これが噂のウェグマンズ

この秋ニューヨークの最大の話題といえば、先月オープンした「ウェグマンズ」のアスタープレース店をおいて他にない。人気全米一の栄誉に輝く地元密着型スーパーだが、今までネイビーヤードに店舗があっただけで、その実態がよく知られていなかった。ところが、ここにきて売り場総面積8万7000平方フィートのフルサイズ店上陸である。抜群に鮮度のよい青果類と最高級の精肉。デリカも充実。しかも店内には日本の「魚屋さん」もあるとか。徹底解剖してみる。(取材・文/中村英雄)


ヒューマンを大切にするスーパー

開店から早や1カ月。ウェグマンズ体験者の声を聞くと「品質がいい」「店内が明るく広々としていて買いやすい」「自社ブランド製品がお手頃値段の割にどれも美味しい」など概ね高評価だ。中でも一番多いコメントが「従業員さんたちの笑顔と親切なサービスが秀逸」である。店内のいたるところにスタッフがいて、聞けばなんでも教えてくれる。肉、魚、チーズ、ビールなど商品ごとにコーナーに配備されている専門スタッフの知識量が半端でない。会話を交わしながらのショッピングは楽しい。従業員教育には投資を惜しまないウェグマンズでは、彼らを国内外の農家や牧場、漁場で出張研修させ、食材商品を見る目を徹底的に養う。

地元密着型へのこだわり

創業は1916年。そもそもはニューヨーク州北部の街ロチェスターの小さな食料品店だった。家族経営を貫き、株式は頑なに非上場。地域住民に美味しくて健康的な食材と食事を提供することをモットーに、ニューヨーク州を中心に東海岸エリアだけで展開し、現在100店舗。22年時の従業員数は約5万人。売上は約100億ドルという。ちなみに全米最大のウォルマートの同年売上が5730億ドル。同従業員数は160万人だから、どれだけ地元密着型なのかがわかる。

人事部トップが「ウチの資産は従業員」と語るだけに、手厚い研修に加えて医療費補助、奨学金付与など福利厚生の充実ぶりは他の追従を許さない。おかげで同社は、経済誌「フォーチュン」の「働きたい職場:全米100」ランキング(2023年)で第4位にランクインしている。

超人気「競争率6倍」の理由は?

「今回、当店開業にあたって地元ニューヨーク市から600名新規雇用しました。応募総数は3500件を超えました」と話すのは、店長のマシュー・デイラーさん。15歳でウェグマンズのバイトをして以来、勤続30年間だ。「食料品店で大事なのは、グッドハートで楽しくやること。根幹にあるのはピープルです。スタッフが楽しそうに仕事していればお客様も楽しくなります。画一的に『こうしろ』と社内ルールを押し付けるのではなく仕事を通じてスタッフ各自が自分なりの働き方を見つけられるよう指導しています。研修には1年間を費やし、40名ほどがすでに昇進しています」と熱く語った。満を持して、とはいえ、ようやくかなったマンハッタン上陸。一流小売業がしのぎを削るこの街への後発初出店に不安はないかとの質問に、「全くありません。ここは良質なフードとそれを求める人々が集まる街ではありませんか。その二つが合わされば怖いものなし。私たちは自信を持って商品とサービスを提供します。不安といえば、あまりにも大勢のお客様が押し寄せて、店内に入れなかった時のことぐらいです」と笑った。

<お話を聞いた人>

マシュー・デイラーさん

ウェグマンズ・アスタープレース店長

カナダ国境近くの町ウェブスター店バイト勤務を皮切りに、各店舗で研鑽を積んだのち、NJ州のプリンストン店長に昇格。その後、ハリソン店の開店時店長を経て、今回のアスタープレース店長に抜擢。

