子40~70人死亡…年間に「DIPG」で 海外は治療法の研究活発、進まぬ日本「大人の病気優先」患者家族の思い

レモネードスタンドに立ち寄る通行人ら=西武所沢駅

 小児がんへの理解や患者支援のため、10、11日に全国一斉レモネードスタンドが行われた。埼玉県内では、小児がんの一種で脳幹部の内部に悪性腫瘍ができる「小児脳幹部グリオーマ(DIPG)」の患者家族らのグループが、西武線所沢駅の商業施設グランエミオ所沢でレモネードを配り寄付を募った。「小児脳幹部グリオーマの会」代表の貫井孝雄さん(57)=所沢市=は「日本は研究費用が少ないため治療法の開発が進まず、親は見守ることしかできない。レモネードで関心を広げ、国の動きにつなげたい」と期待を込めた。

 所沢駅では171本のレモネードを配り、約28万円の寄付が集まった。寄付金のうち経費を差し引いた残りは日本小児がん研究グループ(JCCG)に送り、研究費用に充てられる予定という。

 DIPGは顔や手足のまひ、ふらつきなどの症状が現れ、血圧や呼吸、意識の維持が困難になる。放射線治療で一時的に改善する場合があるが、根本的な治療法はない。年間40~70人の患者が亡くなり、多くは発症から1年以内に命を落とすという。

 貫井さんは12年前、1人娘の花恋ちゃん=当時(6)=をDIPGで亡くした。病気に関する掲示板をインターネット上で立ち上げ、情報交換を始めると「毎月のように悲しいお知らせが入ってきた」。海外では治療法の研究や治験が活発に行われるが、日本では進まない。「特に子どもの希少疾患の研究は利益が上がりにくく、海外で画期的な薬ができても日本の子が使えない『ドラッグラグ(新薬承認の後れ)』という問題もある」と嘆く。

 白血病の闘病経験がある入間市の女子高校生(15)は「自分も病気だったから」と活動に協力。「闘病仲間が以前レモネードスタンドに取り組んでいたが、自分でやってみるとなかなか大変」と話しつつ、積極的にレモネードを配った。母親(52)は闘病中に打たせられなかった予防接種の助成を受けるのに苦労したと明かし「当事者が声を上げなければ動かないこともある」と話した。

 レモネードを受け取り寄付をした医療事務の男性(43)=所沢市=は「大人の病気が優先されるが、少子化もあり、子どもの命を救うことは大事」と活動に共感。パートナーの女性(38)も「日本で治療が実現するよう、少しでも力になれれば」と寄付に込めた思いを語った。

 花恋ちゃんを失い活動を続けてきた貫井さんだが「心にぽっかり穴があいたまま。悲しみはなくならない」という。しかし「娘の闘病を無駄にしたら何のために生まれてきたか分からなくなる」と前を向いた。同じ志を持つ闘病経験者や家族の活動も全国で広がっている。新型コロナウイルスワクチンが短期間で開発されたことで「10年あれば変化があるかもしれない。この病気が克服される瞬間に立ち会いたい」と期待を募らせている。

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