フォードが3戦連続ポールも連勝記録更新ならず。ヒルとターキントンのBMWが完全制圧/BTCC第5戦

 6月17~18日にオールトンパークで開催された2023年のBTCCイギリス・ツーリングカー選手権第5戦は、直近の3戦で9戦6勝という破竹の快進撃を続けている元王者アシュリー・サットン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)が「どこまで連勝記録を更新するか」に注目が集まった。

 その約束どおり、戦前から「このトラックでもクルマはフィットするはず」と語っていた古豪モーターベース・パフォーマンスのエースが、予選から遺憾無くそのスピードを披露し、BTCCでは2015年以来となる3戦連続のポールポジションを奪取する。

 今季開幕以降、猛威を振るい続けるフォード陣営がこのまま決勝レースも席巻するかと思われたが、同じくシリーズ最古参のウエスト・サリー・レーシング(WSR)が意地の巻き返しを見せ、ジェイク・ヒル(レーザーツール・レーシング・ウィズ・MBモータースポーツ/BMW 330e Mスポーツ)がオープニングから連勝。そして選手権“4冠”の大エース、コリン・ターキントン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)も予選タイム抹消の波乱を乗り越え最終ヒートを制するなど、名門WSRが表彰台独占のワン・ツー・スリー・というエンディングを飾って、週末全勝を成し遂げた。

 好調サットン対し周囲のライバルも一矢報いるべく臨んだ短いサマーブレイク前の1戦は、シリーズポイント首位のドライバーのみ導入2年目を迎えた共通ハイブリッド機構のサポートが得られない規則を採用することから、FP1では王者トム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)が首位、続くFP2ではチームHARD所属の“伏兵”ボビー・トンプソン(オートブライト・ダイレクト・ウィズ・ミラーズオイル/クプラ・レオンBTCC)が最速タイムを奪うなど、シーズン前半戦で無敵を誇った『フォード艦隊包囲網』を形成する。

 しかし『トップ10ショーダウン』に向けた計時予選に入ると、その流れも一転。余裕の通過タイムを確信したサットンはタイヤ温存でポール争いに備え、セッション終盤に追い縋ったBMWのヒルや、リッキー・コラード(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGRスポーツ)、さらにFP2最速のトンプソンらを抑え貫禄の最速タイムをマーク。今季開幕から続くNAPA Racing UKのポール独占記録を継続する結果とした。

元王者アシュリー・サットン(NAPA Racing UK/フォード・フォーカスST)が、BTCCでは2015年以来となる3戦連続のポールポジションを奪取。リッキー・コラード(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGR Sport)らもトップ5に
前半戦はわずか1勝ながら、折り返し地点でランキング2位につける王者トム・イングラム(BRISTOL STREET MOTORS with EXCELR8/ヒョンデi30 Fastback N Performance)
ジェイク・ヒル(Laser Tools Racing with MB Motorsport/BMW 330e M-Sport)がレース1オープニングで先手を取る

「まさに“メガ”だね。クルマのリズムはとても良いし、セットは持ち込みからほとんど触っていない。ソフトタイヤで活き活きとしていているのもうれしいね」と表情を緩ませたサットン。

「NAPAレーシングUKにはいくら感謝してもし切れない。個人的に3戦連続のポールポジションだし、土曜日を終える最良の方法だ。明日はリヤ駆動の陣営が上手くスタートを決めてくるかもしれないが、こちらも全身全霊で応じるのみだ」

 そうライバルに言明されたFR陣営のWSRだが、なんと7番グリッドを得ていたエース車両が「燃料に関するセッション後の車検に適合しなかった」ため、最終的には予選タイムを失い、ターキントンは最後尾スタートへ降格することに。この結果により、皮肉にも僚友アダム・モーガン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)がトップ10に昇格することとなった。

