<レスリング>【2023年明治杯全日本選抜選手権・特集】勝因は24時間レスリング漬けの生活、「それでも足りない!」…男子フリースタイル74kg級・高谷大地(自衛隊)

 

(文=布施鋼治)

 「覚悟」が感じられた無失点優勝だった。

 男子フリースタイル74㎏級決勝で、高谷大地(自衛隊)三輪優翔(ALSOK)をアンクルホールドやローリングで攻め込み10-0のテクニカルフォールで完封勝ち。昨年12月の天皇杯全日本選手権も制しているので、プレーオフを待つことなく世界選手権出場を決めた。

 「決勝戦の相手が、いつも(木下貴輪)と違ったので、別の緊張感を持ちつつ闘いました。日本で緊張して思った力を出せないようでは、世界選手権に行っても恥ずかしい結果を出して帰ってくることになるので(力を出した)」

 初戦となった大関寛穂(国士館大)との2回戦(準々決勝)も10-0のテクニカルフォール勝ち。続く佐藤匡記(山梨学院大)との準決勝は5-0の判定勝ちだった。これまで全日本選手権やこの大会で4度優勝した経験がある高谷だが、失点「0」でのパーフェクト優勝は初めて。高谷は驚きを隠さない。

 「いつもは点取り合戦になっていた。今回はなかなかいい内容だったと思います」

▲3試合を通じて無失点。最高の形で世界選手権出場を決めた高谷大地(自衛隊)=撮影・矢吹建夫

肉体から満ちあふれている「覚悟」と「やる気」

 高谷のやる気は、初日(16日)に決勝進出を決めた時点で十分すぎるほど伝わってきた。インタビュースペースに現れた彼の後ろ姿を見ると、背中や太股まわりの筋肉の充実ぶりに目を見張るしかなかった。日々節制しながら練習を積み重ねていないと、レスラーとしての魅力に満ちあふれた身体にはならない。

 そうなるのも必然だった。今大会に向け、高谷は「チーム高谷」というべきサポート集団を結成し、身体作り、食事などを診てもらいながら調整に励んだというのだ。

 「とてもいい感じで進んでいました」

 しかし、大会の3週間ほど前になると、気持ちの浮き沈みが激しくなった。身体に力が入らない。高谷は「気持ちではやろうと思っているのに、身体が全然ついてこない」と振り返る。「オーバーワーク症候群だと思いました」

 大会初日になっても症状がよくなる気配はなかったので、高谷は妻に伝えた。「今回はダメかもしれない」

 しかしながら、思わぬところから援軍が現れた。応援のため会場を訪れていたいつも診てもらっている整体師に施術してもらうと、簡単に心の不調から回復したという。「気持ちと身体が一気にはまり、全てが力になる感覚を覚えました。『俺はもう負けない』という気持ちにもなったので、無失点優勝という結果が生まれたんだと思います」

▲兄(高谷惣亮)ほどではないが、勝利を華々しくアピールする高谷

レスリングをするときだけレスリングを考えている人には、負けたくない!

 2012年ロンドン・オリンピック男子フリースタイル66㎏級金メダリストの米満達弘コーチが傍らにいることも大きな刺激になっている。「米満コーチは『全ては練習。今大会の会場(東京体育館)の雰囲気も、意識してやりなさい』とアドバイスしてくれました。金メダリストが語る重みを感じています。毎日、常に吸収している感じですね」

 練習だけではなく、食事も睡眠も全てレスリングのために。パリ・オリンピック出場に向け、高谷は24時間レスリング漬けの生活を送っているという自負がある。

 「言い方は悪いかもしれないけど、レスリングをするときだけレスリングを考えている人には負けたくない。僕は、朝起きてから夜寝るまでずっとレスリングのことを考えて生活しています。それでも、まだまだ全然足りないと思いますけど」

 9月にセルビアで開催の世界選手権に向け、高谷は今以上に74㎏級の身体を作ろうと計画中だ。「世界の74㎏級を考えたら、身体をもっと大きくしないといけない。今のままだと、カイル・デイク(米国=昨年まで世界選手権4大会連続優勝)には歯が立たない」

 パリ・オリンピックで金メダルを取るまで、高谷は「昨日の自分を越えよう」と必死にもがき続ける。

▲世界の頂点にいるカイル・デイク(米国)。高谷は9月に世界へ再挑戦する

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