老若男女問わず色々な人に来ていただきたいですね。僕はいつでもここにおりますので」

「ブレンドコーヒー」700円
「チョコレートブラウニー」350円

About Shop
ジャズ喫茶&バー「DUG」
東京都新宿区新宿3丁目15−12
営業時間:12:00~23:30
定休日:不定休

園果わたげ

ウフ。編集スタッフ

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ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。

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