 そんな失意の展開に奮起した強豪WSRは、明けたレース1のシグナルグリーンでフロントロウ発進のBMWが前輪駆動のフォードを仕留めると、序盤サイド・バイ・サイドで抵抗したサットンを封じ、ヒルが今季初勝利を獲得。同じく勝者のBMWがポール発進となったレース2でも、2番手サットンが背後のイングラムに執拗な攻撃を受け防戦一方の展開となったことにも助けられ、連勝でのシーズン2勝目を手にした。

 そして雨が降り始めるなか迎えた最終ヒートは、リバースポール発進となったモーガンの背後で、イングラムとサットンがお互いを牽制するようにスタートを切ると、フォードがピットウォールに押し込まれた際に接触。このアクシデントで116号車フォーカスSTのフロントサスペンションが破損し、サットンは力無くコースサイドでマシンを停める。

 車両回収のセーフティカーが明けると、ターン1で仕掛けたターキントンの動きに乗じ、ヒルも僚友モーガンに襲い掛かり勝負アリ。4冠王者ターキントンを先頭にヒル、モーガンと、BMW独占のポディウムが完成した。

序盤サイド・バイ・サイドで抵抗したサットンを封じ、まずはヒルが今季初勝利を獲得した
レース2では、2番手サットンが背後のイングラムに執拗な攻撃を受けて防戦一方の展開となる
後続のバトルにも助けられたヒルが、2戦連続で同じ顔ぶれの表彰台で頂点に立って見せる

■BMWが反撃の狼煙を上げる

「このレースの週末は目がくらむようだった! 2回の優勝、3回の表彰台、3回のファステストラップを獲得したことは素晴らしいし、これ以上言うことはないよ」と、大満足のリザルトを手にしたヒル。

「このクルマとチームは真のヒーローであり、今週末は本当に状況を好転させることができた。レース3はアダム(・モーガン)にとって残念だったが、コリン(・ターキントン)はOld Hall(オールドホール)のアウト側から非常に良い動きをしていたから、僕も次のターンでイン側に飛び込んで2番手を狙う準備ができていた。BMWのワン・ツー・スリー・フィニッシュを達成したのは彼らの功績であり、本当に素晴らしい気分だよ」

 一方、2戦連続2位と週末も好成績を維持したサットンは、最終ヒートに関してのみ「ピットで見守るのではなく、レース3の終わりまでコース上に居られた方が良かったさ!」と悔しさを滲ませる。

「少しずつコツコツと積み重ねてきて、満足のいく数字まで差を得るべく、最初の2戦でトム(・イングラム)の前でフィニッシュした。それなのにすべてが帳消しになってしまったんだからね……週末大量得点の努力が、ひとつのインシデントによってすべて台無しになった」と続けたサットン。

 同時に、ここでBMWが全勝を挙げたことがシーズン後半戦の展開を示唆するものだとの見解も示し「厳しい戦いが待ち構えている可能性が高い」とも付け加える。

「今季前半は僕らが勝利を重ねたことに悲鳴が聞こえてきたが、BMWはここで調子を上げ、ソフトタイヤで速いクルマを走らせた。つまりBTCCは僕らだけのショーじゃない。BMWはすぐそこに迫っているし、トムも着々とポイントを重ねている」

「見た目ほどの差はないし、今回そのマージンがさらに削られたのは理解すべきだね」

 その言葉どおり選手権首位サットンの183点に対し、2番手のイングラムは169点、3番手ターキントンが142点と、例年どおりの接戦となっている2023年シーズン。シリーズはここから短いサマーブレイクを挟み、7月29~20日の第6戦クロフトで再開される。

かつての名門から支援を受けるジョシュ・クック(One Motorsport with Starline Racing/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)も6位、5位、7位と安定して上位に喰い込む
レース3はセーフティカー再開明けにBMWの三つ巴状態に。ここでアダム・モーガン(Team BMW/BMW 330e M-Sport)が下がる構図に
「昨夜は27番手の最後尾からスタートしなければならないと分かって、少し落ち込んでいたが、最高の結末!」とレース3勝者コリン・ターキントン(Team BMW/BMW 330e M-Sport/右)

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