<レスリング>【2023年明治杯全日本選抜選手権・特集】最年長優勝記録の更新ならず! 三十路の後半の活躍は?…男子グレコローマン72kg級・井上智裕(FUJIOH)

 

 昨年のこの大会を「34歳10ヶ月」で優勝し、自らの持っていた3スタイル通算の最年長優勝記録を更新した男子グレコローマン72kg級の井上智裕(FUJIOH)が、今大会は大学を卒業したばかりの原田真吾(ソネット)に準決勝で黒星。記録の更新はならなかった。その後の3位決定戦は、昨年の全日本社会人選手権2位の選手にしっかり勝って銅メダルを獲得。三十路(みそじ)の後半へ突入しても変わらぬ実力を見せつけた。

 しかし、最初に出てきた言葉は「準決勝で負けて、力の衰えは実感しました。技術だけではカバーし切れないものがあります」-。“鉄人”とも言われる選手でも、やはり衰えはやってくる。「負けたことは悔しい」と言いながらも、「若い選手が出てくるのは、いいことです」と話し、後継者の出現をうれしそうに話した。

▲優勝は逃したが、表彰台はキープした井上智裕(右端=FUJIOH)=撮影・矢吹建夫

 昨年は、国体でも若手選手を退けて優勝しており、優勝を期待するのは決して過大評価ではない。しかし、国体の2ヶ月後の全日本選手権は「気持ちがつくれない」として不出場。そのため、実戦は約8ヶ月半空いてしまった。エネルギーを最大限に充電して出たはずの今大会だが、「期間を空けてしまったことも、勝てなかった一因かもしれません」と振り返る。緊張の糸が途切れてしまったのか?

 かといって、きつくても出場を続ければよかったのか、となると、はっきりした答えは出て来ない。「ひとつ言えることは、練習不足なんでしょうね」。現在は神奈川大のコーチをしながら自身の練習をやっている状況。通常の勤務をこなしているので、毎日出るわけにはいかないし、中心は学生選手の指導。勝つための練習に集中できないのは、やむをえまい。

 それであっても、ここまで強さを見せる35歳の銅メダリストには期待がかかる。全日本選手権の最年長優勝は、2015年に永田克彦が記録した「42歳1ヶ月」(女子は1991年44kg級・村田智子の「44歳8ヶ月」)。大会は違うが、それを目指して今後も選手活動を続けるのだろうか。

 優勝を目指すかどうかはともかく、闘える限りは断続的であってもマットに上がりそう。「若い選手の壁になれれば、いいと思っています」と話すとともに、「よく『非オリンピック階級はレベルが低い』と言われますけど、自分が頑張ってきた階級を、そんなふうに言われたくはない」と語気を強め、日本代表となる選手の世界選手権での活躍を期待した。

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