日本人が失明する原因第4位の「病的近視」。急な「視力0.1未満」なら疑って

世界中で、全世代で近視人口が急増しているとWHOが発表(写真:PIXTA)

昨年、WHO(世界保健機関)が世界における「近視人口」の急増に注意喚起を行った。

世界中で、全世代にわたり、近視が増えているという。2010年に約19億人だった近視人口は、2030年には30億人を超えると予想されている。10年ごとの近視人口の増加率は、急激な右肩上がり。もちろん、日本も例外ではないようだ。

「スマホやタブレット、PCといったデジタルデバイスの登場により、近視人口が急増していますが、視力の低下だけでなく、同時に失明のリスクも上がっている人が増えています」

こう話すのは眼科専門医で二本松眼科病院、副院長の平松類先生だ。

「スマホや本を長時間見ていると近視が進みやすくなります。日常的に『4時間以上は見続けている』というような人は要注意です」(平松先生・以下同)

特にコロナ禍を経て視力に変化があった人は多かったようだ。

ある調査では、「コロナ禍に視力の変化があったか」という質問に対し、30%以上の人が「視力が低下した」と回答している。

その要因について、「パソコンに向かう時間が増えた」「スマホやタブレットを見る時間が増えた」が半数以上を占めていた。コロナ禍で、至近距離でスマホやパソコンなど、ブルーライトを放射する画面を長時間見続けたことで、その悪影響がわかりやすく視力に表れたようだ。

■「近視」の仕組みと「病的近視」との違い

視力低下の主な症状に近視がある。軽い近視の場合は、毛様体筋が水晶体を引っ張ってピントを調節しようとするが、近視が悪化すると、距離の近いものを見るときに焦点が奥にいきすぎて水晶体の調節をしてもピントが合わなくなっていく。

「近視が強度になると、ピントを合わせようと眼球のほうが奥へと長くなり、眼球が楕円形に変わっていきます。いったん形状が変わってしまった眼球の形状は、元に戻ることはありません。つまり、ここまで悪化した視力は、もう回復させることはできないということになります」

眼球の直径(眼軸)が長くなるほど、さまざまな目の悪化が生じ、病的近視という状態になりうる。

「強い近視だと、視力は0.1未満になっているはずです。眼軸の正常値は24~26ミリですが、27ミリ、28ミリと伸びていくと、病的近視になるリスクがどんどん上がります。病的近視は日本では失明原因の第4位にもなっています(公益財団法人・長寿科学振興財団「健康長寿ネット」HP)。中高年で強度の近視の方は、自覚症状が出にくいかもしれませんが、それまで使っているメガネの矯正視力が合わなくなったと感じたら、注意してください」

■「病的近視」が招く恐れのある怖い症状

病的近視の人は、網膜剝離、緑内障、黄斑症、白内障などを合併症として発症するリスクも上がるのだそう。

「網膜剝離は網膜がはがれて視野が欠けていき、放置しておくと失明に至ることがあります。緑内障は視神経や神経線維が傷んで視野が欠ける疾患です。点眼で悪化を食い止める治療がありますが、これも放置しておくと悪化の一途をたどります。黄斑症も中心部の視野が欠損したり、極端に視力が低下する疾患です」

いずれも、失明につながりかねない重大疾患なのだ。しかし、病的近視は外見からはわからないという難点がある。

「病的近視の判断は、眼球の詳しい状態を見るしかないのです。もしも不安があったら、眼科で眼底検査を受けてみてください。病的近視のリスクがあるかどうかがわかります。たとえば、方眼紙などマス目のある紙を見て歪んで見えないか、見えにくくないかを、片目ずつ確認してください。さらに、次のチェックリストで1つでも該当する人は、眼底検査を受けてください」

ただ、眼底検査は定期健診には含まれていないことも多いので、診療時には必ず近視の進行を確認したいという意向を医師に伝えたほうがスムーズだ。

【「病的近視」チェックリスト 】

□ 柱や床が歪んで見える
□ 暗い場所に入ると見えなくなる
□ 目の前に“飛ぶもの”が見える
□ 夜間の運転時、対向車が見づらい
□ 段差がわからず、転びそうになる
□ 歩いていて人や物にぶつかる
□ 何もないのに光が見える
□ 標識が見づらい

では、病的近視を予防する方法はあるのだろうか。

「まず、目に物理的な刺激を与えないこと。つまり、目をこすったり、眼球に強い圧力を加えないことです。そして、スマホや本を近距離で見ないように。遠ざけて見るようにしましょう」

また、外で遠くの景色を見るのもよいのだそう。

「太陽の光の下で景色を見ることが目にいいといわれています。太陽光がある時間帯に外を散歩したり、遠くを見る時間を長く持つことです。ウオーキングも全身の血流を活性化してくれますので、予防にはとてもいいです」

ふだんから、近くと遠く、左右上下と幅広く目を動かして目の筋肉を使うように心がけよう。

■「病的近視」を予防する色の濃い野菜を積極的に

栄養面でも補給できることがある。

「ルテインという栄養素は、硝子体の周りにある黄斑部や目のレンズである水晶体に多く存在する栄養素です。抗酸化物として目の老化を引き起こす活性酸素の働きを抑制するなど、目を守る働きをしてくれます」

ルテインは、野菜や果物に多く含まれるカロテノイド色素の一種で、モロヘイヤ、小松菜、ほうれん草、ブロッコリー、グリンピース、にんじん、かぼちゃ、アボカド、乾燥プルーンなど、色の濃い野菜や果物に多く含まれる。

1日あたりの標準的な推奨摂取量は6~10ミリグラム。これは小松菜なら約120グラム分だ。ただ、単一の食品からだけでなく、ルテインを多く含む野菜や果物をいろいろ食べることで、効果的に栄養が取れる。

「ルテインを継続的に取り続けることで、加齢による目の疾患のリスクを軽減できるといわれています。私も日ごろから注意して取るようにしていますよ」

目が見えることは健康で長生きするためにもとても大切なこと。異変があれば早めに対応するのはもちろん、ふだんから、なるべくスマホやパソコンから離れる時間を作り、目を休め、いたわる生活を心がけよう。

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