伝説の刑事ドラマ「警視-K」、監督として再評価の勝新太郎 没後26年の命日、出演俳優が明かす秘話

6月21日は俳優・勝新太郎(1997年死去、享年65)の没後26年となる命日。希代の名優としてだけでなく、映像作家としての才能も近年、後追い世代のファンによって再評価されている。その象徴的な作品が80年に日本テレビ系で放送された伝説の刑事ドラマ「警視-K」。勝の演出回に出演した俳優の堀内正美(73)がよろず~ニュースの取材に対し、当時の撮影秘話を明かした。(文中敬称略)

堀内は80年代に神戸移住し、95年の阪神・淡路大震災を体験。復興支援など社会活動に取り組みながら、昨年公開の「シン・ウルトラマン」、今春公開された「映画刀剣乱舞-黎明-」といった新作映画にも出演を続けている。その堀内が勝のオファーを受けたのは東京拠点だった30歳の時。独特のミステリアスな雰囲気に白羽の矢が当たった。

勝はテレビドラマでは「座頭市」シリーズ(74-79年)全100話のうち22話など、映画では「顔役」(71年)、「新座頭市物語 折れた杖」(72年)、「座頭市」(89年)の3作品を監督。主演ドラマ「警視-K」では80年10月から12月まで放送された全13話中、8話を監督した。

勝の監督作で台本はあってないようなもの。現場で即興的にストーリーを変えていく。堀内が猟奇的な殺人犯としてゲスト主演した勝監督の第2話「コルトガバメント M1911」もそうだった。

「六本木にあった勝プロに呼ばれて、『お前はどんな犯人がいい?』と聞かれ、ただ、普通の殺人鬼だと面白くないと思って、僕は『血にこだわっている人間にしたい。殺した相手の体から抜いた血でキャンバスに絵を描くような男』なんて言ったら、勝さんが喜ぶわけですよ。それで作った話です」

同時録音で、ぼそぼそと聞き取りにくい会話が続く。テレビ局には視聴者から苦情が相次いだという伝説も残るが、ドキュメントとしてのリアルさを追求したが故だった。

「日本で初めて、全員がワイヤレスマイクを付けた撮影だったんですよ。ごく普通にぼそぼそしゃべる。ちょっとでもセリフぽく言うと、勝さんに『それ、おかしいだろ。芝居するんじゃないよ』と言われましたね」

完成した作品は通常のテレビドラマの倍もある長さだった。

「赤坂のスタジオで初号があったんですけど、1時間半くらいあった。16ミリフィルムで、それが完全に『映画』なんです。その時、うちの父(映画監督・堀内甲)と一緒に見に行ったんです。父は黒澤明監督の助監督でしたけど、『勝新太郞という人は監督としての視点がすごい。鳥肌が立った』と言って、勝さんと監督論を語り合うくらいに興奮していた。しかし、テレビのオンエアでは45分くらいに切らなきゃいけない。勝さんは『このままで、どこかの劇場で映画として公開したい』と主張したんですけど、局としてはできなかった。最終的に、勝さんは『編集は勝手にやってくれ』ということで、半分カットして現存する形になったわけです」

作品の序盤、無表情の堀内が街頭で赤ん坊の乗ったベビーカーに目を付け、母親が買い物をしている隙にストッパーを外して手を離し、坂道から転がす場面がある。そのシーンから40年近くを経て不思議な再会があった。

「撮影現場は東京の神楽坂でした。(ソ連時代の映画)『戦艦ポチョムキン』の階段を乳母車が落ちていく有名なシーンを思い出して、それを現場で勝さんに言うと、『それ、いいな』となって、その場で、『ベビーカーと子どもを探せ』ということになって、たまたま通りかかった一般の人に交渉して、その場で出てもらったんです。ところが、3年ほど前、兵庫県の相生で撮影があって宿屋に滞在していたら、そこに泊まっていた女性が僕のところに来て『実は私の息子が堀内さんとドラマで一緒だったんですよ』と言われたので、『それは何ですか』と聞き返すと、『警視-Kというドラマです。ベビーカーに乗っていた、あの時の子どもは40歳で、父親になっています』と。驚きましたね」

そんなエピソードもあった同作。説明的なセリフを排し、カメラワークに凝った前衛的な作風は一般のテレビ視聴者向きではなかった。だが、勝の死後、98年にVHS化、14年にDVD化され、CS放送や動画配信なども含めて21世紀の後追い世代に注目された。ちなみに、音楽は山下達郎が担当。番組開始直前の同年9月にリリースされたアルバム『RIDE ON TIME』に収録された「MY SUGAR BABE」が主題歌となった。当時の山下をフィーチャーした音楽センスや先見の明も感じさせられる。

堀内は「警視-Kは思い出深いドラマ。僕の中ではNHKの『七瀬ふたたび』も印象的でしたが、当時、そういったテレビ作品を見て映画監督やプロデューサーになった人たちがいて、今でも僕を現場に呼んで大事にしてくれるんですよ。財産ですね」と感慨を込めた。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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