複数の国際物流会社を買う「J-STAR」の樫山雄樹パートナーに聞いた

樫山雄樹J-STARパートナー

投資ファンドのJ-STAR(東京都千代田区)が特別目的会社(SPC)を通じて日米間の海上コンテナ輸送を手がけるフォワーダー(他の事業者の運送手段を使って、預かった貨物の運送を行う事業者)であるジャパントラストホールディングス(東京都港区)に資本参加した。

このSPCは2022年7月に日中間の航空物流を手がけるフォワーダー、スコア・ジャパングループにも資本参加しており、この1年で2社の物流関連企業を傘下に収めた。どのような戦略があるのか。J-STARのパートナーで、両案件を手がけている樫山雄樹氏に経緯や狙いをお聞きした。

国際フォワーダー業界に再編の波

-物流関連企業への出資に積極的です。なぜこの業界に注目されているのでしょうか。

日系のフォワーダーは規模がそれほど大きくないオーナー系未上場企業が多く、海外の競合を中心に進んだ業界再編の影響や、サプライチェーンの再編、多様化、DX(デジタル技術を活用して、生活を良いものに変革させること)化などを背景に、日系プレイヤーの間でも業界再編の必要性が高まっていると考えています。

持ち味がしっかりとしたユニークな企業に、事業承継を含め事業の持続的な成長につながるソリューションを提供できるのではないかと思い、コロナ禍前からこの業界をウォッチしていました。

-グループ化という投資手法を採用されています。どういうお考えがあるのでしょうか。

我々の投資スタイルの特徴の一つは、グループ化にあります。同じ業界の企業を複数社買収し、シナジーを出せるようにし、グループとして価値を高めるようにしています。物流業界ではデジタル化に向けた投資などが必須であり、単独で投資するよりはグループ全体で共通化して投資する方が効率が良く、人材採用の面でもグループ化した方がメリットがあると考えています。

2022年7月に投資したスコア・ジャパングループは、日本と中国の間の航空機を利用したクーリエ(海外に小口貨物を送る国際宅配便)のフォワーダーで、国際フォワーディング事業にかかわる第1弾となりました。今回第2弾として日米間の海上コンテナ輸送を手がけるジャパントラストホールディングスに資本参加しました。第3弾、第4弾も考えています。

-第3弾、第4弾はどのような企業になりそうですか。

第1弾、第2弾が、日本、中国、米国の物流を担う企業なので、他の地域で国際フォワーディングビジネスを担っている企業によるグループへの参画はプラス効果が大きく、そのような企業を中心に考えています。第3弾、第4弾も事業承継がからんだ案件になると想定しています。すでに複数社の経営陣と面談を継続させていただいており、その中には事業承継だけでなくフォワーダーをグループ化するという構想そのものに賛同していただいて、参画の意向を示されているところもあります。

-グループ化後の出口戦略としては、どのようなことをお考えですか。

2方面で考えています。一つは上場することです。現在、持ち株会社であるSPCの下に兄弟会社としてジャパントラストと、スコアジャパンの2社が並んでおり、第3、第4の企業も同じように並ぶことになります。このSPCの上場が考えられます。

もう一つはグループ体をさらに成長させてくれるような先様があれば譲渡も考えられます。今のところどちらにするかは決まっていません。上場できるような組織・体制にしておいて、後々に経営陣とも協議のうえでどちらかを選んでいく形で考えています。


グループ化は日本にあった投資テーマ

-国際物流以外のグループ化の状況はいかですか。

国際物流のほかにはヘルスケア、環境・資源リサイクル、オーディオ機器、動物病院といったところでグループ化を進めています。我々は設立以来50件の投資をしていますが、グループ化構想に合わせた形で行った追加買収を含めると110件を超えています。一つの投資に対し追加買収/グループ参画企業がでもう1社あるという形になっています。平均すると1社の投資に対する追加買収が1社で、1対1の投資ですが、プライベートエクイティの歴史も長い米国などでは1対2、1対3などより積極的に追加買収をしてグループ化を進めて、IPO(新規株式公開)や第三者譲渡を行って高い実績を上げている投資会社もあります。

中小企業の数は米国よりも日本の方が圧倒的に多く、労働人口が減っていく中では、ユニークな力のある中堅中小企業によるグループ化進めることが、付加価値の拡大・生産性の向上につなげやすく、日本のマクロ的な課題解決にもつながるテーマだと考えています。

-J-STARの人員についてはどのような計画をお持ちですか。

プラベートエクイティ(PE)ファンド業界全体では、戦略コンサルや投資銀行出身の方が多く、弊社にもこうした者は居ますが、一方で商社やIT企業など業界としては比較的珍しいバックグラウンドを持つ者も少なくなく多様性があります。投資対象としていろんな業種を見ておりますし、それら企業のオーナー様とのコミュニケーションが求められるので、業種のバックグラウンドについても多様性があったほうがいいと考えています。現在31人の社員を近いうちに50人にまで増やしてより多くの中堅中小企業への投資を実現していきたいと考えています。

J-STARはJ-STAR No.4-A, LP などのファンドに対して個別に、同社自体や子会社を通じて投資機会の調査、紹介、投資先の育成などにかかわる投資関連サービスを提供している。ジャパントラストホールディングスには、これらファンドが出資する特別目的会社が、中間持ち株会社を通じて資本参加した。

樫山雄樹J-STARパートナー

【樫山雄樹(かしやま・ゆうき)氏】
2000年、東京大学工学部卒業後、ボストンコンサルティンググループで消費財、ハイテク企業などの戦略立案、実行支援などに参画
2007年、カリフォルニア大学バークレー校でMBAを取得
2007年、米国とチリでバイオテクノロジー企業を創業、経営、譲渡
2014年、J-STARに入社。フォワーダ―2社への資本参加をはじめジェネリック医薬品卸、オーディオ機器製造、化粧品・美容雑貨企画販売などを手がける企業など通算17社に出資

文:M&A Online

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