農家の落胆もう二度と… 農産物盗難防止、各地で対策強化

新システムをサクランボ園に取り付けるJA職員(山梨県南アルプス市で=JA南アルプス市提供)

全国各地の果樹産地が収穫シーズンを迎える中、農家やJA関係者は盗難への警戒を強める。山形県では、今年本格デビューを迎えた県オリジナルのサクランボ品種の盗難が発生。他県でも盗難対策は喫緊の課題で、園地への侵入防止や見回りなどに力を入れる。

警察と連携 巡回重ね JAグループ山形

山形県では、オリジナルのサクランボ大玉品種「やまがた紅王」の盗難が発生。県産サクランボは出荷最盛期に入っており、県内の行政、JA関係者は農家への対策周知や見回りを強化している。

天童警察署によると、石澤重和さん(54)が所有する天童市のビニールハウスで19日、同品種の実が軸ごともぎ取られているのが見つかった。約5キロ(時価10万円相当)が盗まれていた。盗難の防止に向け、同署は地元のJAてんどうと連携し、パトロールを続けている。

県は「やまがた紅王だけでなく、他品種でも盗難が複数発生している。収穫シーズンの果樹は特に注意が必要」(園芸大国推進課)と話す。防犯用カメラの整備補助などを通じ、現場での対策強化を後押ししている。

JAグループ山形は4月、県JA農作物盗難防止対策本部を設置。ラジオなどを通じ生産者へ注意を呼びかけ、各JAでも警察と連携し、巡回も強化している。

同本部の担当者は「農家の努力の結晶である農作物を盗難から守るため、引き続き現場に警戒を促していく」と強調する。 音道洋範

果樹農家に機器貸与 山梨・JA南アルプス市

果樹産地を抱える山梨県のJA南アルプス市は、新たな果樹盗難抑止システムを導入し、組合員に貸し出している。30セットを用意し、管内で栽培されている果樹のうち、既に出荷シーズンを終えたサクランボでは、農家の申し込みに応じて全て貸し出した。今後、ブドウなどでも貸し出す。

JAは「盗難から果実を守りたいという農家の声は多い。シーズン終盤まで対策をサポートしたい」(営農経済部)と話す。

新システムは、複数のセンサーを組み合わせて、果樹園全体で侵入者を感知する。1台で周囲を感知する旧システムも活用する。今後、出荷が本格化するスモモや桃、ブドウでも利用者を募る予定だ。 志水隆治

侵入させない・地域で見回り 被害の48%圃場 農水省が注意喚起

農水省は農作物の盗難防止対策のポイントをまとめており、生産者には外部から園地に侵入しにくい環境づくりなどを促す。地域内で注意点を含めた情報の共有、防犯パトロールの実施なども呼びかけている。

農作物の被害認知件数が多い地域を中心に23道府県の市町村などに、同省が聞き取り調査をしたところ2018年度時点で、「農作物の盗難がある」との回答は70に上った。盗難場所で最も多いのは「圃場(ほじょう)」で、48%を占めた。

生産者向けの対策として、同省は園地への侵入を防ぐための「ネットや柵の設置」「防犯カメラやセンサーライトの導入」などを挙げる。地域単位での対応として、「盗難防止対策の共有」「不審者・車両を見かけた場合の110番通報」を呼びかけるよう促す。

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