<レスリング>【ルール確認】インジュリー・タイムについて…2023年明治杯全日本選抜選手権より

 

(監修=日本協会審判委員長・沖山功)


 2023年明治杯全日本選抜選手権・第3日に行われた男子フリースタイル65kg級準決勝、乙黒拓斗(自衛隊)-山口海輝(日体大)の試合途中、乙黒選手が右足を痛め、ドクターがマットに上がって試合続行の可否を診断したシーンがありました。このときの時間が長かったことで、「インジュリー・タイムの時間を逸脱しているのでは?」との問い合わせがありました。試合の中断時間は「5分6秒」でした。

 これは、世界レスリング連盟(UWW)のルール第55条により、ドクターが試合の続行か否かを判断するための時間として、ルールを逸脱するものではありません

 ルールでは、出血を伴う負傷の場合は、「最大(累積時間)4分」と決められており、この時間をすぎて出血が止まらないなどの場合は負けが宣せられます。出血以外の負傷の場合は、時間制限はなく、ドクターの判断にゆだねられます。

第55条 医事介入
c)選手が目視で確認できるような負傷をしている場合は、担当医師は、当該の負傷を処置するのに必要な時間をとり、当該選手が試合の続行が可能か否かを判断する。

d)出血を伴う負傷の場合には、その処置時間として試合全体時間のうち最大で4分が与えられる。この4分までの時間をすぎた場合にはついては、第26条に記載の通りである。

第26条 試合の中断
F)一方の選手が出血した場合、レフェリーは試合を中断して出血を止めさせなければならない。医師がマットに上がると直ちにストップウォッチの計時が開始される。出血の治療により中断される累積時間が試合の全期間にわたって4分を超える場合、マットチェアマンは試合の終了を宣言する。その場合、出血している選手は試合に負け、対戦相手は負傷による勝利となる。試合が最後まで持ち越された場合、ストップウォッチは次のラウンドに持ち越さずリセットされる。

 以前は「競技会において公式な医師がいない場合、当該試合において、負傷手当のためにそれぞれのレスラーに合計2分間の負傷タイムを認めることができる」という条文がありました。このため、出血の場合の「4分間」、あるいは「2分間」がインジュリー・タイムと思っている選手が少なくないようです。現在のルールでは、出血以外の場合は、ドクターの判断のもと時間の制限はありません。

 ただ、体力回復のための負傷の偽装(シミュレーション、フェイク)とドクターが判断した場合は、ペナルティーとして相手に1点が与えられます。

▲乙黒拓斗選手の試合続行の可否を判断する医師=撮影・矢吹建夫

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