ABCお笑いGP、優勝候補は吉本所属2組「大阪にいる意味が」

『第44回ABCお笑いグランプリ』のファイナリスト12組が6月22日に発表された。今大会は賞レース常連の実力派からリベンジに燃える8人組、現役大学生のピン芸人など、例年以上に混戦が予想される。これまでの「傾向」が崩れる可能性もあるかもしれない。

文/田辺ユウキ

『第44回ABCお笑いグランプリ』ファイナリスト12組(C)ABCテレビ

総勢575組がエントリーした今回、決勝に進んだのは、ダブルヒガシ、ダウ90000、ハイツ友の会、こたけ正義感、オフローズ、ストレッチーズ、素敵じゃないか、サスペンダーズ、天才ピアニスト、友田オレ、ヨネダ2000、令和ロマンの12組。

同大会は、2011年までは関西を中心に活動する結成5年以内のコンビを対象に『ABCお笑い新人グランプリ』として開催されていたが、2012年より現大会名となり、デビュー10年以内の全国で活動する芸人へと門戸がひらかれた。リニューアルしてからは、かまいたち、ジャルジャル、霜降り明星、オズワルドらが優勝を飾るなどし、若手の登竜門として知られるようになった。

リニューアル後の全12回中、11回で吉本興業所属の芸人が優勝を飾るなど「吉本勢強し」は以前から指摘されているほか(唯一の吉本以外の優勝者は2018年のワタナベエンターテインメント所属のファイヤーサンダー)、コンビ以外が優勝したのも2015年大会のトリオ・GAG少年楽団(現GAG)のみ。漫才、コントなどのスタイル、人数などが不問の「お笑いの異種格闘技戦」ではありながら、そういった「傾向」があらわれている。ただ今大会は例年以上に混戦で、それらの顕著な「傾向」が崩れる可能性が大でもある。

■ MC山里亮太も反応、ピン芸人・友田オレって何者?

友田オレ(C)ABCテレビ

所属事務所でみると、「吉本所属」がダブルヒガシ、ハイツ友の会、オフローズ、素敵じゃないか、天才ピアニスト、ヨネダ2000、令和ロマン、「YOU GO sign」所属がダウ90000、「ワタナベエンターテインメント」所属がこたけ正義感、「マセキ芸能社」所属がサスペンダーズ、「太田プロダクション」所属はストレッチーズ、「GATE」所属が友田オレとなっている。

所属事務所で目を引くのが、現役早大生のピン芸人・友田オレだろう。「GATE」という事務所名にピンとこないのも当然。設立は2020年。所属タレントはベッキーがおり、ハリセンボンの近藤春菜は吉本と専属エージェント契約をかわしながら在籍。しかし著名なタレント数はまだそれほど多くない。ツイッターの事務所アカウントのフォロワー数も、ファイナリスト発表会見終了時でも50人ほどだった。

そんななか友田は2022年、ネタ特番『あらびき団 2夜連続!真夏の最強パフォーマー決定戦』(TBS系)に「お笑いサークル 現役大学生」(ちなみに早稲田大学のお笑い工房「LUDO」の一員)という触れ込みで出演。麻丘めぐみの楽曲「わたしの彼は左きき」(1973年)の替え歌を歌いながら、左ききでいろんな行動をする男性の様子をフリップ芸で見せて笑いをとった。友田のYoutubeチャンネルでも、このネタだけ再生回数が5万5千回を超えるなど「ヒット」している。

ファイナリスト発表会見ではMCの南海キャンディーズ・山里亮太が、独特の雰囲気を放ちながら壇上へやって来る友田を見て「なんてザワザワさせる人なんだ」と口にし、同じくMCのさや香も「すげえ。(予選で)ウケててね」「経歴も(特殊で)」と驚きの声をあげたほど。決勝でどれだけ爪痕が残せるのか楽しみである。

