白色矮星「HD 190412 C」はダイヤモンドになりつつある? 結晶化の観測的証拠を初めて発見!

白色矮星」は “宇宙最大のダイヤモンド” と例えられることがあります。現在の宇宙に存在する白色矮星は全体がダイヤモンドのように結晶化しているわけではないため、厳密に言えば誤りなのですが、サザンクイーンズランド大学のAlexander Venner氏らの研究チームは、地球から約104光年の距離にある白色矮星「HD 190412 C」で結晶化が始まっている証拠を観測しました。白色矮星の結晶化が直接の観測結果から確かめられたのは今回が初めてです (※1) 。

※1…2004年に「BPM 37093(ケンタウルス座V886星)」という白色矮星について、全体の約90%が結晶化していると推定した研究結果が発表されていますが、これは星震のデータをモデル化した研究であり、間接的な証拠に基づいています。これに対し、HD 190412 Cを対象とした今回の研究は、白色矮星から放出される光を直接観測して推定したものです。

【▲ 図: 内部が結晶化した白色矮星の想像図。白色矮星の保持した熱は宇宙空間へと逃げ、中心部から結晶化していくと考えられる。今回初めてHD 190412 Cにて結晶化の観測的証拠が見つかった(Credit: Travis Metcalfe & Ruth Bazinet, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)】

白色矮星とは、超新星爆発しない太陽のような軽い恒星が赤色巨星の段階を経て進化した天体です。外層からガスや塵を放出し、硬い芯(コア、中心核)だけが残されたコンパクト星であり、中心部の核融合反応は停止しています。太陽程度の質量が地球程度の大きさに閉じ込められているため、白色矮星は強大な重力で圧縮されており、主な成分である炭素原子と酸素原子は極限まで縮められています (※2) 。

※2…白色矮星を構成する “元素” の組成は、元の恒星の質量によって変化します。最も一般的な白色矮星の組成は炭素と酸素ですが、軽い恒星由来の白色矮星はほとんどがヘリウムで構成され、逆に重い恒星由来の白色矮星はネオンやマグネシウムが多いと言われています。

白色矮星は、恒星の中心核だった頃の余熱のみを保持し、新たな熱が発生しない “死んだ星” であるため、宇宙空間に熱を放出して冷えていく一方の天体です。温度が下がるに従って、白色矮星を構成する原子の配置は中心部から外側へと順に、ランダムな状態から整列した状態へと変化……つまり結晶化が発生すると考えられます。白色矮星が “ダイヤモンド” と表現されるのは、高温高圧の環境下で炭素原子の結晶が現れると考えられるからです (※3) 。

※3…ただし、白色矮星の環境は超高温・超高圧であるため、内部が本当にダイヤモンドなのか、それとも別の結晶構造が現れるのかは分かっていません。

白色矮星全体が冷え切るには1000兆年もかかると言われています。私たちの宇宙はその0.001%程度の時間しか経過していないため、全体が結晶化してダイヤモンドになった白色矮星は、まだ私たちの宇宙には存在しません。しかし、現在の宇宙にも冷却が始まる初期段階の白色矮星は存在するため、一部で結晶化が始まっていてもおかしくありません。

では、白色矮星で結晶化が始まっていることを示す証拠はどうすれば見つけられるのでしょうか。Venner氏らは、HD 190412 Cとその周りにある天体の関係性から証拠を発見しました。

HD 190412 Cは四重連星HD 190412星系を構成する天体の1つであり、残りの3つは全て恒星です。恒星と白色矮星にはそれぞれ独立した年齢の算出方法があり、またいくつかの手法によって年齢差を絞り込むことができます。白色矮星の年齢は表面温度をもとに、つまり “冷め具合” をもとに推定することができます。

ところが、白色矮星の内部で結晶化が起こると、結晶化による熱(潜熱)が放出されて、白色矮星は加熱されます。結晶化による熱は表面温度から推定される年齢を大幅にずらし、白色矮星を実際の年齢よりも “若く” 見せることになるのです。この推定年齢のズレは、結晶化が起きていることを示す具体的な証拠となりえます。

観測の結果、HD 190412星系全体の年齢は約73億年と推定された一方で、HD 190412 Cの年齢は白色矮星になる前の恒星だった頃も含めて約42億年であると推定されました。星系全体の年齢に対する31億年という大幅なズレは、HD 190412 Cが再加熱されたために実際よりも “若く見える” ことで生じたと考えられます (※4) 。これは、内部で結晶化が始まっていることを示す有力な証拠です。今回の観測結果に基づくと、HD 190412 Cは中心部の約65%が結晶化していると推定されます。

※4…HD 190412 Cを生み出した元の恒星はかなり重く、寿命は2億9000万年程度だったと推定されます。このため、白色矮星になる前の時間は31億年というズレの中ではほとんど無視できると考えられます。

ただし、星系全体の推定年齢には使用された算出方法によってばらつきがあり、31億年というズレの推定値にはプラスマイナス19億年という大きな幅が残っています。白色矮星の内部について細かく推測するには、HD 190412星系の年齢の不確かさを10億年以内にしないといけないため、今回のデータだけでは、白色矮星の内部の様子を具体的に構築することはできません。また、白色矮星の内部に含まれる微量成分(ネオン22)が結晶化に伴って分離する効果により、さらに10億年程度の冷却速度の低下が起こると言われていますが、これについてもはっきりしたことは分かっておらず、これの影響も注目されます。

しかし、地球から約104光年という近い距離にある白色矮星で結晶化の証拠が見つかったということは、他の白色矮星でも同様の現象が発生していると予測されます。多数の白色矮星を観測することで、白色矮星の内部で起こる現象についてさらに具体的なことが分かるようになるかもしれません。

Source

  • Alexander Venner, et.al. “A Crystallizing White Dwarf in a Sirius-Like Quadruple System”. (arXiv)
  • Bob Yirka. “A white dwarf's journey to crystallizing into a celestial diamond”. (Phys.org)
  • Michelle Starr. “White Dwarf Star Enters Its Crystallization Era, Turning Into A 'Cosmic Diamond'”. (science alert)
  • H. M. van Horn. “Crystallization of White Dwarfs”. (Astrophysical Journal)
  • A. Kanaan, et.al. “Whole Earth Telescope observations of BPM 37093: A seismological test of crystallization theory in white dwarfs”. (Astronomy & Astrophysics)

文/彩恵りり

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