金星のような厚い大気は存在しなかった ウェッブによる系外惑星「TRAPPIST-1 c」の観測結果

マックス・プランク天文学研究所(MPIA)の大学院生Sebastian Ziebaさんを筆頭とする研究チームは、「みずがめ座」の方向約40光年先にある太陽系外惑星「TRAPPIST-1 c」(トラピスト1 c)について、金星のような厚い大気は存在しないことが明らかになったとする研究成果を発表しました。

研究チームによると、TRAPPIST-1 cの昼側表面からの熱放射(波長15μm)を「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の「中間赤外線観測装置(MIRI)」で観測したところ、昼側の温度は約110℃(約380ケルビン)であることが判明しました。これは金星と比べて最大で390℃低く、二酸化炭素を主成分とした強い温室効果をもたらす厚い大気が存在しないことを意味するといいます。

【▲ 今回の研究成果を反映した太陽系外惑星「TRAPPIST-1 c」(左)の想像図(Credit: Illustration: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI); Science: Sebastian Zieba (MPI-A), Laura Kreidberg (MPI-A))】

TRAPPIST-1 cは赤色矮星「TRAPPIST-1」で見つかった7つの系外惑星の1つで、TRAPPIST-1のハビタブルゾーンから内側に外れたところを公転しています。地球と比べて直径は1.10倍、質量は1.31倍とされており、地球や金星に似たサイズの岩石惑星だと考えられています。

主星であるTRAPPIST-1までの距離は地球から太陽までの距離の約1.6パーセントと短く、TRAPPIST-1 cは潮汐力の作用で自転と公転の周期が同期した状態(潮汐ロック、潮汐固定)になっているとみられています。この場合、TRAPPIST-1 cの片側は常に昼、反対側は常に夜の状態が続くことになります。

赤色矮星は太陽よりも小さくて表面温度も低い恒星ですが、強い恒星風や紫外線を放出するため、惑星の大気を剥ぎ取ってしまう可能性が指摘されています。Ziebaさんは研究の動機について「TRAPPIST-1 cが大気散逸の運命から逃れてしっかりした大気を保持できたかどうか、そして金星に似ている可能性があるのかどうかを知りたかったのです」とコメントしています。

なお、TRAPPIST-1 cのさらに内側を公転する「TRAPPIST-1 b」に関しては、大気を持たない水星のような惑星であることがウェッブ宇宙望遠鏡の観測で明らかになったとする研究成果がすでに発表されています。

関連:ウェッブ宇宙望遠鏡が系外惑星「TRAPPIST-1b」の温度を測定 大気は存在しない可能性(2023年4月9日)

厚い大気が存在する可能性は除外されたものの、薄い大気がTRAPPIST-1 cに存在する可能性はまだ残されているといいます。TRAPPIST-1 cの大気の有無はウェッブ宇宙望遠鏡による追加の観測か、2030年頃までに観測開始が予定されているヨーロッパ南天天文台(ESO)の「欧州超大型望遠鏡(ELT)」による観測で明らかになると期待されています。研究チームの成果をまとめた論文は2023年6月19日付でNatureに掲載されています。

Source

  • Image Credit: Illustration: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI); Science: Sebastian Zieba (MPI-A), Laura Kreidberg (MPI-A)
  • MPIA \- Searching for an atmosphere on the rocky exoplanet TRAPPIST-1 c
  • STScI \- Webb Rules Out Thick Carbon Dioxide Atmosphere for Rocky Exoplanet
  • Zieba et al. \- No thick carbon dioxide atmosphere on the rocky exoplanet TRAPPIST-1 c (Nature)

文/sorae編集部

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