開店直前、マシュー・デイラー店長のスピーチに耳を傾ける社員たち

Wegmans

499 Lafayette St./TEL: 646-225-9300/www.wegmans.com

<ウェグマンズ小史>

1916年:ニューヨーク州ロチェスターでウォルターとジョンのウェグマン兄弟によって創業。

1930年:当時としては画期的なスーパー店内のカフェテリア(300席)併設を実現。

1949年:セルフサービス式に店舗スタイルを改装。

1950年:2代目ロバート・ウェグマンが社長に就任。理想的な食料品店を目指すと同時に従業員の給料を引き上げる。

1965年:地元ロチェスター以外のエリアへの店舗展開開始。

1974年:商品バーコードシステムを全米でもいち早く導入。

1976年:ロバートの息子ダニーが社長職をつぐ。

1979年:自社ブランド製品の開発販売を開始。

1993年:ニューヨーク州外に店舗展開を開始。

1998年:フォーチュン誌「働きたい職場:全米100」にランク入り。以来25回連続で100位以内。23年は4位に輝く。

<全米働きたい企業ベスト5>

「フォーチュン」誌2023年

1.シスコ・システム(コンピュータ・ネットワークの開発販売)

2.ヒルトン・ワールド・ホールディングス(ホテル・チェーン)

3.アメリカン・エキスプレス(クレジットカード)

4.ウェグマンズ(スーパーマーケット)

5.アクセンチュア(コンサルタント)

世界各国の料理を提供 1階デリカ(惣菜)売場

ピザやフライドチキンなどアメリカンな定番軽食にメゼやアジアンなど異国情緒のエスニックが加わる。いずれも手の込んだグルメ志向の味付けが魅力。

<お惣菜>

中近東の前菜「メゼ」からタイ風ヌードル、本格中華、イタリアンまで作りたてのデリカは、専門シェフが監修

食べやすいサイズのポテトグラタンやマッシュポテトは子どもにも人気

中近東の前菜「メゼ」をボウルに仕立てたヘルシーなランチ

「SAKANAYA」のネタで握る寿司はスーパーとは思えぬ高レベル

イタリア伝統の「豆と牛肉のアランチーニ」。専門シェフが監修

バッファローからケイジャンまで全米各地のスタイルが揃うフライドチキン

ベジタリアンが喜ぶ野菜の「ポキ」。米かキノアか選べるのも嬉しい

<ベーカリー>

お客の目の前で次々焼き上がる自家製パン。種類豊富なスイーツも繊細なつくりで日本のケーキ店を思わせる

店内の窯で焼くパン類。名物のオーガニックサワードウをお試しあれ

甘さ控えめの生菓子はどれも上品。新鮮いちごのショートケーキはおすすめ

厳選素材を使った焼き菓子。グルテンフリー対応商品もある

<PB商品>

生産者との緊密なコラボで生まれるオリジナル商品。手頃な値段の割に質がいい。思わぬ当たり商品に出会えるかも

バター、シリアル、ピーナッツバター、パスタソースなど常用食品は、食材と味がよく、値段も控えめ

口当たりがよく飽きない味。12オンスで5ドル49セントは、お買い得

ウェグマンズの極薄ピザはお店みたいな本格派


抜群の鮮度と品質が目を奪う 地下1階売場

まるでデパ地下。オーガニックや地元産、高品質などウェグマンズの真骨頂は地下食材売り場にアリ!

