<書評>『絵でみる 沖縄の民俗芸能』 300演目、鮮やかイラスト化

 本著は沖縄各地で行われている「民俗芸能」をイラストで分かりやすく表現している。著者は、過去に組踊作品を紹介した『沖縄学習まんが 組踊がわかる本』を出版した人物である。著者は沖縄の各地に多彩な民俗芸能が伝承されていることを知り、その魅力を紹介したいという思いで製作したという。目次は南部・中部・北部・宮古・八重山と大きく5つの地域に分け、豊年祭やその他の行事に供される芸能を演目名およびイラストで紹介し、いくつかの演目には簡単な解説を施している。

 本著を評価したい点は、約300点の演目をイラスト化したことであろう。イラストのタッチは柔らかく衣裳・飾り・小道具までも細かく表現されている。どのページをめくってもその鮮やかさの虜(とりこ)になることであろう。さらに、地域を越えて似ている演目は、見開きのページに各地の独自性が分かりやすいように並べている点も評価したい。また、長者の大主、狂言の演目については、見開きで演目の流れがわかるようにイラストが工夫されている。どの狂言も実際に鑑賞したことがある者であれば、その舞台の様子が一目で甦(よみが)るに違いない。

 しかし、もうひとつ努力してほしい点も見受けられた。一つは、解説の中に出てくる「玉城盛重」「伊良波尹吉」などの人名についての解説がないことである。本書「巻末資料」には民俗芸能について簡単な解説がなされているが、こちらで重要語句についての解説があると、初心者にとっても理解しやすくなると思われる。二つ目は索引、もしくは詳細な目次がないことである。前述のとおり多くのイラストがあるので、演目を探すには、当該地区を知っていなければ容易にたどり着くことができない。3つ目は地域に伝わる組踊のイラストがないことである。

 しかし、民俗芸能に携わる人々にとっては、自身が演じた演目のイラストを見ると、うれしくなるだろう。評者も演じた「読谷村波平の長者の大主」を見た時には心が踊った。これから本格的に豊年祭シーズンが訪れる。まつりを見に行く前にぜひ読んでほしい一冊である。

 (鈴木耕太・沖縄県立芸術大准教授)
 かんな・るみこ 南大東村出身、イラストレーター・漫画家。主に広告のイラストを手がける。著書に「沖縄学習まんが 組踊がわかる本」などがある。

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