<移住前にリアル知って> 厳しい?「7カ条」に共感も

移住希望の夫婦に空き家を紹介する谷口さん(右)(和歌山県かつらぎ町天野地区で)

移住者の定着に向け“田舎暮らしの7カ条”を打ち出す地域がある。福井県池田町は1月、移住希望者向けに「池田暮らしの7カ条」を公開。「都会暮らしを地域に押し付けない」などの条文にネット上では賛否が割れた。実はこの条文のモデルは、和歌山県かつらぎ町天野地区。既に12年前に7カ条を作っていた“元祖”の同地区では、移住者世帯が地区の3割を占めるまでに増えている。

農業が主産業の池田町では、冬の除雪や夏の草刈りなど地域住民が共同で行う作業に「移住者が来ない」不満が高まっていた。町によると、「7カ条」は地域社会の一員になる覚悟を記したもので、かつらぎ町の条文を基に区長会が作った。

1月の公開後、「都市にはなかった面倒さの存在を自覚し協力してください」「品定めがなされていることを自覚してください」などの条文がネット上で炎上した。交流サイト(SNS)に「ムラ社会の闇」など批判が並んだ一方、「移住側としては親切でありがたい」との共感も少なくなかった。

町の担当者は半年後の現在、「町に注目が集まったことは成果の一つ。ただ、移住が増えるかはまだ分からない」と語る。

トラブル避け定着8割 “元祖”和歌山県かつらぎ町

一方、かつらぎ町天野地区は11年、「こんなはずではなかった」と悩む移住者を減らそうと、住民有志でつくる天野の里づくりの会が「田舎ぐらしの7カ条」を草案した。「プライバシーはないと思え」「農業で飯は食えないと思え」などあえて刺激的な条文にした一方で、理由を丁寧に説明する内容だ。

「農業」では、中山間地のため広い面積や耕作しやすい農地は少なく、「思い描く理想の農業は難しい」地域の実情を知ってもらうきっかけにした。

移住希望者からは「7カ条があるから田舎の常識を学んだ移住者が集まる。住民トラブルに巻き込まれる心配が和らぐ」との声も上がる。

同会の谷口千明会長は、地域としての本音を事前に伝えることで「移住者と腰を据えて向き合えるようになった」と語る。地区は毎年のように移住者が増え、定着率は8割、地区110世帯のうち移住世帯が3割を占める。関西都市圏からの子育て世帯が中心で、職業は農家、公務員、古民家カフェの経営などさまざまだ。

過疎問題に詳しい早稲田大学の宮口●廸名誉教授は「両町の条文は脅しに見えるが、むしろ田舎の価値をアピールしている。例えば『プライバシーがない』は『人と人とのつながりが強い』証拠。移住希望者の選択基準になるし、移住後の相互理解につながる」と評価する。

佐野太一

編注=●はニンベンに「同」

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