<青果>

忙しい、だけど自分で作りたい、 そんな意識高い系には最適!少量包装やカット野菜でコスパ最強

カット済みリンゴまでオーガニック。子供のスナックや栄養補給に便利

サラダ用のカット野菜も豊富。一人暮らしや忙しいママパパには最適

州内の契約農家から仕入れる果物や野菜類は新鮮で安全

<チーズ&ハム>

洋風おつまみの選び方やお酒とのペアリングも教えてくれるちょっと贅沢な大人のコーナー

サラミやハム類が充実。セットはパーティー時に利用したい

PBのパルメザンチーズ。毎日、店内で切り分ける。粉スタイルもあり

選りすぐりのチーズ。丁寧な説明とふんだんに試食させてくれるのが楽しい

<肉類>

生産農家から直送される鮮度抜群の肉類。日本人の家庭料理には欠かせない「薄切り肉」があるのも嬉しい

オーブンで軽く温めるだけのターキーの燻製。肉厚でお手頃価格

米系スーパーでは珍しい豚や牛肉の薄切り肉もここでは手に入る

契約農家からの肉が中心だが、中には高級な日本産和牛A5も並ぶ

<ゴールドパン>

自社開発の特殊トレイごと、一定時間一定温度でオーブンに入れるだけで高級レストランの味が家庭で楽しめる

付け合わせに便利な野菜のグリル。もう一品欲しい時に便利

冷凍ではない新鮮なカニをほぐす手間要らずで家庭でも食べられる

フレンチレストランで味わうような本格的なステーキ料理が再現できる

**SAKANAYA参上
ニューヨークの米系スーパー内に初の日本式鮮魚店**

ベーカリー、精肉、チーズ、デリカ、ピザなど店内各所に専門ステーションを設け、スペシャリストが親身に応対するのがこのスーパーの特徴だが、その一つとして同店が提唱する、全米でも珍しい「日本式」の鮮魚コーナーSAKANAYAが目を引く。

涼味たっぷりにかき上げた砕氷の上に色鮮やかに並ぶのは真鯛、赤鯛、金目鯛、真鯵、シマアジ、イサキ、本鮪に秋刀魚、アンコウなど。中には赤矢柄のように日本人でさえ調理法がわからない珍しい魚もある。週3回豊洲の市場から直送される魚たちはいずれも鮮度抜群で生産地明記。注文すれば専門の職人さんが、その場で切り身や三枚に下ろしてくれる。

こんな嬉しいサービスの提供は、日本の魚屋さん「魚力」とのコラボによって実現した。魚力は、東京・立川に本社を置く創業105年の老舗。デパートやモールを中心に鮮魚店チェーンを展開(現90店舗)するほか寿司レストランも経営する。2006年に米国法人Uoriki Freshを発足。(本社ニュージャージー州)ウェグマンズとは2007年に同店が寿司を商品化した時からの付き合いだ。

「いらっしゃいませ!」と日本同様に威勢良く店頭で声をかけるのは、日本から派遣された佐藤成就さん。「日本の魚屋の販売技術や商品開発などのノウハウをウェグマンズのスタッフに教えるのが私の役目です。1年間かけて米国人のチーフを育成します」。その期待のチーフがエイドリアン・ハチンズさん。11年前にサンドイッチ・コーナーの見習いバイトから始めてウェグマンズ一筋。4年前に寿司コーナーのシェフに抜擢されて以来、日本式の魚の扱い方を習得してきたが、鮮魚を切ったり商品化する技術の講習は今回が初めて。「寿司シェフ時代にさばいた魚は計40尾でしたが、佐藤さんの指導では初日から17尾おろしました。全く違う仕事です。初心に帰って『魚屋一年生』からやり直しだと思っています」と気概を見せる。

SAKANAYAの構想は、アスタープレース店開設決定当初からあった。周到な準備期間には、シーフード部門の主任を東京に送り込んで「魚力」の店舗で研修させた。「いらっしゃいませ」の掛け声も体で覚えさせた。「声が大きすぎて日本のお客さんが怖がったほどです(笑)」。何よりも彼らを感動させたのは東京の店頭に飾られた取引業者の千社札。「漁師や市場や卸売業者が一体になっている。魚業界のコミュニティー結束の強さの表れです。ウェグマンズの思想とマッチすると思いました」

SAKANAYAでは、日本の魚の隣に地元産の魚も並ぶ。「米国にもいい魚はたくさんあります。日本の調理法を使えばみんな美味しく食べられます」と佐藤さん。例えば、東海岸沿岸で有名なヒラメ。「こちらでは廃棄されるエンガワも、こうやったら美味しく食べられるという方法を教えてあげれば、みなさん目の色が変わります」。

福島原発事故の処理水問題で9月の対中国水産物輸出は、前年同月比で90%余減を記録した。だが、反動で米国向けは増加している。同じ9月に米下院議員が共和・民主の党派を超えて日本の水産物輸入奨励キャンペーンに参加したのが追い風になっているのかもしれない。ウェグマンズ+魚力の新しい試みが奏功すれば、ニューヨーカーの間で新しい魚食習慣が根づく日も近いだろう。

左から中間業者CCLのカイルさん、SAKANAYAのエイドリアンさん、魚力の佐藤さん、壁巣さん、CCLのアダムさん

マグロは赤みから大トロまで身が厚くて新鮮

豊洲直送の新鮮な魚はその場で捌いてもらえる

昭和5年創業の鮮魚専門店・魚力

東武デパート池袋店(東京)

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