帝が出生の秘密を知るも、源氏の絆はより深まった!?(薄雲)【図解 源氏物語】

冷泉帝出生の秘密

冬、明石の君が姫君と住む大堰(おおい)の邸は、寂しさが増しました。源氏は、自分の近くに来るよう促しますが、やはり明石の君は決心できません。そこで源氏は、せめて姫君を引き取りたいと切り出しました。動揺しながら聞く明石の君に、紫の上がいかに子ども好きで気立てがよいかを語り、「安心して預けて欲しい」と訴えます。なおも思い悩む明石の君でしたが、母である尼君の助言もあって、娘のために、紫の上に養育を任せる決心をします。頼りにしていた乳母にも、姫君につき添ってもらうために別れを告げました。

二条院に引き取られた明石の姫君は、最初は母がいないことに気づいてぐずったものの、乳母があやすと落ち着きました。次第に紫の上にもなつき、立派に袴着の儀式もすませました。その愛くるしさに、紫の上の嫉妬心もやわらぎ、源氏は大堰の邸を訪ねたり、文を交わしたりして、姫君の様子を知らせました。年が改まって春になると、天変地異が相次ぎ、太政大臣(葵の上の父で源氏の舅)、そして源氏の最愛の女性である藤壺(藤壺入道)が相次いで亡くなります。源氏は悲しみに打ちひしがれました。

藤壺の四十九日の法要がすんだころ、冷泉帝は、藤壺が信頼していた高僧夜居(よい)の僧都(そうず)から、自分の出生の秘密を明かされます。驚き動揺する帝は、天変地異も父を臣下にしている親不孝の罪によるものと考え、源氏に譲位しようとしますが、源氏は固辞します。その様子から、冷泉帝が出生の秘密を知ったと悟った源氏は怪訝(けげん)に思い、王命婦(おうのみょうぶ)に問いただすのでした。秋、斎宮女御が里下がりした折り、源氏が春秋の優劣を問うと、斎宮女御は「母の記憶にちなんで秋を好む」と恋歌を用いて答えたので、源氏は恋心を訴えます。しかし女御に厭(いと)われて、もう若くないのだからと反省するのでした。

春秋の優劣・・・古来、「春秋優劣論」と呼ばれ、『万葉集』『更級日記(さらしなにっき)』などに見える。
秋を好む・・・この答えから、斎宮女御はのちに秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)と呼ばれるようになる。

光源氏の立場を強固にした仏天の告げ

僧都に「あなた(冷泉帝)が本当のことを知らないまま帝位に就いているばかりに仏天の告げ(天変地異)が起こっている」と言われて真実を告げられた冷泉帝。しかし、自身の出生の秘密を知っても光源氏を恨むことなく、むしろこれまで臣下として扱ってきたことを悔やみ、帝位を譲ろうとする。光源氏最大の秘事を共有した二人の絆はより確かなものとなり、ここから光源氏は朝廷での立場をいっそう強めていくことになる。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』高木 和子

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』
高木 和子 監修

平安時代に紫式部によって著された長編小説、日本古典文学の最高傑作といわれる『源氏物語』は、千年の時を超え、今でも読み継がれる大ベストセラー。光源氏、紫の上、桐壺、末摘花、薫の君、匂宮————古文の授業で興味を持った人も、慣れない古文と全54巻という大長編に途中挫折した人も多いはず。本書は、登場人物、巻ごとのあらすじ、ストーリーと名場面を中心に解説。平安時代当時の風俗や暮らし、衣装やアイテム、ものの考え方も紹介。また、理解を助けるための名シーンの原文と現代語訳も解説。『源氏物語』の魅力をまるごと図解した、初心者でもその内容と全体がすっきり楽しくわかる便利でお得な一冊!2024年NHK大河ドラマも作者・紫式部を描くことに決まり、話題、人気必至の名作を先取りして楽しめる。

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