ミツビシ・デリカミニ試乗「オフロードの走りを知り尽くしたプロが手がけた本格派」

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太がミツビシ・デリカミニを初試乗。四駆を知り尽くした開発者たちが“本気”を込めたSUVテイストのスーパーハイトワゴンの実力に迫る。

* * * * * *

 荷物の運搬を意味する“デリバリー”とクルマを意味する“カー”を組み合わせた『デリカ』のネーミングから想像できるように、1968年にデビューした初代デリカは人ではなく荷物を運ぶクルマだった。はじまりは、エンジンの上にキャビンを載せたキャブオーバー型のトラックである。翌年には3列シートを備えたワンボックススタイルの『デリカコーチ』を発売。盛り上がりつつあったレジャーユースの需要に応えた。

 オフロードのイメージを強くしたのは、1982年に2代目の『デリカ・スターワゴン』に追加された4WD仕様だった。パジェロのコンポーネントを流用し、多人数用途のワゴンにオフロード走行性能を付加したのである。以後、歴代デリカは現行の『デリカD:5に』至るまで、オフロード走行性能の高さが武器のひとつになっている。

 新型の軽スーパーハイトワゴンが『デリカミニ』を名乗ると決まったとき、社内の一部、具体的にいえばデリカの開発に携わっていた技術者たちがザワついたという。

「デリカを名乗るからには、下手なものは出せないぞ」という矜持と責任感からザワついたのだった。「では、ランサーは?」と聞けば、「ザワつくでしょうね、少なくとも私は」と、話を聞いた技術者は言った。カルチャーはまだ残っている。アウトプットの機会さえあれば、いつでも本領を発揮できる態勢だ。「デリカ」と聞いてザワついた人たちが腕によりを掛けて料理したのが、『デリカミニ』である。

 商品企画の観点でいえば、オフロードをイメージさせる外観を与えるだけでも良かった。その証拠に、2023年1月13日の東京オートサロン初日に『デリカミニ』が初めて展示されると、その日から始まった予約には5月24日までに約1万6000台の注文が入った。乱暴に言えば、中身の良し悪しはともかく、見ただけで注文した人たちである(テレビCMはじめ各種メディアで情報に触れた人たちを含む)。

力強さを表現するダイナミックシールドのフロンドデザインに、特徴的な半円形のLEDポジションランプを内蔵したヘッドライトを組み合わせ、親しみやすい表情としている。

 “デリカミニ”のネーミングと、ベースの『eKスペース』と違ってアウトドア感を漂わせるルックスだけでもある程度の勝負はできたかもしれない。でも、三菱自動車はそれでよしとしなかった。デリカの名称を冠するからには、その名に恥じないだけのオフロード性能を与えるべきだと考えたのである。

 『デリカミニ』には自然吸気エンジン(最高出力38kW、最大トルク60Nm)とターボエンジン(最高出力47kW、最大トルク100Nm)の2種類のエンジンの設定があり(トランスミッションはどちらもCVT)、それぞれに2WD(FF)と4WDの設定がある。最もデリカミニらしさ、三菱自動車らしさが味わえるのは、ターボの4WDだ。

『T Premium』のエンジンは3気筒DOHCインタークーラー付ターボチャージャーを搭載。

 2WDが155/65R14または165/55R15サイズのタイヤを履くのに対し、4WD仕様は165/60R15の大径タイヤを履く。これにより、タイヤの径の違いによる車高が10mm上がっている(最低地上高のカタログ表記では5mmの違い155mm→160mm)。オフロード走行性能を意識してのことだ。タイヤの指定内圧は250kPaでやや高めの設定。「転がり抵抗を小さくして燃費を稼ぐため?」と技術者に聞けば、「いえ、走りのためです」と返答が返ってきた。ケースのしっかり感を出す狙いだという。走りは、実際に『デリカ』を開発した技術者がセットアップした。

 ショックアプソーバー(ダンパー)は専用に開発。微低速域でも動きやすく、路面の凹凸をいなす特性を狙い、バルブの仕様を変更したという。試乗会場はキャンプ場で、点在するバンガローを結ぶように砂利道が張り巡らされていた。低速で走るのがやっとの環境だったが、それでも、よく動いて細かな凹凸をいなし、しっかり支えて腰から上はあまり動かさない頼もしい動きは確認できた。

 三菱自動車が制作した商品説明用の動画を見ると、『デリカミニ』は岡崎のテストコースにあるフラットダートを文字通り疾走していた。『トライトン』や『パジェロスポーツ』(いずれも国内未導入)など、本格的なオフロード走行が可能なフレーム付き車両を鍛えるステージを、澄まし顔で走るだけの性能は担保されている。

ミツビシ・デリカミニ『T Premium』

 4WDの制御も『デリカミニ』専用にチューニングされている。システムは、このクラスのクルマに一般的なビスカスカップリング式だ。(アクティブではなく)パッシブで4WDになる構造で、前輪がスリップすると差回転が生まれ(前輪>後輪)、プロペラシャフトを通じてカップリングユニット〜リヤデフ〜後輪にトルクが伝達される。

 『デリカミニ』では、その4WDシステムを定常走行時でも前輪>後輪となるようにわずかに差回転をつけておき、後輪に常にテンションがかかった状態にしている。そのため、雪道やフラットダートなどμ(ミュー:路面抵抗)が低い路面での走行性能が高まるだけでなく、オンロードでも横風に強くなり、ビシッとした姿勢で走れるようになる。

 走行性能を意識した『デリカミニ』専用チューニングはまだある。グリップコントロールだ。これは雪道やぬかるんだ路面などで駆動輪が空転した場合、空転している駆動輪にブレーキをかけることにより、路面をグリップしている駆動輪の駆動力を確保することで発進をサポートする機能だ。発進をサポートしてくれるのはありがたいが、エンジントルクを絞ってしまうので、前に進む力は弱くなってしまう。

 そこで、『デリカミニ』では、グリップコントロールが介入した際もエンジントルクの抑制を抑え、前にグイグイ進むように仕立てたという。『デリカ』、『トライトン』、『パジェロスポーツ』のロジックを取り入れたものだ。降雪期、自宅敷地内が雪に覆われても、除雪が行われている道路まで進んでいけるだけの能力は担保したと技術者は言う。

 『デリカミニ』公式キャラクターの『デリ丸。』を見ると、『デリカミニ』はほんわかしたキャラクターなのかと早合点してしまいそうだが、オフロードの走りを知り尽くした技術者が手がけた本格派である。ステアリングを握った印象は「頼もしい」のひと言に尽きる。いや、ひと言では足りなくて、オフロードの走りが頼もしいと実感した途端、クルマに乗る楽しみが倍増する。オンロードでもしっかりした乗り味を通じて専用チューニングの恩恵が味わえるのがいい。

ブラックを基調とした水平基調のインストルメントパネルに、ライトグレーをアクセントカラーに配置したデザイン。
ミツビシ・デリカミニ『T Premium』の操作系まわり
後席ドアは前後ともスライドドアを採用。開口幅は650mmを確保し、乗り降りのしやすさに貢献している。
シートは汚れが付きにくく、通気性の良い撥水シート生地を採用。座面や背もたれ中央部に立体的なエンボス加工を施すことで、蒸れにくく座り心地のよい機能的なシートとしている。
リヤシートは320mmの前後スライド量を確保する。
フロントバンパーとテールゲートガーニッシュには立体的なDELICAのロゴを採用。ボディカラーは2トーン6色、モノトーン6色の全12色を用意する。

© 株式会社三栄