そんな友田からファイナリスト発表会見で「やっぱり人数の多さを生かして、一丸となってやれたらな」と引き合い出されるなど、なにかと絡まれた8人組・ダウ90000は2年連続の決勝進出となった。

ダウ90000(C)ABCテレビ

お笑いシーンの風雲児的な存在で、ライブチケットは入手困難と言われるほどの売れっ子にもなり、今回は堂々の主役候補。2022年大会では披露したネタが「これはお笑いのコントではなく演劇だ」などの論争を巻き起こした。その反応を受けてユニット主宰の蓮見翔は、自身のnoteで「コントと演劇の違い」と題し、本文一行目から「知りませんよそんなもの」「(演劇とコントの違いは)長さじゃない!?」など勢いよく書き込んだ。

ファイナリスト発表会見でも蓮見は「(前回は)全然ウケなかったし、(審査員の)陣内(智則)さんが『お芝居』って言っちゃったんで。良いコントだった、と言わせたい」と遺恨清算を宣言した。

■ ダブルヒガシ、天才ピアニストはどんなネタで勝負?

ダブルヒガシ(C)ABCテレビ

友田オレ、ダウ90000といった新星が話題となっているが、優勝候補にあげたいのは吉本所属の2組。

まずはダブルヒガシである。『ABCお笑いグランプリ』の決勝進出は2021年大会以来、2度目。2023年には『第12回ytv漫才新人賞決定戦』で優勝し、『第58回上方漫才大賞』でもトップバッターで登場して敗れたものの、大きな笑いをあつめた。後日、大阪の「よしもと漫才劇場」で開催された公演『ワーワーJAPAN』では、辛口の『上方漫才大賞』の舞台監督から「トップバッターでこんなにウケたのは見たことがない」と褒められたことも明かしていた。誰もが認める実力派の漫才コンビだ。

『ABCお笑いグランプリ』で披露されるかどうかは分からないが、ダブルヒガシの漫才『引越しの挨拶』は2023年を席巻してもおかしくない抱腹絶倒のネタだ。内容的にテレビで見せるには難しい箇所もあり、そのあたりがクリアできて披露されるなら『ABCお笑いグランプリ』の勝算は跳ね上がり、もちろんそのあとの『M-1グランプリ』でも決勝を狙えるはず。

天才ピアニスト(C)ABCテレビ

もう1組は『THE W 2022』で優勝した天才ピアニスト。2年連続で決勝の舞台を踏むが、ファイナリスト発表会見では、同じAブロックで戦う素敵じゃないかの柏木成彦が「天ピ(天才ピアニスト)が漫才するんか、コントするんかによってだいぶ(戦い方が)変わってくるんで」「天ピがコントやったら、漫才は僕らだけになるんで」とその存在を強く意識していた。たしかに天才ピアニストにとっても、漫才、コントともに勝負できるネタの数が豊富にある分、どちらをやるのか、その判断が重要になる。今大会の鍵を握ると言っても良い。

また、ほかのファイナリストが事前アンケートの自己アピール欄で特技を書いていた一方で、彼女たちだけ「優勝したら賞金でなにがほしいか」を回答。竹内知咲は「家にビールサーバーを設置する」、ますみは「家の水回りの掃除を業者に頼む」と優勝することを前提に話し、ますみは「ほんまに『ABC』獲らんと大阪にいる意味がない」とまで言い切った。ただ、天才ピアニストほどのコンビであればそれも決して強気発言には聞こえない。間違いなく優勝候補の筆頭だろう。

もちろん、2022年大会の準優勝者で『R-1グランプリ2023』でも敗者復活から決勝へ勝ち上がったこたけ正義感、『M-1 2022』敗者復活2位の令和ロマン、低いテンションから繰り出されるネタにハマる人が続出中のハイツ友の会など注目芸人が目白押し。誰が勝っても納得できて、誰が勝っても驚くような大会になるはずだ。

『第44回 ABCお笑いグランプリ』は7月9日、ABCテレビほか、ABEMAでも生配信される。

文/田辺ユウキ

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