「僕の血と汗と涙が」山下達郎が“聖地”中野サンプラザ解体に誰よりも憤る理由

「近年、日本のシティポップが世界的な人気となり、山下達郎さんの人気も再燃しています。7月26日には約4年ぶりとなるシングルも発売されます。ただ、達郎さん本人は浮かない表情をしています。いままで100回近く公演していたライブ会場の取り壊しが刻一刻と近づいているからなのです」(音楽関係者)

山下達郎(70)が最も愛しているライブ会場——それは中野サンプラザのことだ。

「同所は『全国勤労青少年会館』として’73年6月に開館しました。『中野サンプラザ』は公募で選ばれた愛称で、ホールでは、最多公演数を誇る山下さんを筆頭に、美空ひばりさん、松任谷由実さん、サザンオールスターズ、モーニング娘。ら、人気歌手のコンサート会場として全国的に有名です。往年のバラエティ番組『カックラキン大放送!!』(日本テレビ系)や年末恒例の音楽番組『年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京系)など、公開収録が行われた会場としても知られています」(前出・音楽関係者)

同所は再開発のため、7月2日で50年の歴史に幕を下ろす。地域住民や利用客だけでなく、有名人たちからも閉館を惜しむ声が——。

「歌手の方々に支持される理由の一つに音響のよさがあげられます。日本音響家協会が選ぶ『優良ホール100選』に選ばれています。また、収容人数は2222人で会場の一体感もあり、機材の搬入搬出もやりやすいと評判でした。近藤真彦さん(58)は『閉館はやめてほしいっていうのが本音。音響がよくてね』と語り、奥田民生さん(58)も『大きさがとにかくちょうどよかった』とコメントを残しています」(前出・音楽関係者)

現在、2カ月にわたって「さよなら中野サンプラザ音楽祭」が開かれており、稲垣潤一(69)、庄野真代(68)、五木ひろし(75)、南こうせつ(74)、イルカらが連日、登場するなか、7月2日のラスト公演に出演するのが、まさに山下なのだ。実はすでに山下は1月26日に同所でライブを行ったばかり。

「合間のトークで達郎さんは、『このホールからすべてが始まった。僕の血と汗と涙をこのホールは吸っている。走馬灯のように思い出がよみがえってきます』と、告白していました。いつまでも鳴りやまない拍手のなか、『今日は珍しく感傷的になっています』と涙ぐんでいたんです。

達郎さんファンには中野サンプラザはもはや聖地。閉館最終日にも出演することを決めたのは、彼の“聖地愛”にほかなりません。“プラチナ”チケットはすでに完売しています」(前出・音楽関係者)

山下は折に触れて、同所の閉館を嘆いていた。昨年6月に出演したラジオ番組『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ)で安住アナが、「中野サンプラザは解体予定が決まっている」と言及すると、山下は、「なんかね、何でも壊せばいいと思ってる」と憤っていた。

なぜ山下はここまで思い入れが強いのだろう。

■中野サンプラザが山下達郎のホームグラウンドになった理由

今年2月18日に放送された『山下達郎と上柳昌彦のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で、山下はその理由をこう語っていた。

「(中野)サンプラザはね、融通が利くっていうかね。でも1980年の5月1日っていうのが、『RIDE ON TIME』の発売日だったんですけど。そのときが生まれて初めてサンプラザでやった日でね。5月1〜3日って3日間と、12月25〜27日の3日間という。それが4年ぐらい、ずっと続いたんですね。それで、僕のホームグラウンドになったんですけども……」

前出の音楽関係者は言う。

「ハイトーンが持ち味の達郎さんは音響へのこだわりが半端なく、基本的に『大きい会場でライブをやりたくない』ポリシーの方です。中野サンプラザに関しては、設計上、六角形のアリーナになっているのですが、最大収容人数から120席ほど減らせば、達郎さんがライブの理想とする音響スペースに変えられる“唯一無二の場所”だといいます」

先ほどのラジオ番組でも同所の解体に関して、山下は憤激していた。

「でも本来だったらあそこ、ちゃんとリフォームしてね。耐震強度をアレして残せばいいのになって僕なんか思うんですけどね。日本はなんでもスクラップアンドビルドだから……」

1月の同所のライブでは、サプライズがあったという。

「アンコールでは妻の竹内まりやさん(68)が登場したんです。同所での初ライブ日に発売された『RIDE ON TIME』を夫妻でアカペラ熱唱し、観客の興奮は最高潮に達していました。

最後に達郎さんは観客の前でしみじみと語りかけたんです。『大変な時代になったけれど、心の安らぎをもって冷静に寛容に助け合っていきましょう。カッコよく年をとっていきましょう!』って。観客に手を振って去っていきました。

43年間の思い出が、夫婦であふれたのでしょうね。街の再開発やコロナ禍など、長い人生では自分の力ではどうしようもないこともある。達郎さんは『それでも、音楽の力を信じている』と話していたと聞いています」(前出・音楽関係者)

中野サンプラザの建て替えは不可避なものだったのだろうか。中野区役所に聞いた。

「そもそも『再整備していく』と打ち出したころから『まだまだ使えるんじゃないの?』という話は確かにありました。今の施設を生かした形で、まちづくりとして更新できないのかという話は議論としてはありましたが、施設の老朽化などから難しいということで(再開発を)進めてきたのです」(中野駅周辺まちづくり課の担当者)

中野サンプラザの解体後、近隣に新たなコンサートホールを作るという。

「隣接する区役所とサンプラザの敷地を一体にして再整備、再開発する予定になっておりまして、今、施工予定者の野村不動産グループから最大収容人数7千人のホールということで提案をされています」(前出・中野駅周辺まちづくり課の担当者)

2028年の完成を想定しているという。閉館最終日、感極まった山下は何を語るのか。彼の声のトーンがさらに上がりそうだ。

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