6月はプライド月間:LGBTQIA+に抵抗するバックラッシュのなかでパーパスをどう貫くべきか

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プライド月間の6月に入り、LGBTQIA+の権利を啓発するマーケティングキャンペーンが増えている。一方で、関連する製品・広告への批判や不買運動など保守派がLGBTQIA+に抵抗するバックラッシュが各地で起きており、一部の企業は困難に直面している。そうしたなか、広告分野におけるLGBTQIA+のインクルージョン(包摂)を推進する英国の非営利団体「Outvertising(アウトバタイジング)」は、一部の過激な反発にさらされても、キャンペーンを継続し、年間を通じて性的マイノリティを支援するよう企業に呼びかけている。(翻訳・編集=小松はるか)

2019年にロンドンで誕生したOutvertisingは5日、声明を発表した。

「当団体は、LGBTQIA+を完全にインクルージョンするマーケティング・広告を実現するために継続して取り組んでいくことを強く決意しています。企業にも当団体の取り組みにぜひ参画してもらいたいです。

反LGBTQIA+を掲げる人たちは現在、LGBTQIA+コミュニティへの支援を表明している企業・ブランドを容赦なく攻撃しています。こうした人たちはLGBTQIA+のインクルージョンを止め、後退させる取り組みの一環として、広告などのメディアからLGBTQIA+コミュニティを消し去ろうとしています。また、トランスジェンダー+の人たちは現在、ヘイト(憎悪)キャンペーンの標的となっており保護が必要です。

しかし、こうした憎悪はトランスジェンダー+の人々に限らず、LGBTQIA+のコミュニティ全体がその影響を受けています。2023年に、見せかけの取り組みや中身のないコミットメントを行う余裕はありません。性別に関わらず、愛は愛です。影響力を持つ企業の行動が必要です」

険しい道のり 米国では反LGBTQ法案が急増

米国では今年に入り75本以上の反LGBTQ法案が成立し、社会の分断はさらに深まっている。こうした状況に対し、今月6日には全米最大のLGBTQ+のための人権団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン」がLGBTQ+の人々の安全性を懸念し、40年以上の活動歴で初めて非常事態宣言を行った。

ビジネスの領域でも、企業がLGBTQIA+コミュニティや争いの種となる社会的課題を支援することに対しバックラッシュが起きている。課題があまりにも政治的だからだ。主に米国で顕著なこうした現象は日を追うごとにより一層極端になっているようにみえる。しかし、ESG戦略・法制化へのバックラッシュと同じく、これは米国の多数派の価値観や信念を反映しているわけではない。

LGBTQIA+の人々の権利を擁護する団体「GLAAD」(ニューヨーク)が2023年2月に実施した調査によると、LGBTQIA+ではないと自認している米国の成人約2500人のうち圧倒的多数が、企業は公式にクィア・コミュニティ(性的マイノリティ)を支援すべきだと考えていることが分かった。調査対象の7割が「企業は雇用慣行や広告、スポンサー活動などを通じて、LGBTQコミュニティの支援とインクルージョンを公式に行うべき」と回答している。

トランスジェンダー女性のディラン・マルベイニー氏を広告キャンペーンに起用したバドライトナイキへの批判・不買運動にはじまり、アディダスディズニーコールズザ・ノース・フェイスペットスマートターゲットなど、今年クィア・コミュニティへの支援を表明した多くの企業がバックラッシュにさらされている。こうした動きは米国にとどまらない。『フォーブス』は今月7日、英国や南アフリカ、ニュージーランドでも一部の企業がプライド・キャンペーンへの批判に直面していると報じている。取り組みをどう継続すべきか迷っている企業・ブランドは少なからず存在するだろう。

しかし、意思を表明する企業・ブランドである以上、すべての人を満足させることは決してできないだろうということも理解する必要がある。企業・ブランドは、議論を引き起こし対立を生む可能性のある課題を支援するために、自社の影響力を使うことを選択したのなら、少数ながら声が非常に大きい否定派による脅しに屈することなく、自社のパーパスを表明し続けるために自らのブランドの価値を十分に理解すべきだ。

2019年に米デトロイトで開催したサステナブル・ブランド国際会議の基調講演で、ベン&ジェリーズのマシュー・マッカーシーCEOは、社会のシステム変革を推進する上で必要な企業の影響力についてこう語った。

「透明性の一部には、自社のメッセージを伝えるために勇気を持ち、情報開示を行うことが含まれます。それは顧客や人々があなたの企業を信頼し、他の企業ではなくあなたの企業を選ぶ理由の一つでもあります。(中略)われわれはすべての人を満足させ、受容の最低基準を達成しようとしてビジネスを行っているわけではありません。ベン&ジェリーズは、多くの人にとって当たり障りのない存在でいることよりも 少数の人 に愛されたいと考えています」

企業が引き下がることなく、意思を貫くには

Outvertisingは、企業・ブランドが有言実行するため次のようにアドバイスする。

・プライド関連の広告を制作しているなら、広告を出しましょう。
・LGBTQIA+のタレントと協働しているなら、彼らを守りましょう。
・プライド関連のイベントを計画しているなら、実行しましょう。
・ブライド関連の製品を製造しているなら、店に並べましょう。
・レインボーフラッグのロゴを掲げているなら、意義のある行動を起こし宣言を証明しましょう。
・攻撃されているなら、バックラッシュに勇敢に立ち向かいましょう。
・メディアに資金を投じているなら、自社の価値に合ったメディアに投じ、偽情報を広めるメディアからは手を引きましょう。

Outvertisingは「いまこそコミットメントと勇気が必要です。プライド月間のいま、あなたの企業・ブランドのLGBTQIA+への支援が攻撃されているなら、ヘイトに満ちた少数派の存在を理由にあなたの決意が揺らぐことのないようにアドバイスを行います」と支援の姿勢を示している。さらに、英国では60歳以下の3人に2人(66%)が「LGBTQ+の人々への差別と戦うことは重要」と回答しているとし、行動する企業・ブランドを支持する意見が多数派であると伝えている。

Outvertisingでは、企業・ブランドが分断を招くような社会的課題を前に動じることなく、意思を貫けるよう支援するガイドブックも制作している。

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