社説:強制不妊報告書 国の責任総括し救済を

 国策による人権被害のむごさを改めて直視せねばならない。

 旧優生保護法下で障害者らに不妊手術が強制された問題について、衆参両院の初の調査報告書が公表された。

 幼い子どもをだましてまで国家的に手術を推進し、「子どもを産み育てる権利」と尊厳を踏みにじった実態が浮き彫りとなった。

 制定から75年たち、当時の立法経緯や被害状況の調査自体が遅きに失したと言わざるを得ない。高齢化が進む被害者の切実な訴えに耳を傾け、国の過ちの徹底した検証と十分な救済を急ぐべきだ。

 報告書によると、手術を受けたのは2万4993人で、わずか9歳の記録もあった。「本人同意なし」が65%にも上り、その適否を判断する都道府県の審査会も書類持ち回りなど形骸化していた。

 福祉施設の入居や結婚の条件とされたほか、盲腸の手術などと偽ることも国が認め、都道府県に件数増を再三求めた。旧法が禁じた放射線照射や子宮摘出の報告もあり、人権無視の暴走である。

 国全体で長く正せずに続けた罪は深い。旧法は戦後の人口急増を背景に1948年、「不良な子孫の出生防止」を目的に議員立法により全会一致で成立。国会審議で批判的意見は出なかったという。

 障害者差別との認識の高まりから96年に母体保護法に改正後も、調査や補償は進まなかった。被害者による国家賠償訴訟を受け、ようやく議員立法で被害救済の一時金支給法ができたのが4年前だ。

 だが、その「反省とおわび」の主語は「われわれ」と曖昧にされた。同法に基づく国会調査も政治や行政の責任に関する判断は示していない。単なる記録でなく、二度と繰り返さないための検証が欠かせない。

 今回調査で被害者へのアンケートは40人分にとどまった。より広く当事者の声を踏まえ、第三者機関による客観的な調査と国による総括を行うべきだろう。

 救済法の一時金は一律320万円で、訴訟請求額に比べ極めて少ない。受給者は約千人にとどまり、周りの目を恐れて手を挙げられない人が少なくないとみられる。

 人間の命に優劣をつける優生思想や、少数者の人権をないがしろにする考えは深くはびこり、再生産されている感すらある。

 「戦後最大の人権侵害」とも言われる負の歴史と真摯(しんし)に向き合うことこそ、その根を断つために国と国会、私たち一人一人が担うべき責任である。

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