<農家の特報班>カラス襲来SOS 最終手段は駆除、作物変更も

宮本さんが栽培する大麦にカラスが群がる様子(熊本県八代市で=宮本さん提供の動画から)

「毎日カラスの大群が来て大麦を食べられる。困っています」

本紙「農家の特報班」に“SOS”が届いた。続けて送られてきた動画には、カラスが黒い群れとなって農地に降り立つ姿。少なくとも50羽を確認できた。カラスに踏み倒され、ついばまれた大麦の写真も送られてきた。

SOSの発信元は、熊本県八代市で水稲13ヘクタール、大麦13ヘクタールを経営する宮本一則さん(43)。2021年に大麦の作付けを始めたが、昨年からカラスの大群が来るようになった。食害を受けたのは大麦を作付けする農地のうち、5%ほど。あぜ道や周囲の道路にカラスのふんが落ち、地域で肩身が狭いとも話す。「効果的な対策が見つからない。専門家のアドバイスが欲しい」

記者は宮本さんの依頼を受け、カラス研究20年という第一人者、農研機構の吉田保志子上級研究員を訪ねた。

農地=餌場にしない

カラス対策には、光を反射するテープ、物理的に侵入を防ぐテグス(釣り糸)、大きな音や仲間が襲われている音声の発生装置など、多様な商品がある。だが、宮本さんの被害状況を見た吉田研究員は「ここまでくると効果がない」と話した。カラスに「確実に餌がある場所」だと認識されており、少々の危険を感じても餌を食べに来てしまうためだ。

しかし、吉田研究員はこうした場合でも、“最終手段”が二つあると話す。一つは、作物を変えることだ。

宮本さんの大麦は、周囲で栽培する小麦より2週間ほど収穫が早い。カラスにとっては宮本さんの農地にだけ餌があることになり、被害が集中してしまう。吉田研究員は、小麦に転換するのも一つの手だという。

もう一つは、猟友会などに駆除してもらうことだ。カラスの駆除は鳥獣保護管理法で禁止されているが、農作物の被害防止を目的とし、市町村か都道府県から有害鳥獣駆除の許可を受ければ可能。群れの全羽は駆除できないものの、カラスに「危険地帯」だと覚えさせ、寄り付きにくくする効果が期待できる。

有害鳥獣駆除の申請は被害を受けている農家が行えるが、銃で駆除できるのは、狩猟免許を持つ人に限られる。市町村は被害状況の確認も行い、猟友会などに協力を要請してくれる場合もある。農水省は、まずは市町村に相談するとよいとする。

ただ、吉田研究員は「“最終手段”に至る前に、日頃の対策でカラスの被害を防ぐ必要がある」と強調する。

頻繁に対策替え”慣れ”回避を

吉田研究員によると、カラス対策で大事なのは、農地を餌がある場所だと認識させないことだ。カラスは情報の大部分を視覚から得るため、餌として狙われやすい規格外の収穫物や残さは農地に放置せず、目に付かないようにする。農地に穴を掘って捨てる場合は、穴を板で隠したり埋めたりする。家畜の飼料も狙われやすいため、防鳥ネットで畜舎への侵入を防ぐ。

被害が出始めた場合は、音や光などを使った各種の対策商品を使う。「カラスはとても賢い」(吉田研究員)ため、小さな変化にも気付き、警戒するという。しかし、ここで重要なのは「いつか見抜かれるのを前提にすること」(同)だ。

カラスは農地の様子を観察し、対策商品では危害が及ばないと分かれば、かいくぐって農地にやってくる。「対策の効果がない」という農家が多いのはこのためだ。そこで、さまざまな対策を頻繁に切り替え、慣れさせないようにする。吉田研究員は「一つの商品で諦める人は多いが、いろいろな方法で警戒心を持たせ続けることが必要」と話す。

とはいえ見抜かれることが前提のため、高価な商品は必要ない。①鉄パイプなどにビニール袋を付けた手製の吹き流しや防鳥テープなどで、普段と違う風景を作る②商品の組み合わせや、置く場所を変える──といった工夫が有効だという。カラスが嫌がる複数の音声を切り替えられるスピーカーを月額制で貸し出すサービスもある。ただ、吉田研究員によると超音波は効かない。カラスには聞こえないためだという。

果樹園ではテグス有効

果樹園では、テグスを張り、カラスの侵入を防ぐ対策も有効だ。農研機構が開発した「くぐれんテグスちゃん」は、弾性のあるポールを園地を囲うように立て、側面と上面にテグスを張る簡易な対策。常設型の防鳥ネットより安価で、脚立を使わずに設置できる。

園地が広く、全体にテグスを張るのが難しい場合は、高い木や送電塔、電線などに近い部分に張ると効果的。カラスは周囲のひときわ高い場所から農地を観察し、安全かどうかを確認してから降りてくるためだという。

吉田研究員によると、カラスにとって6、7月は巣立ちの季節。若鳥は群れで行動するため、一層の警戒が必要な時期だという。

高内杏奈

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