32年ぶりに伝統のダウンタウンコースが復活。インディカー・デトロイトGPはストリートに復帰で大成功

 NTTインディカー・シリーズ第7戦として開催されたデトロイトGPは、今年から“本当のストリートレース”に戻った。

 インディカー・デトロイトGPは、デトロイト・ダウンタウンの北部に位置するベル島の公園に設立されたコースの使用を2022年で終了。2023年は以前使われていたダウンタウンのコースへと戻ってきたのだ。

 以前のデトロイトGPは、街中の道路を使ったストリートレースであり、1982年から1988年まではF1グランプリが、F1が去った翌年の1989年から1991年までの3年間はインディカーが開催されていた。

 しかし、路面の状態が悪かったことや、テレビの視聴率を含めて興行的に成功と呼べない状況に陥ってしまったために、開催地をベル島に変更。さらにベル島でのレースも、移転以降毎年行われ続けたわけではなかった。

 興行的に振るわないという理由から2002~2006年にはレースが開催されず、2009~2011年はアメリカ自動車業界が不況に苦しんでいたためにデトロイトでのレース開催自体が断念された。そして再びカレンダーに組み込まれるも、2020年はCOVID-19が流行した影響からレースは行われなかった。それでもなお、ベル島でのデトロイトGPは1992年の初開催からから数えて計22回のレースが開催された。

2022年のデトロイトGP ベル島の公園を使った決勝レース スタートの様子

 ところが、ベル島でのレースが続いている間、ファンの間でダウンタウンレース復活を望む声が徐々に広がっていった。次第にシボレーの親会社であるジェネラルモーターズ(GM)も『自動車産業の首都として、ストリートレースを華々しく開催することが望ましい』と考えるようになり、デトロイトを本拠地としている多くの企業にも働きかけ、街の活性化に役立てるべくダウンタウンでのレース再開へ向けた活動が始まった。

 コースは、F1及びCARTシリーズ時代と同じくGMが本社を置くルネッサンスセンターを中心に設計されることになったが、レース開催中の都市部の交通をできる限り妨げないよう、コンパクトなレイアウトが採用された。

 そのため、全長は1.7マイルとシリーズのなかで最も短いものになった。コーナーは直角のものが大半を占めるが、オーバーテイクが頻発するよう、コースのほぼ半分の長さを持つバックストレートの先にタイトなヘアピンコーナーが配されたレイアウトとなった。

 デトロイトの新コースはピットも非常にユニークなものとなった。長いピットレーンを用意することが難しかったために、ルネッサンスセンター横の巨大駐車場を整備し、短く幅広のピットロードの両サイドにピットボックスを並べた“ダブルピットレーン”のかたちをとった。

両サイドのピットボックスとその間を通るダブルピットレーン

■バンピーなヘアピンで繰り広げられた激しい優勝争い

 新レイアウトでの初開催だった今回、走り始めたドライバーたちからあがった感想は、「コースは想像していたよりもバンピーではないが、ブレーキングゾーンの路面が悪く、制動距離がとても長くなってしまう。オーバーテイクが起こるように……という意図でデザインされたバックストレートエンドのヘアピンも、2台が並んでブレーキング競争をするにはバンピー過ぎてリスキーである」というものだった。

バンピーな路面を走るジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)

 さらにコース距離の短さは、プラクティスで大渋滞を引き起こしていた。前車との間隔を確保しようとコース後半セクションにマシンが列を作り、フライングラップを走り切ることができないケースが多く発生してしまった。

 しかし、予選本番は出場全車が一斉に走ることはないのでトラブルは発生せず、決勝レースでもコースの短さが問題になることはなかった。

 そして、ヘアピンへのアプローチでのブレーキング競争にレースではドライバーたちが果敢に挑み、近年稀に見る激しい優勝争いがアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)とウィル・パワー(チーム・ペンスキー)の間で繰り広げられ、アロウ・マクラーレンのチームメイト同士である、フェリックス・ローゼンクヴィストとアレクサンダー・ロッシのエキサイティングバトルもファンを沸かせていた。

 32年ぶりの開催となったダウンタウンストリートでのデトロイトGPは、観客動員数、テレビ視聴率、SNSでのフォローのいずれもがすばらしい数字を達成したという。

 日曜日の観客席は完売となり、コースの半分ほどに設けられた入場無料エリアにアクセスした人数も非常に多く、主催者発表の観客動員数は週末全体で15万人に達した。また、テレビ視聴率は前年のベル島開催レースの2倍となり、今年のインディカー・シリーズではインディ500に次ぐ2番目の視聴者数となった。

NTTインディカー・シリーズ第7戦デトロイトGP 観戦に訪れたファン

 新生デトロイトGPの初代ウイナーとなったパロウは、「とても楽しいレースだったし、自分の想像していたよりも良いレースになった。その理由のひとつは、コースのグリップが高かったことだ。週末を通じてコースが進化したのだと思う」と語った。

「デトロイトは素晴らしい仕事をしたし、観客も最高だった。あんなに多くの人々が今回が初開催だったイベントに集まってくれたということに感激した。来年に向けてさらに改良が進むだろうから、今からとても楽しみだ」

 ストリートコースへの復帰1レース目となった今年のデトロイトGPは非常に見応えのあるものとなった。来年はさらに多くのファンをデトロイトの街へと集め、テレビなどでの視聴も増えることになるものと期待されている。

アレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)とその走りを近くで見るファン

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