<社説>通常国会閉会 熟議なく乱暴な運営だ

 第211通常国会が21日閉会した。政府提出法案60本のうち58本が成立、成立率は97%に上った。防衛費増額の財源確保特別措置法や改正入管難民法、LGBTなど性的少数者への理解増進法などで与野党は激しく対立したが、熟議がないまま、与党は数の力で押し切り、成立させた。 議論を尽くさない法案審議が目立ち、当事者・国民不在の印象は否めなかった。乱暴な運営だ。岸田文雄首相の説明も不十分だ。国民や当事者の声を反映させる国会運営へ根本的に改めるべきだ。

 防衛財源法は2023年から5年間で総額43兆円を投じる大幅増額を目指すが財源は曖昧で、予算規模ありきだ。攻撃型ミサイルなど敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、法人税、所得税、たばこ税の増税に対する国民の反発も強い。野党は増税や税外収入、歳出改革などの見積もり根拠をただしたが、政府側はことごとく具体的な確保策を示さないまま最後まで押し切った。

 軍事力に頼らず紛争・対立の火種を除く外交努力に注力し、防衛費はむしろ削減すべきである。その分を少子化や物価高への対策など国民の喫緊の課題に回す方が得策だ。

 その少子化対策について岸田首相は24年度からの3年間に年3兆円台半ばを投入すると表明した。児童手当を拡充し、所得制限を撤廃するほか、育児休業給付を25年度から休業前手取りの実質10割に上げる方針だ。しかし財源確保策の詳細は結論を年末に先送りした。肝心な議論を国会で避けた形だ。「国民に実質的な追加負担を求めない」という首相の説明に疑問符が付く。

 人権への配慮が弱く、当事者の声を無視する姿勢が色濃く表れた法の成立も相次いだ。入管施設の長期収容解消を目的に、難民申請中の強制送還停止を原則2回に制限する改正入管難民法は人道に反する。本国で迫害を受ける可能性がある人を帰せば、命を危険にさらす恐れがあるからだ。

 LGBT法については、性的指向の多様性に関する国民理解が「必ずしも十分ではない」との現状認識を明記したものの、多数者に配慮する条項を設けた。これに当事者団体は「理解を進める取り組みが妨げられ、現状が後退する懸念がある」と抗議した。

 辺野古新基地反対の声も封殺された。「オール沖縄会議」が新基地建設断念を求める約56万筆の署名を基に衆参両院に提出した請願は与党など複数の政党が採択に賛同せず、審議未了となった。

 国会終盤ではマイナンバーを巡るトラブルが続出、自民と立民はマイナ問題に関する閉会中審査を開くことで合意した。討議の徹底を求める。

 その終盤に衆院解散が取り沙汰された。解散風は国会論議を党利党略に陥らせる恐れを招く。各党は政局に没頭せず、物価高や低賃金、財政再建など国民生活に直結する問題を直視し、国民目線で政策論議を尽くしてほしい。

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