「勉強見てあげる」から始まった性被害 「嫌だった。でも…」 子ども手なずけるグルーミング 広島の20代女性、小学時代の塾講師提訴

自身の体験を打ち明け、「性被害は遠い世界の話じゃない。苦しんでいる人も加害者も、身近にいるかもしれないことを知ってほしい」と話す女性

 先生に服を脱がされ、体を触られる。ずっと嫌だった。でも、見放されたくないと黙って従った。先生と自分は「特別な関係」だから。広島市内に住む20代の会社員女性は、そう思い込んでいた。それがわいせつ目的で子どもを手なずける「グルーミング」によるものだったと知ったのは、つい最近のことだという。

受験のためと誘われ、講師の自宅へ
 小学校高学年の時だった。「勉強を見てあげる」。通っていた塾の40代の男性講師から声をかけられた。受験のためと熱心に誘われ、昼も夜も塾や講師の自宅に行った。親も疑うことなく「勉強を教えてもらえるなら」と送り出した。

 講師の家族が寝静まったある夜、2人きりになった。一緒にゲームをしていると、服の上から下半身を触られた。「当時はそれが性的な行為とは分からなかった。何でそんなところ触るんだろうという感覚でした」と振り返る。

 中学生になってからも、「勉強を教えるよ」と自宅などに呼び出され、わいせつ行為は続いた。写真や動画を撮られることもあった。嫌がると「言う通りにしろ」と怒鳴る。行為はエスカレートしていく。「愛しているからこういうことをするんだ」と繰り返し言われた。

 当時はグルーミングなんて言葉も知らなかった。ただ次第に、行為に性的な意味があると分かっていった。でも「誰にも言っては駄目」「こんなにあなたのことを大切にする人は今後現れないよ」と言われ続け、親には必死で隠した。

「消えてしまいたい」「自分は汚い」
 会いに行くのも、わいせつ行為をされるのも、嫌なのに断れない。嫌われたくないと思ってしまう。自分を責めた。「消えてしまいたい」「自分は汚い」という感情も湧き、苦しかった。

 大学受験を終えると会う頻度が減り、20代になってやっと連絡を絶つことができた。大学の授業でジェンダー問題について学び、性被害を告発する「#MeToo」運動が注目される中で性被害者のニュースに触れるうちに、初めて自分の経験は「性被害」だと明確に認識できた。自分は悪くなかったんだ、と。

 ふとした瞬間に高い所から飛び降りそうになる、突然涙があふれて止まらなくなる…。「いつもぎりぎりのところで生きていた気がします」と女性は言う。

 「幸せを実感したことなんてないけど、自分はいま、こうやって生き残れた」。同時に、他にも被害者がいるかもしれない、被害者を増やしたくないと思うようにもなった。

 それから数年たった昨年夏、ようやく相談窓口に電話をかけた。弁護士にもつながって、今年2月に性被害が原因でトラウマ(心的外傷)症状に悩まされているとして、講師に対して損害賠償1100万円を求め、広島地裁に提訴した。

 16日に成立した改正刑法では、16歳未満に対するグルーミングが面会要求罪として新たに盛り込まれた。ジャニーズ事務所の前社長による性加害問題を巡っても知られるようになった手口。実際にグルーミングの被害に遭った女性が自身の体験を語ってくれた。

© 株式会社中国新聞社